とある旅人の話 -和-
とある港町で旅人が夕暮れに二人の姉弟に出会いました。
漁師の朝は早いのでもう寝静まろうとする時間です。
彼女らは誰もいない舟の並ぶ中、舟に入っていきゴソゴソと何かしています。
旅人はよそ者とはいえ気になり声をかけてみました。
「何をしているんだい?」
「弟が落とし物したの」
「お兄ちゃんも捜してくれない?」
「わかった」
旅人も手伝うことにしました。
「何を落としたの?」
「風車」
一葉、二葉、みつかりません。
まだまだ舟はたくさんあります。
「こりゃあ、大仕事だ」
三葉、四葉、日はとっぷり暮れてしまいました。
「明日にしないか?」
「や!」「明日には舟が出てそれこそ海にでも流れてしまうかもしれない」
仕方ない。
乗りかかった船だ。
旅人は見つかるまで探そうと決めました。
五葉、六葉、行灯を照らし。
どれほど時間が経ったか旅人にもわからなくなってきました。けれど、すぐ隣の舟を探す必死な姉弟に負けじと探しました。
七葉、八葉、腰が痛い。
だんだん手も足も痺れてきました。旅人はもう自分でも何をしてるのかわかりません。泥だらけでそれでも探し続けました。
九葉、十葉、
「あったぞ!」
旅人は見つけました。
船底の端のなんとも危なっかしい場所に風車はありました。旅人も気をつけながら取り、姉弟に渡します。
弟も姉も大変喜びました。旅人も自分のことのように喜びました。
「おい、あんた!何してる?!」
と、そこへここの漁師がやってきました。
「盗人だ!」「捕まえろ!」
旅人は慌てました。自分のなりは泥だらけ、いったい何をしていたのか。
しかし、捕まり屯所に行くと驚くことがありました。
「犯人はさっき捕まえたよ」
この港町では網やら漁で使う道具をよく盗む泥棒がいました。
昨夜も盗もうとしてたが、行灯の灯りで舟に近づけず、どうしようか迷っていたところ捕まったとか。
「ありゃーこいつぁ失礼した」
「いえいえ」
「けれど、じゃああんた、あそこでいったい何を?」
「えーと…風車を…」
「その腰にあるやつかい?」
見ると腰に渡したはずの風車がささってました。
「え?、あ、ええ…(あれ?)姉弟の子たちに頼まれまして…」
その途端、皆の顔つきが変わりました。
「姉弟っていやぁ、あいつん家しか…」
「いや、でもしかし…」
「?」
旅人は聞きました。
この近辺では最近不漁が続き、盗人のダメ押しもあり、家族総出で素潜り漁までしていたそうです。
姉弟の家でも姉が潜り、弟が選別などの仕事を覚えようとしていました。
風車は父親が作ってくれた弟の大切なものでした。行きや帰りに進む風で回すのが面白かったのです。
しかし、帰りに弟があの場所に落とし、拾おうとした際に海に落っこちてしまいました。
そこは藻が深くはっていて追いかけた姉も結局上がってくることはなく、父親も何度も潜りましたが見つけられず、仲間と捜してようやく姉弟が一緒になって見つけられました。
旅人はその家にいき、父親と挨拶した後、彼女らの墓にいきました。丘のきれいに海を見渡せる場所です。
風車を供えると楽しそうによく回りました。
蛇足。
旅人はその後、港町を後にし山道を歩いてると向こうから郵便屋さんがやってきます。
と、風で荷物が少し飛びました。
慌てて集める郵便屋さんを旅人も手伝います。
一枚、二枚…
全て無事揃いほっと一息。
「ありがとうございます」
「いえ」
「この先はまだまだ長いですよ。越えようと思えば夜になる。早めだがこの先に宿があるから泊まってくといい」
「そいつぁどうも」
ありがとさん。