喧嘩
連投失礼します!
「お待ちなさい!この…ドロボウ猫!」
令嬢が怒りに目を光らせてヴァレリーの前に立ちはだかる
「その馬は私の馬よ!返しなさい!」
「はぁ?」
もはや訳が分からない言いがかりをつけられてヴァレリーも思わず口調が乱れる。
「わたくしが、ダンヴィル子爵家に差し上げた馬よ!ヒューバート様が子爵家から居なくなったのであれば、それはわたくしの物だわ!」
(くっだらない)
ヒューは鞍を着けて貰いながら半眼で令嬢が喚き散らすのを見る。とにかく金になるものを持ち帰って来いとか言われたのだろう。
くだらないと思ってるのはヴァレリーも同じようだった。鞍の準備をしながらも令嬢に言って聞かせる。
「お言葉を返すようですが、この子はヒューバート様から婚約の証として頂きましたわたしの馬です。家に帰れば書類もございます。貴女の馬であるという証明は出来ませんよ。」
「なんで、あなたみたいな田舎娘が!ダンヴィル家にお金がないからって、こんな小娘にわたくしの馬を押し付けるだなんて!不快ですわ!」
不快なのはお前だと思うヒューの横でついにヴァレリーが怒った。
「馬の気持ちの分からない人の所でボロボロにされるよりずっといいわ!ヒューバート様だって、そう思って私たちにヒューを預けて下さったのですもの!」
令嬢がけたたましく笑う
「あははっ!それでヒューと名付けたの?彼に愛して貰えない代わりに?寂しいわね!
あの冷血漢が、たかが馬にそこまで考えるはずないじゃない!バカじゃないの?」
「違うわ!」
手綱を束ねたままで握り、ヴァレリーは令嬢のところまで歩く。
「あの方は、努力家で、優しくて、それでも、周りに冷たい素振りをしていないと傷ついてしまう、繊細な方よ。」
ゆっくり歩いてくる彼女の迫力に、令嬢は後ずさりを始める。
「わたしの! わたしの大好きな方を侮辱しないで!」
ヴァレリーは手綱を思い切り振り回したが、令嬢には当たらなかった。しかし令嬢は驚いた拍子にぬかるみに足を取られ、そのまま前のめりに倒れた。
ぬかるみの正体が何だったのかはあえて言わないでおこう。
「や、やったわ…!」
(君の手柄ではなさそうだけどな)
興奮気味に手綱を握りしめるヴァレリーを鼻で押す。
「あ、そうね。ヒューバート様を追いかけないと!」
「このドロボウ猫!」って言わせたかったので。




