アルディスとの出会い2
「……デュークス…」
口に出す、懐かしいその名前。
彼は自分を迎えに来たのだろうか。
あの約束を守りに。
声をかけようとして、彼の目に懐かしい色も、何も無く、他人を見るような目で自分を見ている事に気づいた。
「……どういう…つもりだ?」
彼は、自分がわからないのだろうか、自分はそれほど変わったのだろうか。
怪訝そうにデュークスを見るアルディスの視線に気づけば、デュークスが目を顰める。
「忘れちまったのかよ…あいつ…」
アルディスの瞳に諦めの色が見える。
「…酷ぇ…な…」
ため息を一つついて、表情をいつものものに変える。
マスターがカウンターの吟遊詩人に話しかけ、アルディスの方を促しているのを見つけたからだ。
「あんたの探している魔術師かどうかは知らないが、この町隋一の魔術師は彼だ」
「お美しい方ですね。
あの人がそうなら、詩にもしやすいでしょうね」
そして、マスターがアルディスに手招きをする。
「何、マスター」
いつもの表情で、いつものように、振る舞う。
だが、足は鉛のように重く、歩きづらいように、アルディスには感じられた。
「この吟遊詩人が、都で評判の魔術師を尋ねて来たそうなんだが、お前さんかどうか、確かめたいんだそうだ」
「俺、知らねーな、そんな話」
即座に出された答え。
「で、どんな噂なんだ?
聞かせろよ」
そして、吟遊詩人が語る魔術師は自分に間違いない、と知るアルディス。
だが、自分から名乗る気はなかった。
「ふぅん…ま、がんばって探すんだな」
吟遊詩人にそう声をかけ、踵を返して、店の奥に向かう。
「……よぉ、久しぶり…」
だが、声をかけられて怪訝そうな顔を向けられた。
「俺は、お前にあったことはないが……?」
「…なっ…、お前っ!」
デュークスを見るアルディスの目がきついものとなる。
その視線を避けるようにして、グラスの酒を煽るデュークス。
「…忘れたって言うわけか?」
怒りを押し殺した、アルディスの声。
「お前、俺のことを忘れたって言うんだな?」
「…だから、お前とは初対面だ。
人違いだろう?」
「お前、デュークスだろ?」
「…そうだが…、なぜお前が俺の名を知ってるんだ?」
ごまかしているのても何でもなく、本気でアルディスを知らない、とその瞳が語っていた。
「…ち…ちっくしょう!
この嘘吐き…」
嘘吐き、と呼ばれたデュークスが立ち上がる。
「俺はお前に嘘吐き呼ばわりされる覚えはない……!」
「何だよっ!
俺の事もっ、約束もっ、…忘れちまったくせにっ!」
怒りを吐き出すように、口に出し、睨みつける。
そして、アルディスは背中を向けて、酒場から出ていった。
「何なんだ?
あいつは……?」
口に出されたデュークスの疑問。
なぜか、どこかで見た事のあるような、という考えがちら、と頭の端に浮かんだが、それもすぐに消えた。
「会ったこともないのに、どうしてあいつは俺の名を知ってたんだ…?」
だが、あの瞳の色と、明るい金に近い色の髪は、デュークスの胸の奥にしまってある、大切な思い出の中のものと、とてもよく似ていた。
そして、マスターが不思議そうな顔で、デュークスを見ていたのにも、気付かなかった。