はじまり。
「ふぁ〜...雨ひでぇな」
自宅の窓から見える雨の激しさを眺めながら俺はそう呟く
「これなら明日休講もありえるな」
今日は日曜日、そして現在台風接近中
そしてその台風はかなりの強さときた
これが明日の朝辺りに直撃してくれたら大学は休講、憂鬱な月曜日がとても華やかなものになる
「ま、明日休講になるはずだから今日はひたすらゲームだな」
雨の日はゲームに限る、それしかあるまい
普段ならオンラインFPSやってるとこだけど、今日は時間があるから...
「久しぶりにあれやるか」
俺は本棚の一角に並んでいるゲームソフトの中からあるソフトをとりだす
『World is Mine』
いわゆるRPG戦略ゲームだ。内容としては自分は魔王となり、ゲーム内のとある世界を征服し、世界を征服した王として君臨するゲームだ
基本は自分の下僕、すなわちモンスターなどを生み出し、拠点となる城に配置し攻めてくる勇者、とある国の軍隊などを撃退するゲームである
このゲームの面白いところはこれがVRのゲームということだろうか
さながら自分が王様、それか軍師のように自軍を指揮できるという所だろうか
ただこのゲームひとつだけ問題がある
俺は二ヶ月ぶりぐらいに起動し、やはり思う
「...主人公強すぎる説」
いや、わかるんだよ?魔王だから最強の存在なはずだからさ
でもさ......
「なんかもう強すぎて戦術とか関係ないよな...」
リハビリついでに中級程度の勇者御一行を招いてみて、自ら戦場に赴いた次第なんだが...
「魔法一発打ってフィールドが荒野になるとは...」
完全に忘れていた、俺が作り上げた魔王様はやり込みすぎたあまりのぶっ壊れ性能を持っていることを
そしてこれに加え俺の配下には四天王と呼ばれる幹部のような存在がいる
そいつら俺とほぼ同等の能力を有しているんだよね
つまり一体で一軍に匹敵する戦力を保有している奴らが俺を抜いてまだ4人もいるわけだ
このゲーム初めて2、3ヶ月くらいは弱いモンスター達でどうやって敵の攻撃を防ぎ、敵を全滅させるかと考えていたが
強いやつが揃っていくたびにどんどん難易度が下がっていった
だからたぶんこのゲームは人気がないんだろうか、普通に面白いのに
発売当初はオンラインでプレイヤー同士の攻城戦とかあってすごい流行ったんだけどな
結局運営がメンテとかバランス調整をろくにしなかったからどんどん人が離れていった
俺もPvPの過疎化とPvEのつまらなさにしばらく離れてたくらいだしな
久々にやっても正直つまらないと感じるしな
まっ、俺としては別の目的でこのゲームを久々にプレイしてるわけだから問題ないけどな
「相変わらずこいつらは可愛いなぁ」
俺は目の前にいる2人の女性キャラを見て無意識に言ってしまう
双子のメイドのアルとエル
なにを言おうこの2人はさっき言った四天王の一角だ
種族は淫魔だ
別に淫魔という種族は強くはないのだが、可愛いのだ。そして身体がエロい、流石は淫魔と言ったところだ
それに強くないって言っても根気よく育てれば一点特化の超強力になるから問題は無い
姉のアルはパワー型、妹のエルはスピード型だ。それに2人とも淫魔の種族特性である魅了の能力も有している
ギャル系の見た目のアル、ゆるふわ系の見た目のエル
可愛くてエロくて強いメイド、最高だな
さてさて双子のメイドを楽しんだ後は......
