実験
「ここならいい感じだな」
俺はグルエラとアッシュを引き連れて、とある階層の荒野へと来ていた
「それじゃ二人には悪いけど、色々と付き合ってもらうよ」
「そんなご心配など必要もございません、キース様」
「グルエラの言う通りです。私達はキース様の下僕なのですから」
キース様というのは俺のこと
キースというのはよくゲームで使ってるユーザーネームKeysからなぞったものだ
魔王様、魔王様と呼ばれるのはなんか慣れないのでそう呼んでもらうことにした
ホントの名前は喜助なんだけど、喜助様って呼ばれるのは色々な抵抗があったため、キースにした
この名前を決定したのは俺がグルエラの殴打によって目覚めたことが発覚したすぐあとの事だ
これからどうするかを決めるということになり、そこで一番最初に提案した
そしてキースという名前になったあとこの世界で何が出来るかを調べるためにこの荒野に来た
ちなみにアルとエルはお腹が空いたのでご飯の用意をしてもらっている
「キース様、色々お調べるになると仰ってましたが何をなさるのですか?」
「とりあえずは俺が知ってるあの世界のことがこの世界でどれくらい出来るかを確かめてみたい」
「あの世界?」
「もしかして私たちが眠る前と今での変化をお調べようとなさっているのですか?」
「よくわかったなアッシュ」
「はい、この城に周りの地形が以前とはあまりにも違っているためその可能性も考えてはおりました」
そうかアッシュがこの城の外のことを調査したのか
グルエラもアッシュの話を聞いて確かにと思ってるし
アッシュの考えを正解と言ったが、正直違う
俺が言うあの世界とはゲームの世界のこと
今のところゲームの世界に入ったと仮説してるけど、ただグルエラたちがいてこの城があるだけで実は違う可能性もある
だからゲームの世界で出来たことをこの世界でも可能のか調べたい
もっと簡単に言うと魔法とスキルとかが知りたい
そして使えるなら早く使いたい
これが俺の本心である
「とりあえず魔法が使えるかどうか確認したい、グルエラ頼めるか?」
「はい、お任せ下さい」
俺とアッシュは一歩下がりグルエラを見てることにする
グルエラは一歩前に出て、その手に戦鎚ミョルニルを召喚した
思ったけどあの何も無いとこから武器を出すやつが出来てる時点で魔法は使える気がするんだよね
まぁ一応の確認だ
「では、いきますね」
そう言ってグルエラはミョルニルを構える
あの戦鎚実は魔法杖でもあるんだよね
というかカテゴリー的には魔法杖が主なんだよ、つまり殴れる杖という装備なのだ
「ライトニング!!」
グルエラがそう唱えると同時に目の前の荒野に雷が落ちる
本来ならあんな落雷見てたら眩しさで手をかざしたり目をつぶったりすると思うんだけど、なんか全然大丈夫だな
「魔法は正常に使えるようですね、キース様」
「あぁそうだな...にしても凄い威力だな」
俺はアッシュと話しながら、目の前に広がる焼け野原を眺める
「流石はグルエラといったところですね」
「まぁうちの中じゃ魔法に関してはアイツがトップだからな」
ゲームにおいて俺の配下で魔法が一番強かったのはグルエラだ
グルエラに関していえばトップ層なんだが、魔法に関しては群を抜いてた気がする
「どうでしたかキース様?」
「よくやったぞグルエラ、流石だな」
「お褒め頂きありがとうございます」
戻ってきたグルエラがスカートの裾をそっと持ちながら綺麗に礼をする
「グルエラ自身は魔法を使ってみてどうだった?」
「そうですね、久しぶりに使いましたが昔とあまり変化はないかと」
よし、これで魔法は正常に使えるようだな
「それじゃ次はスキルだな。頼むアッシュ」
「はい、お任せ下さい」
「使うスキルはなるべくテクニック系で頼む」
「承知しました」
次はスキル...つまり武器による近接技が使えるかどうかだ
「魔剣...創造」
アッシュが小さくそう唱えるとアッシュの両手に黒い剣が現れる
あれはアッシュが使える固有魔法の「魔剣創造」だな
ゲームではその名の通りMPを消費して武器を生み出す魔法だった
MPの存在の有無はよくわからんけど、魔力か何かを使ったと考えていいだろう
「なぁグルエラ、さっき何も無いところからミョルニル出てたけどどうやった?」
「ミョルニルですか?普通に念じるだけでございます」
「念じてるだけ?」
「はい、装備として設定していますので」
「それってどうやって設定してるの?」
「それはもちろんメニューからでございますよ、キース様」
グルエラが当たり前ですよ?みたいな顔ですごい重要なことを発言する
メニュー画面、そんなものまでこの世界にはあるのか
早めに確認したいとこだけど、まずはアッシュの方だな
「いきます」
アッシュはそう合図する
「エアリアルブレイド!!」
アッシュは2本の魔剣を華麗に操り、真空の刃を周りに発生させる
アッシュのその魔剣を振る姿は舞という表現が合うほど美しい
これでスキルの方も大丈夫だな
その後アッシュに労いの言葉を言った後に新たな検証をする
「自分が覚えてる魔法とかスキルを確認するのもメニューからでいいんだよな?」
「はい、そうでございますよ」
「メニューを出す方法はメニューと念じるだけ?」
「はい、その通りです」
メニューの出し方は俺の想定してた通りか
さっきからグルエラとアッシュにとっては常識なことばかり聞いてる気がするけど大丈夫かな?
