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夕陽が沈むとき




 君はずいぶん変わってしまった。半年間全く変わらない生活をしていたのに急に体がほとんど動かなくなってしまった。でもそれでも君は変わらず笑ってくれる。

 かけっこで一位になって嬉しそうに自慢してきたあの笑顔で。

 風になった時の楽しそうな笑顔で。

 夕陽で赤く染まった優しくて綺麗な笑顔で。

僕は君の笑顔が大好きだ。

 

 随分と口数が減ってしまった君が夕陽を見に行こうと行った。足が動かなくなって車椅子になっても僕はよく君を連れ出していた。今までと変わらない日常を僕と同じ景色を見せてあげたくて。でも体全体が動かなくなってしまってからは君もすぐ疲れてしまうようで断られてしまうことが多かった。だから君が行きたいって言った時は張り切って散歩に行った。

 君がやりたいように。君のためなら僕はなんだってしてあげよう。これはあの頃から変わっていない。君が夕陽を見たいというなら一緒に高い丘のある公園に行こう。


 この世界のどこかに幸せがあるのなら、僕はそれを君にあげよう。



「そろそろつくよ。寒くない?」

「うん。ありがとう、お兄ちゃん。」


季節は秋も終わり、冬に差し掛かるころ。夏に比べればかなり寒さが出てきた。でも夏に比べて空気が澄んでいて夕陽を見るにはいい季節だ。夕方の五時なんかに見るとまだ子供たちが遊んでいたり商店街もにぎやかで、活気ある町に沈む夕陽が見られる。僕は冬の夕陽のほうが好きだ。


「君は冬と夏、どっちの夕陽が好き?」

「…夕陽はいつでも好きだよ。」

「そっか。」


いかにも君らしくて思わず笑みがこぼれた。

 久しぶりに見に来たからかもしれないけどその日の夕陽はとても綺麗に見えた。僕は君と一緒に行きたくて一人では見に来ない。こんなに綺麗だったっけ。あったかくてきらきら輝いて町を赤く染めていく。 

 一番色が濃くなった時、僕は真っ赤に染まる君の横顔を見た。優しく眩しそうに眼を細めながら笑う君。君が笑うと僕も嬉しい。


「ありがとう。」

声に出た。いつも心の中で言っていた言葉。きっと君には聞こえないくらい小さな声で。

僕を幸せにしてくれてありがとう。この世界のどこかに幸せがあるとすればそれは君だ。君は僕の幸せ。ありがとう。




 そして君は沈んでいく夕陽でだんだん寒くなる町のように、だんだん冷たくなっていった。

僕は君の頬を触れながらまた同じことを繰り返している。でももう君から離れて去ったりはしない。君の頬に暖かさが戻ることはないとわかっているから。

 だからせめて君の頬よりちょっと暖かい冷えた手で、僕の中から溢れてくる妙に暖かい涙で、君を最後まで、できるだけ長く温もりの中にいさせてあげる。


 

 今ここにある、僕の幸せを君にあげよう。




 ここまでお読みいただき誠にありがとうございました。

 本作を掲載するにあたって多くの人にお世話になり、何か一つのものでも一人で作るのはとても大変だと実感いたしました。お手伝い頂いた皆様、読者の皆様に感謝申し上げます。


 短いお話でしたが少しでも皆様になにかを与えることのできる作品になっていたらこれ以上の事はありません。

 まだまだ至らない点ばかりですが、是非ご感想や考察などを残していただけると今後の励みになります。書いた身としてはやはり客観的な評価というものはとても大きな力を持ちます。そしてそれは新たな世界への鍵となりまた皆様の前にお目にかかることでしょう。

 そんなことを言ったところで私に書けるものなどたかが知れているのですが、もしよろしければこれからもお付き合い頂きたく思っています。



 最後の最後に少しだけ残っていますので次回またお会いできればと思います。


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