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急転直下の不運

 翌朝。

 眠りから目覚めた私は、籠で作った寝床で寝ている空色の動物の様子を確認した後、着替えを済ませ、朝食を作って食べた。

 そして悩んだ後、パンとミルクをそれぞれお皿に入れ、動物の側に戻り、起きるのを待つ。


「この子、今日は気がつくかなぁ……。ご飯は何を食べるんだろう……。パンとミルクなら、大丈夫だと思うんだけど」


 そう独りごちながら、そぅっと優しく、ゆっくりと空色の動物の背を撫でる。

 しばらくそうしていると、ふいに空色の動物の目が開いた。

 瞬間、あ、起きた、と思って『おはよう』と声をかけた刹那、空色の動物は勢いよく私から距離を取り、唸り声を上げてこちらを威嚇してくる。


「あ……えっと、ごめんね、驚かせちゃったね」


 私は距離を取ったまま、離れた空色の動物に向き直る。

 ええと、知らない人と場所に怯えて警戒する動物に安心して貰うには……慣れてくれるまで、焦らずに、一定の距離を保って優しく話しかけたりすればいいんだっけ……?

 あ、でも、食事もして貰わないと……う~ん、私がまず一口食べてから渡せば食べてくれるかなあ?


「あ、あのね、君は街の近くにある湖で倒れてたの。ポーションかけたから、怪我は良くなってると思うんだけど……体力とかを戻す為にも、ご飯、食べよう? ほら、パンとミルク用意したの! おかしなものは、入ってないからね?」


 きちんと空色の動物の目を見てそう言うと、私はパンをひとかけ千切って口に入れ、スプーンでミルクをひとさじ掬って飲んだ。

 そしてそのお皿をそっと空色の動物の前へと押しやる。


「さあ、食べて?」


 空色の動物は少しの間お皿をじっと見つめていたけれど、やがて食べ始めた。

 その様子を見てホッとする。


「それを食べたら、騎士団に行こう。昨日ね、君の飼い主さんを探してあちこち行ったの。そしたら騎士団の方に何か心当たりがあるみたいで、聞いてみてくれるって言ってたから、その結果を聞きに行こうね」


 理解はされないとわかっていてもそう語りかけると、空色の動物はひと声『クゥ』と鳴いた。

 まるで返事をしているようなそれに、思わずくすりと笑みをこぼす。

 ……この子は無理だろうけど、ペットを飼うのもいいかもしれない。

 まあ、ペットにも宿代がかかるから、なんとかもう少し稼げるようになってからには、なるだろうけど。


★  ☆  ★  ☆  ★


 騎士団へ行くと、心当たりを尋ねに行ってくれてる人は、まだ帰っていないらしい。

 そこは時間のかかる場所らしく、いつ帰るかわからないから、明日また来てくれとの事だった。

 そうして騎士団から出て家へ向かって歩いていると、空色の動物はやはりまだ本調子ではない為か、私の横を歩く速度が次第にゆっくりになってくる。


「……ねぇ、もしかして、疲れた? 良かったら、私が抱いて運ぼうか?」


 見かねてそう声をかけると、空色の動物は『クゥ』と小さく鳴いて頷いたように見えた。

 しゃがんで手を伸ばすと、その手にすり寄ってくる。

 どうやら、信用して貰えたらしい。

 優しく抱き上げて再び歩き出すと、やがてうとうとし出して、そのうち腕の中で眠ってしまった。

 すやすやと寝息を立ててるその姿が可愛くて、ついついその背を撫でてしまっても全然起きない。

 よほど深く眠っているようだった。

 本当に可愛い。

 ……このまま飼い主が見つからなければ、この子とずっと一緒にいられるのに。

 ふとそんな事を考えてしまい、慌てて首を振る。

 いけないいけない、この子にとっては飼い主の元に帰るのがきっと一番の幸せなんだから。

 私、一人でいるのが思っていたよりもずっと寂しいのかもしれない。

 これは本気でペットを飼う事を考えないとならないかなぁ。

 そんな事を考えながら歩いていると、ふいに誰かに肩を掴まれ後ろに強く引かれる。

 驚いてバランスを崩し、たたらを踏みながらも振り返ると、身なりのいい数人の男女と、一際高級そうなドレスを身に纏った少女がいた。

 その人達はじろじろと私を……いや、私の腕の中にいる空色の動物を見てる……?


「如何ですか、お嬢様?」

「……ええ、間違いないわ。その色、その毛並み! 見つけたわ!」

「まあ、それでは……! 良かったですわね、お嬢様!」

「ええ!」

「???」


 突然私の足を強引に止めておきながら、私そっちのけで話しを始めたその人達に、首を傾げながら怪訝な視線を向ける。

 が、よくよく見てみるとその中の一人に、見覚えのある顔があった。


「え、せ、先生……! お、お久しぶりです。……あの、私に、何か?」

「え? "先生"って……アン先生の事? アン先生、貴女、この女と知り合いですの?」

「……ああ……そういえば。どこかで見た顔と思ったら。どうやら同郷の者のようです。ですがそれだけで、私とは何の関係もありませんわ、お嬢様」

「え」

「あら、そう。貴女と同郷なら、異界の者なのね。……なるほど。それで生活に困窮して、こんな犯罪に走ったのね」

「え? は、犯罪……?」

「ええ、恐らく。同郷の者として恥ずかしいですわ。誘拐をするなんて。貴女、恥を知りなさい」

「へ? ゆ、誘拐……って、わ、私が!? そんな!? 先生、私そんな事してません!」

「まあ、惚けるつもり? なら、その腕の中のお方は何なのかしら?」

「え、この子? こ、この子は迷子で……」

「まあ白々しい! 騎士達、さっさと捕らえて頂戴。ふふっ、王子殿下をお救いできるなんて、やったわ! 危険を顧みず危機を救った私に恋に落ちて下さったりするかもしれないわ! ふふふ!」

「え、お、王子って? え、ちょっと、待って、やめて! 私何もしてない……! やめて、離して!!」

「大人しくしろ!」

「……先生、先生助けて! 私誘拐なんて知らない、本当に何もしてません!」

「……はあ。素直に罪を認めたほうが、貴女の為よ?」

「なっ……!?」

「大人しく連行されなさい」

「……せん、せ……っ」


 その後、私が何を言っても聞き入れられず、取り調べで折檻されそうになるも、攻撃無効のスキルによって振り下ろされる木の棒は当たらず、しびれをきらした騎士様によって、私は全てを認めて正直に話すまで食事を与えられず牢に閉じ込められる事になった。

 ……誘拐なんて、してない。

 ……仲間なんて、いない。

 ……正直に、話しているのに……っ!!

 ……きっと、私はこのままここで、飢え死にするのだろう。

 縛られたまま冷たい床に横たわる私の頬を、涙がいく筋も流れていった。

ちょっと展開が急すぎた気がしなくもない……(^_^;)

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