快適空間
とりあえず昼食の後は、なぜか気まずさを感じつつ、自室へ行ってPCを起動する。PCではネットサーフィン、2chチェック、エロゲなど楽しいことをしている。そして、夕食の際は、また1階へ降りて、パクパクとご飯を食す。やがて、また自室へ行き、PCであれこれと楽しむ。たまに、気が向くと風呂へ入る。その後、またPCを・・・。家族が寝静まってからは、ネットでオカズ探しに約2~3時間を費やして、ピュッピュッと何億もの無数の息子たちを無駄死にさせてから就寝する。やがて、また昼に目を覚ますというワンパターンの繰り返しだ。
しかし、今日はワンパターンではないような気がする。なんだか悪い予感がしてきた。現在、8月?日の夕方5時。なぜか無性に暑い。ハッとエアコンを見ると電源のランプは光っているのだが、まったく、冷風は送られてこない。自動にしているので、一定の温度まで室温が下がったから動かないのか。急いで部屋の片隅に置いてある温度計で室温を確認する。驚いた!30度を越えている。どうやらエアコンは故障したらしい。送風しか送られてこない。毎日ずっと、電源を消すことなく、作動させ続けていたことが問題である。それに加えて、自室のエアコンは10年目に突入している。ジジイのようなエアコンを連続勤務させ続けたのだから、いつ死んでもおかしくない。ジジイが死ぬと暑さでこっちも死んでしまいそうだ。一刻も早く、親にこのことを申告しなくては・・・。
ドタドタと、まるで火事から逃れるように急いで階段から降りた。そして、居間へ入ると、母がテレビをくつろいで見ていた。パートから帰ってきたのだろう。引きこもりの俺は家族に対して自分自身の哀れさを感じつつ、母に「エ、エ、エアコンがこ、故障したから、あ、あ、新しいのを買って」と言った。
「・・・」。
何も返事が返ってこない。どうやら、オレのことは眼中にないらしい。聞こえているはずだと思う。うん、確実に聞こえている。明らかな無視とはこのことではないか。とうとう、親に見捨てられた。オレはポケットからスマホを出して仕方なく、こいつで暇つぶしをしようと寝ころんだ。そして、リビングに寝転んだ。だが、同じ空間に自分以外の人間がいることに、とてつもない不安を感じた。これは恐怖感とまではいかないが、違和感を感じた。自身の親に対してもこんな気持ちを抱くのは初めてである。もう、我慢できない。引き出しから勝手に車のキーを取り出し、ガレージへ向かった。そして、親の車の中へ入り、エンジンをかけた。A/Cスイッチを押し、風の強さを最大にすると、天国へ舞い上がったような気がした。この上ない涼けさ、自分だけの空間。このまま時が止まればいいのに。