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5 雪の大草原=カラス

5.雪の大草原=カラス


「すごい、ここは、たとうさんだね」

 と、ヒロが言います。

「やっと着いたね」

 と、けんすけが言います。

「うん、とうとう着いた、ここが、たとうさんだ」

 と、りょうたが言います。

みんなは、大草原の中へ、飛び込むように駆け出して行きました。

その時、しんたての森が、ざあっと一度に波打って、地響きのような大合唱が聞こえたような気がしたのでした。

「おてんとさん、かっかっ火を焚いた」

「おてんとさん、かっかっ火を焚いた」

「かっか、かっかと火を焚けば、たとうさんが輝くぞ」

合唱が終わると、同時に、雲の一カ所が切れて、幾筋かの光のすじがたとうさんを照らし出したと思ったら、太陽が顔を出しました。

すると、空も森もたとうさんもみんな一度に、まばゆく、銀色に輝き出したのです。

雪は、いつの間にか、綿雪に変わっていました、よく見るとそれはまるで白いパラシュート部隊が一度に、花のように開いて空からゆっくり舞いながら降りて来たのです。

銀色の世界を、三人はひとかたまりになって走っていきました。

たとうさんは、今では、広い、広い雪の野原でした。

すべてが真っ白の中で、色の違うものといったら三人の着ている服と黒い長靴ばかりでした。

しかし、その長靴もすっかり雪の中に埋まって、ほとんど見えないといってよいくらいでした。

りょうたとけんすけは、相撲を取っています。

いま、十回目の取り組みをやっているところです。

ヒロは行司です。

「はっけよい、はっけよい」

といいながら、二人の周りを回っています。

けんすけは十戦十敗、まだ一度もりょうたに勝てません。

 いま十一回目の取り組みをやっているところです。

けんすけは、顔を真っ赤にして「うんうん」といいながらがんばっていましたが、りょうたの内無双にたまらず、ぱったりと、しりもちをついてしまいました。

十一回目もとうとうけんすけは負けてしまいました。

もう、起きあがるのが嫌になってしまったけんすけは、そのまま空を見上げて、寝ころんでいました。

「だいじょうぶかい」

りょうたとヒロが心配そうに顔をのぞき込みました。

それでもけんすけは黙って空を見続けていました。

そこには小さなカラスが一羽、空に浮かんでいました。

りょうたとヒロがあんまり体をゆらゆら揺らすので、仕方なくけんすけは立ち上がりました。

首のところから、雪が入ったので、背中がひんやりとしました。

二人に背中の雪を払ってもらっているときもけんすけはまだ空を見ています。

 「ねえ、カラスが揺れてるよ」

 けんすけが言いました。

りょうたとヒロもつられて空を見上げました。

「揺れているんじゃないよ、あれは飛んでいるんだよ。ねえ、りょうた」

「うん」

 実は、その二つの考えは、どちらも正しいのでした。

カラスは、一生懸命飛んでいるのですが、強い北風に吹かれて、ふらふらと揺られて、いまにも落っこちそうなのです。

そのうち、どこからか、大きなカラスが飛んできて、小さなカラスの周りをくるりくるりと、回りだしました。

お父さん、怖いよう。助けてよう。僕が一生懸命飛ぼうとしても、風が、びゅうんびゅうんふくんだもの」

お父さんカラスはなにも言いません。

ただ黙って回りを飛んでいるだけでした。

子供のカラスは、何度も落っこちそうになっては、羽をばたばたさせて、とうとうべそをかいているようでした。

それでもお父さんカラスは、決して助けようとはしませんでした。

ただ心配そうに、じっと見ているだけです。

りょうたもヒロもけんすけも、どうして、お父さんカラスは、子供のカラスを助けないのかと、もう、歯がゆくてなりません。

子供のカラスは、もうだいぶ疲れている様子でした。

白い息を吐いて、肩ではあっはあっ言っていました。

お父さんカラスが静かに言いました。

「ぼうず、お前は男の子なのだ、これからは自分の力で飛ばなければならないのだよ。分かったね。では、今日はこれで帰ろう。お父さんの後についておいで。カア」

二羽のカラスは、大きく空を一回りすると、三人のほうに、近づいてきました。

「やあ、みなさん、お元気ですね」

お父さんカラスは言いました。

子供のカラスは、りょうた達を見ると胸をぷんと張りました。

りょうたもヒロもけんすけも、少し、むっとしました。

「今年の冬はずいぶん長い冬でしたが、もうすぐ春になりますね。それではみなさんさようなら」

お父さんカラスがにこにこ笑いながら言いました。

そして、二つの黒い点がゆっくりと白い粉雪の向こうに消えていきました。

どうしてお父さんカラスは子供のカラスを助けてやらなかったのでしょう。

 それに、どうして男の子は自分の力で飛ばなければならないのでしょうか、女の子なら自分の力で飛ばなくても良いのでしょうか、三人はカラスの言うことには納得がいきませんでした。

二月の粉雪は、しんしんと降り続けていました。

白い野原、白い空。そして降り続く白い雪。

それは、ちょうどなんにも書いていない広い一枚の画用紙をまっすぐに立てた二次元の世界でした。

りょうたは、その中に吸い込まれてゆくような気がしました。

「粉雪コンコンシンデレラ、大雪コンコンこんぎつね、綿雪ワタンコ落下傘、…… 」

誰かが小さなよくとおるソプラノで歌っています。

みんなは、キョロキョロとまわりを見回しますが、誰もいません。

ただ、相変わらず、雪が、もう、嫌になるほど強情に、降っているばかりなのです。

「何かな。ちょっと怖いな」

もう、けんすけは、おっかなびっくりです。

するとまた、ピアノのドレミファソラシのシの音とラの音で歌っているのが聞こえます。

「ランランラン もうすぐ春ですランランラン 駆け足、並足、急ぎ足 春はいそいそ参ります シンシン降ります雪んこも、ヒラヒラヒラヒラ山桜 春の月夜はおぼろ月、ウサギと一緒に踊りましょ ナンナン菜の花咲いたなら、ちょうちょも一緒に踊りましょ。ランランラン・・・・・・・」

どうやらそれは、たとうさんの隅っこの小さく盛り上がっているところから聞こえてくるようでした。

「なんだろう」

三人は、恐る恐る近づいてみました。

りょうたが先頭に立っています。

そうして、やっぱり、けんすけは一番後ろにくっついています。

風が、ひとしきり吹いて、さあーっと雪が、空に舞い上がりました。

三人は、盛り上がっているところを丸く取り囲みました。

歌は、小さく、小さくささやくように聞こえました。

「春にはすてきな雨が降る、丸い真珠の粒粒が、うららの風を運びます。

ダイヤモンドもサファイヤも露の光に、色もなし」

りょうたが、心を決めて、そこの雪を払いどけました。

すると、藁の束が、出てきました。

歌は、その下から聞こえてくるようです。

今度は、ヒロの番です。

ヒロは、その藁の束を、恐る恐るどけてみなした。

すると、その下には、もみがらがありました。

さあっ、今度は、けんすけの番です。

けんすけは、おっかなびっくりです。

胸が、もうどきどきして、耳がガーンガーンと鳴っています。

それでも、けんすけは、今度こそ二人から、弱虫と言われたくないので、一生懸命、怖いのをこらえて、もみ殻をそっとどけてみました。

すると、どうでしょう、そこにはツクシがいたのです。

 「皆さん、こんにちは」

 ツクシは、元気よく、しゃんとお辞儀をして、言いました。

それが、あんまり大きな声だったので、みんなびっくりして一度に「わあっ」としりもちをついてしまいました。


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