でも怪しまれてる感じも特にないし、気にしても意味無いことか
とりあえず言われた通りメニューと念じてみる
「なるほど...」
目の前に表れたのはゲームの時の同様のメニュー画面だった
たぶんこれはタッチ式...よし、仕組みはよくわからんけど触れば反応する。タブレット端末を使用する感覚と一緒だ
色々の項目があるから気になるけど、あとで一人で調べた方がよさそうだな
「どうですかキース様?」
「あぁ問題なく使えるよグルエラ、二人はもうやったことあるかもしれないけどもう一度確認してみてくれ」
グルエラとアッシュはかしこまりましたと言って確認をはじめる
二人とも虚空に指を滑らせて何かをしている
どうやら他人のメニュー画面は見ることは出来ないみたいだ
この光景さ、まだ二人だからいいと思うんだ
例えば町の中とかでさ、多数の人間がこうやってメニュー画面をいじってたらものすごい怖いと思う
みんな虚空に指を滑らしてんだぜ?異様にも程がある
ただまだうちの四天王以外の人間に会ってないからなんとも言えないんだけどさ
なんなら四天王たちは人間じゃないんだけどね
「さて、俺も試してみるかな...」
俺は内心とても心を踊らせながら、2、3歩前に出る
「キース様もしや...」
「あぁ俺も魔法を試してみるよ」
「素晴らしい...あぁ素晴らしです、三千年ぶりにあなた様の魔法を見れるのですから」
グルエラが感極まった表情を浮かべる
そこまでのことなんだろうか...とりあえずものすごい慕われてるのはわかる
アッシュもアッシュでなにも言わないけど、ものすごい期待した目で俺を見てくるし
さて...何を使うおうかな
やっぱり一番最初はお気に入りのやつがいい
俺は手をかざして唱える
「グラビティ...!!」
俺が呪文を唱えた瞬間目の前の大地が唸りをあげて削れていく.........
ことはなかった
「あ、あれ?......グラビティ......おーい、グラビティやーい」
.........やばい、何も起こらない
なにこれ恥ずかしいんだけど
割とカッコつけてしまった自分がいる...
振り向くのがつらい......でも振り向かないとはじまらないか...
俺はそっと後ろを振り向くと、そこにまだ期待の眼差しをもった二人が映る
「なぁグルエラ、魔法って唱えれば使えるよね?」
「はい、使えるか魔力量さえ残っていれば意識して唱えれば魔法は使えます」
「だよなぁ...」
おかしい、何故か出ない
グラビティは俺がゲーム時代に最も使っていた魔法だ
魔力が足りないのか...?もしくはグラビティという魔法が使えなくなってるということか...?
とりあえず二つ目の可能性を調べてみよう
俺はメニューを開いてメニュー欄の能力を選択し、魔法のページを開く
「.........ん?」
そこで俺は妙なものを見つける
グラビティなども分類される魔王魔法が他の文字より薄くなっており、タッチをしても何も反応しなくなっている
魔王魔法は魔王だけが使えるかいわゆる主人公特有の魔法だ
その魔王魔法だけが選択できない、つまりなんかおかしい
俺はもしかして魔王じゃないのか?
俺はそれを確かめるためにプロフィールのページを確認する
その職業欄には職業・魔王となっている
だから俺が魔王であることには違いないのだろう。だけど魔王の魔法が使えない
いったい何が起こってる?
「魔王...難しい顔をされていますが、どうなされましたか?」
「.........ん?」
まずい、二人を無視してずっとメニュー画面とにらめっこしていた
考え事をしてる時難しい顔をするのは俺の悪い癖かもな
「グルエラ、アッシュ聞きたいんだが...魔王でありながら魔王の魔法を使えないってどういう状態だと思う?」
「魔王でありながら魔王魔法が使えない...?」
「キース様...それは...」
俺の質問を聞いてグルエラとアッシュの表情が厳しくなる
そして二人はその表情をしたまま俺に近づいてくる
「魔王様...すみませんが確認させてもらいます」
「確認...?」
「はい、では失礼します」
「へっ......?」
グルエラが俺のシャツを掴んで無理やり脱がしてきた
「......アッシュ、やはりこれは...」
「紋章が無くなっているな」
「紋章...?」
なんか聞いたことあるけど、イマイチ覚えていないワードが出てくる
あのゲームに関連することだろ...?
