ビリー-b
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『最終勧告。こちらの提示する条件は全ての人間の実験データである。至急、残りのデータを提出するように。なお、従わない場合、実力行使に踏み切るので、覚悟するように。貴殿の利口な選択を待っている』
お偉いさんからの催促が来た。三度目。後がない。
データを渡すことなんざどうでもいい。 問題は"全ての人間"ということ。
私のことは含まないだろうが、あの子に手を掛けなければならないということ。
。そもそも、私は何のためにこんなことをしているんだ?
きっかけすら思い出せない。
ただの化学者だったはずの私が、どうしてこんな。
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「おはようマイク!」
マイクはバッタモデル。あの逆向きの関節で、すごいジャンプ力を発揮する。
マイクは喋れないから、ピョンピョン跳び跳ねて、私に手を振って返した。
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「カートっ、元気?」
「よぉ、ジェシカじゃん!何かテンション高いね!」
サイモデルのカート。ゴツゴツした肌に、鼻の辺りから伸びる一本角が特徴。私よりも少し年上。
「えっへへ、まぁねー!」
〜〜〜
「ジョー?寝てる…?」
シャチモデル。いつも水槽の中で寝てる。水中じゃないと一分も生きられない。
今日も寝てたから、起こさないように通り過ぎた。
〜〜〜
「アーリサっ!」
「あっ、ジェシカさん。おはようございます」
コンドルモデル。ゴードンと違って、アリサは見た目にはっきりと特徴、というか主に翼。
〜〜〜
「ジャック!」
「…何の用だ」
歴代実験体の中で一番強いってお父さんが言ってた。普段は難しそうな本を読んでて、話し掛けてもあんまり相手をしてくれない。
長くて尖った爪と牙が武器で、ルーシーに似てるけどちょっと違う。
モデルはトラって言うみたい。そういえば、エリザベスと仲が悪い。
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これが第三期実験体のみんな!
次は第二期だ。
私は階段を降りていく。
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「おはようエリザベス」
「あら、ジェシカ。また私の話が聞きたいのかしら?」
「今日は違うの!おさらい!」
エリザベスはカマキリ。フゴウの一人娘で、国一番のビショウジョ?よく分かんない。
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「久しぶり、エドワード!」
あんまり原型ないけれど、モデルはゾウ。スティーブとは旧知の仲って聞いたけど、今のエドワードは喋れない。
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「アーロン!ご機嫌いかが?」
「顔に張り付く吸盤のせいで良くねぇな」
タコのモデル。皮肉屋で卑屈だけどいい奴、ってルーシーが言ってた。実はあんまり知らない。
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「エリック!今日も素敵な羽毛ね!」
「ジェシカ…君は素直に誉めてくれてるんだろうけど…いや、何でもないよ。ありがとう」
クジャクモデル。色鮮やかな毛で身体が覆われててとってもキレイ。本人はあんまり好きじゃないから言ってやるな、って昨日ルーシーが言ってたの忘れてた。ごめん、エリック。
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「ルーシールーシー!おっはよー!」
「朝から元気だねぇ…ふわぁ…眠ぃ…」
ルーシーはチーター!これは絶対に忘れないから大丈夫。だって私が最初に覚えたモデルだもの。
「おや、第一期に用事かい?」
「おさらいしてるの!また後で来るね!」
私は階段を降りていく。
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「マリアー?マリアー!」
見たことないからわからないけど、ゴードンの話だとクワガタってモデルみたい。
カッコいいコンチュウだって言うのに、どうして出てきてくれないのかな。
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「スティーブはゴリラぁっゴリラゴリラぁっ」
「朝からなんなんだ、ジェシカ…」
「じゃあねーっ」
「あっ、おい…」
スティーブはゴリラ。
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「マリリン、おはよう」
水槽の中をゆったりと泳ぐ巨大な生き物。モデルはウナギ。本当はこんなに大きくないみたいだけど。
頭だけで私がすっぽり隠れてしまう。
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「お嬢ちゃん。今日はどうしたね」
「この前はありがとう!今ね、みんなのモデルをおさらいしてるの!」
「ほう、では儂のモデルは?」
「タカ!」
「ふむ、上出来だな」
「またねゴードン!」
タカのモデル。見た目は普通のお爺さんだけど、モデルの能力は視力。いつも私が部屋の前に来るより先に、気が付くってこの前教えてもらった。
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そして、最下層の突き当たり。
小さな墓石がある。
そこに刻まれている名前はビリー。
モデルはライオン。
私が小さい頃に、死んでしまった実験体。
お父さんに聞いても、詳しく教えてくれない。
私はしゃがんで手を組む。
昔誰かに教えてもらった、死者に祈りを捧げる方法。
あの女の人、今はどこに行っちゃったのかな。
全員しっかり覚えたことを確認した私は、お父さんのもとへ向かった。
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そして。
「ほら!全員覚えたよ!」
「…実験は三日後だ。分かったな」
「ホントに!?約束だよ!?」
「…ああ」
私も遂に、実験体になれる。