アルディスとの出会い
「マスター、酒くれ……」
戸口から現れた、アルディス。
だが、この時点でアルディスが魔術師だと知っている人間は、マスターとボーダーの二人しかいない。
「よ、アルディス」
手を振って、アルディスに笑顔を向けるボーダー。
「出来たか?」
「ああ、出来たぜ。
ちょっと待ってろ、今渡すから」
昨日の注文品の受け渡しをここですることになっていたらしい。
「こんなモンだろ?」
アルディスの取り出したのは、華奢な作りの紅い宝石をはめ込んだ指輪が一つ。
しかし、ボーダーの指には、それはどうみても小さすぎた。
「注文通り、守護もかけといたぜ」
「ああ、ありがとう!
期待通りの出来だ!」
「…早く渡しに行ってやれよ」
ボーダーに優しく微笑むアルディス。
「ああ、今から行って来る!
そして、プロボーズだっ!」
「がんばれよ」
指輪を持って、立ち上がるボーダーに軽く手を振って、見送る。
「エリスによろしくな」
「ああ、ありがとう、アルディス」
嬉しそうに、酒場を出て行くボーダー。
恋人に指輪を渡してプロポーズするのだな、とその場にいた全員に知られてしまっていたようだが、そんな事を気にするでもなく、ボーダーは去って行った。
その後ろ姿を酒場の誰もが微笑みを浮かべて、見守っていた。
いや、たった一人を除いて。
皆がボーダーを見送っていた時一人だけ、アルディスの方を見つめていた男がいた。
奥のテーブルで、酒を飲んでいた年若い戦士が、じっとアルディスを見ていた。
「アルディス?
あいつもアルディス、と言うのか?」
アルディスを見つめながら、呟く。
彼の知っている人物が同じ名前らしい。
名前を呼ばれて、アルディスが奥のテーブルに目を向ける。
ソシテ、座っている戦士を見て、驚いた。
「……あれは……」
大切な何かを思い出すかのように、優しい表情を浮かべるアルディス。