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とある少年の溜め息

 食べたいと言われたおやつを厨房から貰って部屋に戻ると、そこに主の姿はなかった。

 テーブルの上には、"かくれんぼをする。鬼はお前。それを食べたら探し始めろ"との主の書き置き。

 ……やられた。

 どうやら今日の自由時間の過ごし方は事後承諾での強制的かくれんぼに決まったらしい。

 俺は溜め息を吐くと椅子に座り、指示通りに、まずはおやつを自分の胃におさめてしまう事にした。

 今日のおやつは主の好物だったが、知ったことか。


★  ☆  ★  ☆  ★


 主が、どこにもいない。

 居住エリアをしらみ潰しに全て探し終わって出た結論に愕然とした。

 いくら悪戯好きの主とはいえ、居住エリアを出て、あらゆる人々が仕事をしている場所を遊び場にしそこに隠れるとは考えられない。

 かくれんぼは間違いなく居住エリア内でするはずだ。

 なのにいないという事は、考えられるのはーーーー拉致。

 そう結論づけると、俺は急いで主の父君の元へと足を向けた。

 すると、その途中で主の兄君の一人と会う。

 彼は早足で歩く俺を見ると、にやりと口元を歪めた。


「何だ、あれがいないのか? さっきは『いつものかくれんぼです』とか言っていたが、どうやら騙されたようだな?」

「……騙された? それはどういう事です」

「いやぁ、昨夜、話の流れで俺の少し前の武勇伝を語って聞かせたんだが、『似たような魔物はどこかにいないのですか?』と問われてな。近くの湖に最近住み着いた魔物がいるらしい事を話したんだ。そしたらずいぶん目を輝かせていたものだからな。さっきお前に『かくれんぼ』だと聞いて、もしかしたら、とは思ったんだが。……当たりだったらしいな?」

「っ! 近くとは、どこの湖です!?」

「ウォズレイン湖だ。……まあ落ち着け。あそこに出没する程度の魔物なら、あれでも十分倒せる。心配はない。今頃は退治し終えているだろうから、素材の運搬に何人か連れて行け。その魔物、図体だけはでかいらしいからな」

「っ。……今後は、そういった事は思ったその場で口にして下さるようお願い致します」

「考えておく。……だが、時には冒険させる事も必要だぞ?」

「万が一がございます! お一人で魔物退治など! もっと危険度の低い冒険になさって下さいませ!」

「問題ない冒険だと思うからさせた。無傷とは言わんが、軽傷だろうさ。行けば胸を張って武勇伝を語られる事だろう」

「……っ! 失礼します!」


 全く悪びれない兄君にこみ上げる怒りを抑えて頭を下げると、踵を返して更に速度を速めて歩き出す。

 指示通りに運搬用の人手を見繕って湖に行くと、そこには横たわる魔物の亡骸と、幾つかの血の跡だけが残っていて、主の姿はどこにもなかった。

 手分けして周辺を探したが、どこにもいない。

 行き違いになったかと思って魔物だけ回収して戻れば、まだ帰っていないとの事で。

 もう一度湖へ向かって再度辺りを捜索しても、その姿はなく……。

 事の次第を全て主の父君に報告すれば、原因となった兄君が父君に殴り飛ばされた後、密かに捜索隊が組まれた。

 けれど、夜が明けてもまだ、主は戻らなかった。 

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