落とし物?
拾い物士とは。
文字通り、落ちている物を拾っていく職業である。
拾う物は、何でもいい。
木の実だろうと、種子だろうと、動物の羽や毛だろうと、ゴミだろうと、とにかく拾っていればレベルが上がる。
現在のレベルは2だ。
なので、私は"落とし物"や"落ちてる物"を探してくる依頼と、あとは、月イチで出されるらしい皇都の清掃の依頼をギルドで受けてお金を稼ぐ事にしている。
職業補正なのか、ステータスの称号欄には、【強運の持ち主】という一文があり、私の幸運値の数字は物凄く高い。
それに、【攻撃無効】というものもあり、物理・魔法攻撃の両方が当たらないという素晴らしい効果があった。
そのおかげか、受けた依頼の品が見つからないなんて日はないし、魔物に遭遇しても、ちょっとした怪我をする事もあるけど、毎回なんとか逃げ切れる。
そんな私だが……現在、ちょっと困っている。
いつものようにギルドで依頼を受けて、近くの森に出かけたものの、なんだか気が向いて、少し離れた湖まで足を伸ばした。
うん、そこまではいい。
別に何も問題はなかった。
けれど…………。
今、私の目の前には、ボロボロな状態で倒れている、空色の体毛の動物がいる。
湖のほうに視線を向ければ、右側の湖岸に、エラのある蛇のような生物が、その頭を凭れさせていた。
これは…………推察するに、きっと、あれだ。
襲ってきた魔物をなんとか倒したものの、自身の怪我の状態も酷く、直後に気を失ってしまった…………と。
異世界たるこの世界には、ずいぶん強い動物がいるようだ。
……けど、この子……気を失ってる、だけ、だよね?
相討ち状態になってて、触ったら冷たい……なんて事、ないよね?
「ね、ねぇ……君、大丈夫……?」
私はそう恐る恐る声をかけながら、そっと手を伸ばし、倒れ投げ出されているその子の手に触れ、軽く握ってみた。
その手はちゃんと熱を持っていて、温かい。
良かった……生きてる。
そう思って、私はホッと安堵の息を吐いた。
けれど次の瞬間、ピロロンッという音が脳内に響き、続いて私とその子の間に淡い光の板が現れる。
首を傾げながらもそれを見ると、そこに書かれていたのは驚きの内容だった。
「"???を拾った! レベルアップ! レベル3になった!" ……………………って。……え、ええええええええええっっ!? ひ、拾っちゃった!? この子拾っちゃったの私!? これ、拾っちゃった事になっちゃったの!? ていうか、この子、落とし物だったの!? 誰の!? 落とし主どこよ!?」
光の板の内容に一気にパニックを起こした私は、落とし主を探して辺りをキョロキョロと忙しなく見渡す。
けれど、当然、見える距離にいるはずはなく……。
「だ、誰もいない……。ど、どどどどどどうしようっ!? えっと、えっと、と、とりあえず……持って帰って落とし主探さなきゃだよね? そうだよね!?」
とりあえず、ギルドに依頼完了の報告をして、この子の落とし主……いや、正確には飼い主だろうけど……それの情報を集めなくちゃ。
できるだけ早くに落とし主が誰であるかをつきとめて、この子を返したい。
きっと、心配しているだろうから。
……願わくば、この子が使い捨ての戦力として飼われていて、壊れかけたからもういらないと置き去りにされたとかじゃありませんように。
そんな事を祈りながら、私は鞄に常備してある回復薬を空色の動物にゆっくりふりかけると、そうっと抱き上げて、皇都に戻るべく歩き出したのだった。