俺はまた別の女性キャラに目を向ける
鎧に身をまとい俺に跪き、銀髪の長い髪を垂れ流している
俺は命令コマンドから立つように指示をする
俯いていて見えなかった顔が顕となる
簡単に言えば美形、男性とも女性とも言える中立的な顔立ち
もちろん俺の好みで女性だ
彼女の名前はアッシュ
最も特徴的な点と言えばその赤い唇の間から見える牙
彼女の種族はヴァンパイア
鎧を着てるからわかると思うが、彼女は騎士だ。みんな憧れの女騎士様である
そして俺は四天王最後の1人に目を向ける
なんというかもう言葉も出ないな
至高の中の至高、俺の絶対的理想ともいえるその姿が俺の目に前にある
彼女の名前はグルエラ
頭から爪の先まで俺の理想とも言える彼女は四天王最強の存在である
宝石よりも綺麗な長い毛先にウェーブのかかった黒髪スラリとした長い手足に白い肌
出る所は出て収まるところ収まっているモデル体型
雰囲気的にいえばお姉様系だろう
種族は悪魔、タイプとしてはバランス型。攻守ともにトップクラスに入る強さだ
ただグルエラが四天王最強と言える所以はそこではない
彼女は強力なモンスターを自前で生み出すことが出来るのだ
設定としてはティアマットという古代の神の化身ということらしい
神の化身にして悪魔、矛盾も感じるけどね
そんなことは彼女の美しさの前ではどうでもいいことよ
アル、エル、アッシュには悪いがグルエラの美しさは群を抜いている
ゲーム内のデータ上の存在だとしても彼女の美しさに俺は惚れている
ただ残念なことは触れられてないことだろうか、そこはゲームだから仕方ない
しかし4人とも美しく、そして可愛い
四者四様、みな素晴らしい
正直戦闘などしなくてもこの4人を見てるだけで2、3時間は潰せる
強さでも四天王だが俺のキャラランキングでも四天王だ
あぁほんとに素晴ら──
「へっ?」
突如として目の前が真っ暗になる
一瞬ブツンッという強烈な音が聞こえたような気がした
多分これはあれだ、停電だ
思えば外は台風だ、雷でも落ちたのだろう
とりあえずVRゴーグルを取って......
ゴーグルをとって...
ゴーグルを......
とれない...
なんだろう手の感覚という身体感覚すらないんだけど
え、なにこれ
もしかして俺のアパートに雷が落ちて、電線とかコードとかを伝ってその電撃が俺のVRゴーグルまで伝わってきて俺の脳にダメージを与えたとか?
ありえない話だとは思うけど、奇跡にも等しい確率でありえるかもしれない
何も感じない、あるのは俺自身の意識だけ
フワフワと流されるように感覚
ふと、またある一つの可能性を感じる
正直いちばん怖い結末だ
もしかしたら俺は死ん──
〈シンデマセンヨ〉
目の前にログのような電子表示が表れる
死んでませんよ...?
〈アナタハマダシンデマセンヨ〉
まだ死んでない?いったいどういうことだ?ものすごい不吉な予感が...
というかカタカナ読みにくいな!!
〈おっと、それは失礼。慣れない国の言葉でしたので〉
......途端に流暢なログになったな
〈あなたは生まれ変わる権利を得ました〉
〈転生しますか? ハイ イイエ〉
は?いったい何を言ってるんだ?
〈あなたは生まれ変わる権利を得ました〉
〈転生しますか? ハイ イイエ〉
再び出てくるこのログ
よく考えろ
生まれ変わる権利を得た
転生しますか?
と聞かれている
それで最初のまだ死んでないだろ?
つまり俺はゲーム中に死亡(多分原因は雷)
それでなんかよくわからないけど生まれ変わりをできる権利を得たからまだ俺は死んではいないというわけだ
〈あなたは生まれ変わる権利を得ました〉
〈転生しますか? ハイ イイエ〉
このロクが一定の時間感覚で表れる
なんかその時間感覚が徐々に短くなってるのは気のせいじゃないと思う
明らかに俺を急かしている
まだ生を楽しみたいならはいを
完全な死を迎えたければいいえを
みたいな感じだろうな
.........困ったもんだ
というか自分の冷静さが少し怖いな
でも自分の死になると人ってこういうものかもしれない
逆に現実味がわかないから、変に落ち着いてるのかも
まぁ痛みとか死んだという感覚を何一つ感じてないからかもしれないな
自分の時間感覚的は最初のログが表れてからかなり経っている
ほんとにどうしたもんか......
