雪の大草原=ツクシ
6.雪の大草原=ツクシ
「皆さん、そんなに怖がらないでください。小学校三年生以下の子供なら、誰でも僕のことばを聞くことができるんですから」
そう言って、ツクシはまた、歌を歌いました。
「つんつんツクシはつんつん伸びる。真っ直ぐ伸びて、天までとどく。つんつん、つんつん」
ツクシの歌を聞いているうちに、みんなもなんだか不思議に楽しくなって、手をとりあってその回りで踊りだしました。
ツクシは頼みもしないのに、色々な話を語り出しました。
ドングリの背比べのことやら、カエルやヘビが土の中で眠ることやら、働きもののアリとなまけもののキリギリスの話でした。
みんなは、アリとキリギリスの話は、いつか学校で先生から聞いたことがありましたが、ファーブル昆虫記という本には、蝉とキリギリスになっています。
そこで、「蝉とキリギリスとも言うよ」とみんなが言うと、「なにを言うのです、昔から、アリとキリギリスに決まっているじゃないですか」ツクシは怒り出しました。
「まあ、いろいろな話があると言うことだ、話は、長い間語り継がれるうちに、いろいろ変わるってことじゃないの」
りょうたが訳のわからないことを言ってツクシをなだめるとやっと機嫌も直って、 ツクシとみんなはすっかり友達になったのでした。
りょうたやヒロやけんすけ達は、それぞれ自分の父さんや母さんや兄さんや姉さんのことや猫のミー助のひげを切ったこと、それから、このたとうさんに来るまで通って来た網山のことやしんたての森の出来事を話しました。
ツクシは大変おかしかったのでしょう、頭をピョコンピョコンと曲げながら、「クッ、クッ」と笑っていましたが、思い出したように言いました。
「ああ、そうそう、皆さんは森の中で白いキツネには出会わなかったのですね」
「なんだ、その白いキツネって、出会ったのはリスの親子だったよ」
みんなが答えます。
「そうですか、先日引っ越していったと言うのは本当だったのですね。なんでも熊本県の親戚のところへ行くと言っていました。しんたての森を通る人を見つけては、自慢の踊りを披露していたのですが、だれも喜んでいる様子を見せてくれず、そのうえ、なんだか気味悪がって逃げていくそうなのです。このごろは、森の中を通る人がいなくなってしまったと言って、ずいぶん悲しそうでしたよ。何しろ、きつねにとっては三百年もすんでいた懐かしい森ですものね」
そこまで話した時、ツクシはブルブルっと震えだしました。
「皆さん、楽しく語り合っておりますところ、まことに失礼ではございますが、実は、私は、あまり永く寒いところに出てはいられないのです。こんな薄っぺらな、ひだのある着物しか着ておりませんので、もう、風邪をひいたのではないかと、心配なのです。 私たちのツクシ村のドクターは、いま沖縄県まで旅行に出かけているんです。 だから、いま風邪でも引こうものなら、それこそ大変です。一年中、土の中の病院に寝ていなければなりません。そうなれば、三月の甘い露も飲めませんし、天の川の、大ボートレースも見ることができなくなります。夏には、銀河の盆踊り大会に行かなければなりません。早く暖まらないといけません。そこで、お願いなのですが、どうかそこの籾殻を私にかけてくださいませんか。そうすれば温かくなりますから。」
三人は、快く引き受けて、籾殻と藁を、ツクシにかけてやりました。
ツクシが見えなくなるまでかけてやりました。
「ツクシ君、まだ寒いかい」
三人は、声をそろえて言いました。
「はい。よっぽど楽になりました。それでは皆さん、春にまたお目にかかりましょう。
春になると、僕たちツクシが芽を出します。そして、スミレやレンゲの花が咲き、ピンクや黄色で、一面を埋め尽くすのです。また、夏になると、一面、緑の芝生の上をトンボが飛び交い、そして秋になると、菊や、ケシの花が咲き乱れ、美しい夕焼けが沈んだその夜は、丸いお月様が、空にツンと構えて、たとうさんの露に照り輝くのです。皆さん、考えるだけでも背中がぞくぞくしてくるではありませんか。あっ、いけない、いけない、風邪をひかないうちに早く寝なくっちゃ。暖かくなったら、また来てください。夏になったら、銀河の盆踊り大会に招待しますので、是非また、たとうさんにきっと来てくださいね。ああ、それから、よろしかったら、今天の川で冬季ボートレース大会が行われていますので、行ってみて下さい。頼めば、北風が案内してくれますよ。では皆さん、お元気で。さようなら。失礼いたします。」
「ツクシ君、さようなら」
雪は、みるみるつもって、もう、籾殻も藁もすっかり見えなくなってしまいました。
雪はまだまだ、やみそうにありません。
その証拠に、積もった雪は、風が吹くたびに、空に舞い上がっていくようです。
それはきっとまた新しい雪になって降ってくるのでしょう。