酒場の魔術師7
「あの後、お前が帰った後、大変だったんだぞ」
「…悪かったよ…」
素直に、昔の事を誤るアルディスに頬をほころばせる、マスター。
「ま、過ぎた事だ」
「俺に絡んで来る奴が悪いんだよ……」
実はアルディスは何回か、酒場で騒ぎを起こしていた。
彼が、絡んで来た相手に容赦しないということを知っている、町の人間以外の旅人が、主に騒ぎの元であった。
酒場の床に、焼け焦げた跡があるのだが、それはアルディスが作ったものだった。
「町の人間と、俺の店だけは傷つけんでくれよな……」
そう言って、マスターが笑う。
「…善処する」
そして、グラスの中の酒を飲み干すと、立ち上がった。
「じゃ、おやすみマスター…」
「ああ、おやすみアルディス」
店から出ていくアルディスを見送り、呟いた。
「背、伸びたな…あいつ」
初めて会った頃より大人びて、身長も伸びていた。
「さて、店終いだ…」
そして、最後の明かりが消え、閉店となった。
陽が高く昇り、昼も過ぎた頃、昨日訪れた旅人たちが酒場に顔を出し始めた。
最初に訪れたのは、吟遊詩人。
「マスター、例の魔術師はまだ来てないんですか?」
酒場に足を踏み入れた途端に、口を開いたのがこれだった。
「まだ来てないよ」
微笑みながら、不在を告げる。
「来るって言ってたから、その内に来るよ」
マスターがそう言うと、吟遊詩人はカウンターの席に座り、軽い食事を注文した。
「よぉ、マスター。
アルディスいるかい?」
ひょっこり顔を出したのは、昨日アルディスに何やら注文していたボーダーである。
「いや、今日はまだだよ」
「そっか…、じゃあ末とするか」
店の奥のテーブル席に行き、座る。
たいていその席は、ボーダーの指定席のよゆうなものであった。
それぞれのテーブルに、アルディスを待っている人間がいた。
カウンターの吟遊詩人にボーダー、そして、噂の魔術師を一目見ようとしている戦士が三人。
吟遊詩人以外は何喰わぬ顔で食事をしたり、酒を飲んだりと、待っているそぷりはこれっぽっちも見せなかった。