箱入りの……
シル様に請われ、リーク様とレヴァ様にも誘われ、果てにはオーザ様とクーザ様にも勧められ、私は今まで泊まっていた宿を引き払い、あの日から、なんと王城の敷地内にある離宮、通称"青の宮"という場所で生活している。
そのおかげで生活にお金はかからなくなったが、それに甘えてばかりもいられない。
いつまで置いて貰えるのかもわからないし、昼間はちゃんと毎日街へ出て、今まで通りギルドで依頼を受け、細々と稼いでいた。
変わった事はと言えば、毎日シル様が着いてきて、にこにこしながらさりげなく手伝ってくれるようになった事だけだ。
袋や鞄を持ち、にこにこしながら、私が拾ったゴミやら落とし物やらを受け取り、それらを手にしている袋や鞄に入れ、それを運ぶ王子様……。
シュールだ……。
そうして数日が経ち、その日はついにやってきた。
そう、王子様達全員と行く、ダンジョン探索の日である。
いつも行動を開始する時間よりもずっと早い早朝に身支度を整えて部屋を出ると、そこには何故か微妙な表情を浮かべたシル様がいた。
「おはようございます、シル様。 ……どうか、したんですか?」
「おはようアカリ嬢。いや……その。兄上達にも、弟達にも、悪気はないんだ。驚くとは思うが……どうか呆れず、付き合ってやってくれないかな」
「はい? ……え、何の話ですか? 今日はダンジョンに行くんですよね?」
「そうだ。そうだが……外に出ればわかる。行こう、アカリ嬢」
「はい……?」
曖昧に濁すシル様に連れられて外に出ると、まず目に入ったのは、にこやかに立つオーザ様の姿と、もう一人……誰だろう?
「おはようアカリ嬢。紹介しよう。鑑定の能力を持つ鑑定士のカイン・テシードルだ。君の拾い物士という職の解明の為に今日の同行を願った」
「初めまして、お嬢さん。カイン・テシードルと申します。今日一日、貴女の職について色々と調べさせて戴きます。……まずは、レベルアップの為の経験値についてです。上がり方を検証する為に………………そちらを」
「えっ? ……っ!?!?」
カイン様が最後に少し気まずそうに向けた先を見た私は、驚愕した。
そこには…………なんと、『拾って下さい』と書かれた大きな箱の中に…………複雑そうに眉を下げているクーザ様とリーク様が座っていた。
その隣には、シル様と同じように微妙な表情を浮かべたレヴァ様が立っている。
「…………拾って、差し上げて下さい。アカリ嬢」
「え、『拾って』……って」
ク、クーザ様と、リーク様を、だろうか。
『拾って下さい』と書いてあるし。
えっと……………………ナニコレ。
た、確かに、私は拾い物士で、拾うと経験値が入るし、つい先日レヴァ様を拾った事でレベルアップしたけど…………だからって、普通、これ、やる………………???
「アカリ嬢、大丈夫。新しい職の検証は重要。その手伝いをするに必要なら、王族は進んで協力すべきだ。故に、陛下に話を通し、王太子である私が命じた。貴女が気にする事は何もない。無論、弟達の経験値の検証が終わったら、次は私が検証に協力する。弟達にだけ命じ己が何もしないでは、筋が通らぬからな」
「えっ……!?」
は、箱入り王子様達を拾った後は、箱入り王太子様も拾うの…………!?
「……すまない、アカリ嬢。気持ちはわかるが、オーザ兄上の言う通り、新しい未知の職について調べる事は重要なんだ。だから…………誰も何も言えなくてな。どうか、付き合ってやって欲しい」
「シ、シル様……。……うぅ、わ、わかりました……ひ、拾いますね……?」
そうして、シル様までもを拾って検証した結果。
第四王子様よりも第三王子様、第三王子様よりも第二王子様、第二王子様よりも王太子様といった風に得られる経験値が多い事がわかった。
やはり王子様方、特に王太子様を拾う事で得られる経験値は多いようで、私のレベルは一気に十になった。
更に、ダンジョンに出発し、到着するまでの道中で、シル様のパーティーメンバー兼護衛の方や、オーザ様方それぞれの護衛の方も拾って検証し。
最終的に、ダンジョンに着くまでには、私のレベルは十三にまで上がっていたのだった。
私の頭の中には"寄生"やら"出来レース"やら"接待ゴルフ"やら、そういった言葉が次々と現れては消えていき、何とも言えない気持ちになったのは、言うまでもない……。
レベルをいくつまで上げるか、ギリギリまで悩みました……




