空色の動物 1
皇都に戻った私はギルドで依頼完了の手続きを済ませると、ギルド職員さん達や冒険者さん達数人に空色の動物を見せ、どこの子か知らないかを尋ねてみた。
しかし、結果は。
「う~ん、知らないなぁ。俺達は一般の子供にまで興味ねえしなあ」
「毛並みが艶やかで整っていますし、どこかいいところのお坊っちゃまかお嬢様かもしれませんね。ギルドより、騎士団で聞いたほうがいいかもしれません」
「ああ、そうだね! 彼らは皇都の見回りも仕事のうちだから、見かけた事があるかもしれないよ」
との事だった。
そっか、わからないかとガッカリしつつも、騎士団で聞くという方法を教えて貰えた私は、なるほどと、騎士団に向かう事にした。
……けど、"いいところのお坊っちゃまかお嬢様かもしれない"っていうのはどういう事だろう?
そういう子供に飼われている動物かもしれないって事なのかな?
ギルドの人達の言動に首を傾げながらも動物を腕に抱き歩き続け、騎士団に着いた私は、そこにいた騎士様方に空色の動物を見せて回った。
けれど、結果は。
「う~ん……悪いが、見た事がないな」
「空色か……その色を纏う方々に心当たりはあるが……聞くにも、俺達じゃなあ」
「ああ、あの方々か……! 確かに、俺達じゃお声がけは無理だな。これは、団長に頼るしかないな」
「そうだな。可能性でしかないが、もしあの方々のお子なら大事だ。すぐに団長に事情を話して確かめて貰うとしよう」
「ああ。……だが、皇都の子ではないただの一般の旅行者の子という事も考えられる。すまないがお嬢さん。真偽がはっきりするまで、その子は君が保護していてくれないか」
「え……はい……? わかりました……」
との事だった。
頷いて、仕方なく私は自身が泊まっている宿の場所を騎士様に伝え、動物を連れて帰る事にした。
……でも、"あの方々のお子"とか"一般の旅行者の子"っていうのは何だろう?
そういう子が飼っている動物かもしれないって事なのかなあ……?
騎士様方の言動にやっぱり首を傾げながらも歩き続け、宿に着いた私は、店主のおじさんに声をかけられた。
「アカリちゃん、その子どうしたの?」
「あ。……あの、迷子みたいなんです。すみませんが、飼い主が見つかるまで、部屋に置かせて貰えませんか? 床とか家具に傷はつけないよう気をつけますから!」
「迷子? でも……飼い主って……? 親って事かい? アカリちゃんは面白い言い方をするねえ」
「え?」
「わかった。親が見つかるまで預かるんだね。そういう事なら、特別にその子の分の宿代はサービスするよ。親御さん、早く見つかるといいな」
「え、あ、はい……そうですね。では、失礼します」
「ああ。その子、しっかり面倒見てあげるんだよ」
「はい」
頷いて、おじさんに軽く頭を下げ、部屋へと向かう。
けれど私はその内心では、大量の冷や汗をかいていた。
あ、危ない……危なかった。
この世界って、動物の分も宿代が必要だったのか……!!
いや、考えてみれば、地球ではペットホテルなんてものがあったんだから、たとえ異世界だって、動物に宿代が発生したって不思議ではないんだ。
幾らなのかは知らないけど、私に二人分の宿代を支払う余裕なんてない。
おじさんがサービスにしてくれて本当に助かった……!!
……だけど、さっきのおじさんの言葉。
不思議そうにしてた部分に注目すると、私が『面白い言い方をする』って言ってたのは、"飼い主"という部分なのだろう。
『親って事かい?』とおじさんは言ってた。
という事は、この世界では、動物は等しく、"飼っているペット"ではなく、"自身の子供"という扱いなのかもしれない。
それなら、ギルドの人達や騎士様方の言動にも説明がつく。
ふぅ、またひとつ、この世界の常識について理解ができた。
覚えておかなくちゃ。
それにしても。
「君の"親"、すぐに見つかるといいね」
これまでずっと眠ったままで一向に目を覚まさない動物に向かってそう呟くと、私はその背をひと撫でした。
回復薬をふりかけたおかげか、怪我はほとんどふさがってきている。
あとは目が覚めれば大丈夫だろう。
私はしばらくの間、手触りのいいその毛を、そっと優しく撫で続けた。