分岐する未来-BAD END-
「そっか、あはは…あははははは!!ははははははははははははは!!」
「ジェシ、カ…?」
分かった、全部、分かっちゃった。
ルーシーは私が嫌いなんだ。
「お父さんのこと、私に渡したくないんでしょ!独り占めしたいんでしょ!うふふ、あはははははははははははははは!!」
「アンタ、何言って…」
うるさい。うるさいうるさいうるさいうるさい。
「うるさいッ!ルーシーのこと、友達だと思ってたのに!前から実験に反対してたのも、実験体って意味で優位になってる関係を崩したくなかったんでしょ!」
「ジェシカ…?アンタ一体どうしちゃったんだよ…」
声を震わせて、私に向けて手を伸ばしてきた。
私はその手を払った。爪で手のひらが切れて、血がボタボタと落ちる。
「血がっ、ジェシカっ…血を止めなきゃ…」
「あーあ!ネコ科の実験体には絶対成りたくないな!ルーシーと一緒なんて絶対イヤ!」
とうとう、顔を覆って泣き出した。
訳が分からない。
「なんでそんなっ…うぅぅ…ジェシカぁ…私はアンタをっ…うあぁぁ…」
「二度と来ないね。バイバイ、出来損ないのチーターさん」
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それから三日間、私は地下に降りることなく過ごした。
別に私が運ばなくても、食事はどうにかなるようだし、何よりあのチーターに会うことは絶対に嫌だった。
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「さて、実験だ。覚悟は出来てるな」
「うん!早く始めて!私は何になるの?」
お父さんが首に注射器を刺した。麻酔薬が効いてきて、次第に辺りがぼやけていく。
「おま…の…デ…は…………だ…」
お父さんの言葉も、ハッキリと聞き取れない。
私の意識はそこで途切れた。
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一週間後
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「まだ泣いてるのか」
私の檻の前に、人影が一つ。
「なんの用だい…」
黄と黒の縞模様。トラモデル。
第三期実験体。ジャック。
ジェシカがおかしくなって、もう十日になる。あれからジェシカは一度も来ていない。
私はただ泣き続けていた。
ジェシカという存在が、どれだけ私の支えになっていたのか。本当に情けない話だ。
ジャックは鉄格子を爪で易々と切り裂くと、木の下まで来て私を見上げて言った。
「二人とも死んだぞ」
実験室に走った。間取りなんか知らなかったが、私の嗅覚はジェシカの匂いを感じ取っていた。私は本能のままに辿り着いた。
そこにあったのは、変わり果てたジェシカの姿だった。
「あああああああああ!!!!!!!!」
ジェシカの首にあるのは裂傷。コイツが、この爪が。ジェシカの喉を、命を、裂いたのか。殺したのか。
頭がそう判断し、身体は既に動き出していた。地を蹴った私の脚は、目視が困難なほどのスピードを出した。
ジャックの首元を狙う。私の爪が、牙が。肉を引き千切る。食い千切ってやる。
しかし届かない。見切られた。
爪を避けられ、首を正面から掴まれる。
がら空きの胴体に蹴りが飛んでくる。ジャックがそれと同時に手を離し、私はあまりの激痛に嘔吐した。
起き上がることも出来ずに地面に踞る。
「話くらい聞いたらどうだ?知性ゼロだな。ケモノそのものだ」
「うぅぅっ…!」
呻き、睨み上げることしか出来なかった。
「殺したのは俺じゃない。アルバート博士だ」
「そんなわけっあるかぁっ…」
「誰に宛てたもんだか知らんが、アルバート博士本人の独白だ。読めば分かるだろう。この結末の理由がな」
震える手で受け取る。文を読む。
「…あ…?……はぁあ…?ああぁ!?嘘だこんなもの!ふざけるんじゃないよ!こんなっ…!こんなこと受け入れられるか!」
「お前の都合なぞ知らん。現実が歪むことは無い。俺は他の連中を解放してくる。そのあとどうするかは、お前が決めろ」
ジャックは地下へ降りていった。
私はどうにか立ち上がり、寝台で息絶えた少女の頬に触れた。
かつての温もりは、やはりなかった。
「あぁあぁああぁあぁぁあ…!うぁああああああああああ…!!ああああああああああ…!!」
獣の慟哭だけが辺りに響いていた。
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「正気か?」
「あぁ。もうこんな世界うんざりなんだよ」
「ふん、貴様は弱いな」
「黙んな、アンタは私の後輩だよ?」
「"ケモノしか居なくなったんだ"。そんな概念など有るものか。強きものこそが頂点」
「はいはい、じゃあその百獣の王様とやらにお願いするよ。さぁ、一思いにやっておくれよ」
「王の情けだ。その願い、聞いてやろう」
トラの爪が私の首をかっ裂いた。血が吹き出す。視界がぼやけていく。
ジェシカの身体に凭れるように、私は倒れた。流れ出る血が真っ白な彼女の肌を染め上げていく。
私も、今行くよ、ジェシカ。
----------BAD END----------