〈あなたは生まれ変わる権利を得ました〉
〈転生しますか? ハイ イイエ〉
と考えてるうちにまた出てくる
〈あなたは生まれ変わる権利を得ました〉
〈転生しますか? ハイ イイエ〉
また
〈あなたは生まれ変わる権利を得ました〉
〈転生しますか? ハイ イイエ〉
なんか間隔が一気に短くなってきてないか
〈あなたは生まれ変わる権利を得ました〉
〈転生しますか? ハイ イイエ〉
〈あなたは生まれ変わる権利を得ました〉
〈転生しますか? ハイ イイエ〉
〈あなたは生まれ変わる権利を得ました〉
〈転生しますか? ハイ イイエ〉
ちょ、ちょっと待ってくれ!!
〈あなたは生まれ変わる権利を得ました〉
〈転生しますか? ハイ イイエ〉
〈あなたは生まれ変わる権利を得ました〉
〈転生しますか? ハイ イイエ〉
〈あなたは生まれ変わる権利を得ました〉
〈転生しますか? ハイ イイエ〉
〈あなたは生まれ変わる権利を得ました〉
〈転生しますか? ハイ イイエ〉
〈あなたは生まれ変わる権利を得ました〉
〈転生しますか? ハイ イイエ〉
〈あなたは生まれ変わる権利を得ました〉
〈転生しますか? ハイ ──
わかった、わかった、わかった!!
イエス!!はいだよ!!転生でも何でもしてやるよ!!
俺は洪水のように流れてくるログに耐えきれなくなり答えてしまう
〈答えを承認、それでは転生を開始します〉
俺が答えたあとにそのログが表れる
〈注意・この転生において転生後の世界、転生後のあなたに関する責任の有無は問うことはできません。〉
そ、そうじゃないか...
なにに転生するとか、どこに転生するとかまったく説明されてないじゃないか!!
や、やばい...もしかしたら変なものに転生とか......
自分が恐ろしいことを考えようとした瞬間に身体感覚が戻ってくる
それでもまだ真っ暗
感覚戻ってわかったけど俺目をつぶってるな
つまり俺はもう転生をして、新たな現実にやってきたわけだ
なんか手のひらが冷たい感触が
たぶん硬い椅子に座ってるっぽいな
とりあえず目をあけるか、なんか不安しかないけど.....
「あっ...…」
「えっ......」
俺が恐る恐る目を開けると、そこにはグルエラの美しい顔が
その奥には二人並んで俺のことを眺めるアルとエル、そして跪き俺のことを心配そうに眺めるアッシュの顔が見える
さっきまで見ていたものと大して変わらない、なんというか存在感がいつもよりかなり増してるが
というかそんなことより
「綺麗だ...」
自分が思うよりも先に口に出てしまった
「ま、魔王様そんな皆の前でそのような言葉は恥ずかしいですわ!!......でも、でもご寵愛はごにょごにょ...」
俺の言葉にグルエラが恥ずかしそうに反応する
なんて綺麗な声なんだ、初めて聞いたけどなんというか俺の理想のまんまだ
.........ん、初めて聞いた?
つーか、あれ?グルエラって喋らないはずだよね?
「どうされまたした、魔王様。どこかお体の具合でも......」
「いやっ...その......え?」
グルエラが俺の手にそっと触れる
感触がある?どういうことだ?
自分でも訳の分からないことを言うかもしれないがこれってどう考えても現実じゃないか?
「魔王様?あの、魔王様?」
訳が分からない、一体何が起こってるんだ?
「はぁ...はぁ...なんだ...くそっ」
自分の呼吸が荒くなり、息を吸うのでさえしんどくなってくる
「魔王様!?大丈夫ですか、魔王様!!」
あぁ大丈夫──って言いたいけど、声出ないな、くそ
やばい、段々前が見えなくなってきた......
閉じかける視界の中で俺のことを必死に呼びかけるグルエラ、そして俺のそばまで駆け寄ってきたアルとエルとアッシュの姿が見える
意識が飛びそうなんてことはどうでもいい
やっぱみんな可愛いな──