スティーブ
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視界は赤みがかっていて、顔の左側が生暖かい。手で拭うと、どろりとした血液が頭から流れているようだった。
何とか身体を起こす。呼吸が苦しい。肋骨が折れて、肺を傷付けたのだろう。
頭がふらふらする。出血が多いせいだろうか。
「…ビリー、どこだ?」
恐ろしい結果だった。ライオンのDNAを組み込んだビリーは、研究室、実験室の壁を破壊して暴れ回った。止めようとした私は弾き飛ばされ、意識を失っていたようだった。
「ビリー…」
彼は瓦礫の山の上で、うつ伏せに倒れていた。彼の身体から流れる血が、周囲に赤い水溜まりを広げていた。
「実験は、失敗だ。すまない…ビリー」
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「古参…か。確かに、そうだな」
自分ではこう発音したつもりだが、実際の俺の声は少し籠っていて聞き取り辛い。
過剰発達し、膨張した筋組織のせいで、口の形も歪んでしまっているのが原因だ。
「ルーシーが言ってたよ!スティーブに聞けばだいたいなんでも知ってるって!」
目を輝かせて、ジェシカは俺に言う。何を期待しているんだか。
「ゴードンほど物知りではないが、一応第一期だしな。…何が知りたいんだ?」
「全部!」
ジェシカはとても正直だ。思ったことをそのまま言葉にする。
初めて俺を見たときに、チューブさんと呼んだのは正直傷付いたが、怖がることなく接してくれる人間はコイツぐらいだ。
…もっとも、普通の人間はどれほど残ってるのか知らんが。
「順を追って話そう。まず、俺達第一期実験体は把握してるか?」
「えっと、スティーブとゴードンでしょ。それからマリリンとビリーと…」
マリアの名前が上がらない。…そうか、確かにコイツには言わない方がいいかも知れんな。
「あとマリア!」
正直なところ困惑した。表情の変化が無くなった自分に感謝したくらいだ。
「そうだ。それが第一期実験体。じゃあ、第二期はどうだ?」
「ルーシー!」
即答で出たのは彼女だけで、他の名前は全く上がらなかった。聞けば、区分を知ったのが最近で、二期と三期では全くピンと来ないらしい。ただし、名前は全員把握している辺り、人間(というか、お友達だが)として扱ってくれているようだ。
「あいにく俺も第三期は知らん。お前の知っている全員から第二期を除いて残ったのが三期だろう」
「第二期は誰がいるの?」
「そのまま教えてもいいが、それじゃあつまらん。せっかくだ、予想してみろ」
そう言うと、ジェシカは困ったような表情で答えた。
「あと九人から四人選ぶのー?当たらないよ…」
どうやらパターンを知らないようだ。よし、それぐらいは教えてやるか。
「ほとんど二択だぞ」
「えっ!?なんで!どうして?」
ルーシーはどういう順序で教えたんだか…。
「例えば、ルーシー。アイツのモデルはチーターだったか?」
「うん!」
「だったら、第三期にももう一人、猫っぽい奴がいるはずだ。どうだ?」
「ネコ…耳が尖ってて尻尾があって…」
ぶつぶつと特徴をあげ、情報を絞り込んでいる。
「ジャック!ジャックだ!」
「ルーシーは第二期、俺達第一期にはビリー。つまりそいつが第三期ってことだ」
もっとも、俺はビリーを見たことは無いが、聞いた話ではほぼ間違い無い。
「へぇー!なんかわかった気がする!」
「ほう、理解が早いな。じゃあ、俺達は?」
「一期がスティーブ、二期がエドワード。三期がカート!合ってる?」
「三期については分からんが、パターンは理解したようだな。エドワードは元気か?」
「うーん…いつも黙ってるから分かんない。でも、ご飯はちゃんと食べてるよ!」
「そうか…よし、じゃあ次だ」