「もしかして...魔王の紋章のことか?」
グルエラとアッシュは厳しい表情のままうなずく
俺はただ一人そんな設定あったなー、と心の中で考える
魔王の紋章とは先代の魔王から俺がゲームの一番最初に引き継いだ紋章だ
確かその紋章とは胸に刻まれる刺青のようなものだったはずである
だが今の俺の身体にはそのような刺青はない
二人の表情から察するにあまり良くない状況のようだ
「アッシュ...可能性としては...?」
「わからない...だが魔王の紋章が失われることは無い。それこそ世界を一つ破壊する方が簡単な代物だ。つまり考えられるのは...」
「誰かに盗まれたということなのね......?」
アッシュが頷いたと同時にグルエラを中心に空気が震える
「...たしの...うさまの.........」
グルエラが拳を握り身体を震わせながら何か呟く
「私の魔王様から大事なものを奪った不届きものはどこにいる!!!殺す...絶対に殺す...!!」
グルエラは背中から一対の翼を生やし怒鳴る
先程までの温和な雰囲気のグルエラは消え、まさに悪魔とも言える恐怖を撒き散らし、怒りに満ちている
「お、落ち着けグルエラ!!」
怒るグルエラを宥めるためにアッシュが慌てる
あの慌てようは相当だな
怒り狂うってまさにこのことをいうのだろう
グルエラはほんとに穏和って感じだったが怒ると止まらないタイプなのかもしれない
確かゲームの時も狂化というスキルがあった気もするしな
アッシュだけじゃ止めることは出来ないだろう、止められるのはたぶん......主である俺だけなんだろうな
「殺す...殺す殺す殺す...殺す!!」
流石は悪魔といえばいいのか
角が生え、爪が伸びグルエラの見た目がどんどん悪魔じみていく
「おい、グルエラ落ち着け」
アッシュを制して声をかけるが俺の声は聞こえない
何度か名前を読んでみたが聞こうともしない
段々俺は思いはじめる
俺の下僕であるお前がなぜ俺の言葉を聞こうとしない
まさに下僕を統べる魔の王らしい感情が俺の中で膨れてくる
自分の感情でないような感情であったが、その感情は自分の感情と完全に混ざり合う
「グルエラ...俺の話を聞け」
決して大きくない、だが低く空気を凍らすような冷たい声が俺の喉から出る
グルエラは俺の声が聞こえたのか
ビクンッ、と身体を震わす
「あ...わ...私...」
グルエラは元の姿に戻りながら身体を震わし俺を見つめる
俺はゆっくりグルエラに近づき手を出すとグルエラは怯えた子供のようにまた震える
「.........やっぱりグルエラの方はこっちの方がいい」
「.........え?」
思っていた言葉とは違っていたのかグルエラは意外そうな顔をする
正直グルエラを怒る気持ちはあまりなかった
俺の言葉に耳を向けたからそれでいい
それに俺の言ったことは本心だしね
「あ、あの私...」
「グルエラ、俺のために怒ってくれたのはわかるけどもう少し落ち着いてほしい」
「す、すいません...キース様に謀反を起こした者がいると思ったらいてもたってもいられず」
「確かにその可能性はあるけど、まだ決まったわけじゃないだろ?」
まぁ二人の反応を見た感じ紋章を失った事実には変わりないんだけどね
「キース様、何か私めに罰を...そうせねば私は...」
「えー...」
いや、罰とかそういうのはいらないんじゃないかなぁ...
俺は困った顔で後にいるアッシュに顔を向けて助けを求める
「こ、こほん...グルエラ、キース様は別にお前に罰を与えようとはお思いにはなさってないからいいんじゃないか?それにキース様、そろそろ料理も出来上がっている頃合でしょう城に戻った方がいいかと思われます」
ナイスだアッシュ!!なんと素晴らしいフォロー、グルエラをなだめつつしっかりと話題を変えようとしている
「というわけだグルエラ、これからは気をつけるってことだけ約束してくれればかまわないよ。それにお腹もすいしたしね、そろそろ戻ろうか」
グルエラにはなるべく有無を言わせないように喋る
アッシュもそれに乗じて、「では戻りましょう」と言ってくれる
グルエラも俺たちの意図を察したのかわからないけど大人しくついてきてくれる
実際お腹はすいている
それにアルとエルの料理が楽しみだ