過去、出会った頃
一人の若者がいた。
その若者は、まだ16歳ではあったが、家を出て、騎士という名前も捨て、ただの戦士として旅をしていた。
彼はずっと、何かを探していたが、それが何かは知らなかった。
彼自身も気づいてはいなかったが、彼はずっと探していた。
…己の、半身を……。
旅の途中で立ち寄った村で『森に性悪なゴブリンがいるので、退治して欲しい』と頼まれた彼は、僅かな報酬で、その仕事を受けることにした。
そこで彼の運命が待っていているとは知らずに。
彼の名は、デュークス。
家を捨てた彼には、己の名のみしかなかった。
森でゴブリン5匹と戦い、かろうじて倒したが、かなりの重症を左腕に負ってしまった。
血だらけの左腕。
このまま、半日も放っておけば、血が腐り果てて二度と使い物にはならなくなるだろう。
「…ドジを踏んだ…」
木の根元に座り込んで、空を見上げて呟く。
血が流れ過ぎて眠い。
だが、このまま眠れば、左腕は完全に使い物にならなくなるだろう。
立ち上がろうとするが、身体は血を失い過ぎて言うことを聞かない。
「…怪我…してるの?」
森の中から聞こえた来た声。
幻聴だろうか、と思った瞬間、再度、もっと近くから声がかけられた。
「…血だらけじゃ…、今手当するから…」
駆け寄ってくる人の気配に目を向けると、光を受けてきらきらと輝いている金に近い、長い髪がデュークスの眼に映った。
黒いローブを着た、自分と同じくらいか一つ二つ下の、可憐で美しい少女。
「う…酷い傷…」
デュークスの左腕の怪我に目を顰める。
「今、手当するから…」
痛まないように、デュークスの腕に
触れると傷口の布を取り除き、籠からむ取り出しした水筒の水で綺麗に清めていく。
「…ぅっ…」
荒い流された血の代わりに、何やら軟膏を塗られ、薬草が傷の上に貼られていく。
熱を持っていた傷口が、楽になっていくのをデュークスは感じていた。
「…ありがとう…」
礼を言うと、その少女が微笑んだ。
その微笑みに、綺麗だと思わず見とれてしまったデュークスがいた。