ビリー-a
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「いやぁっ!やめて!こんなの狂ってるわ!」
手足を縛られた女が、寝台の上でじたばたと暴れる。
彼女のすがるような視線の先には、白衣を着た男。
これから執り行う実験に使う道具を入念にチェックしていて、女の声には耳も貸さない。
「アルバート、お願い…正気に戻って…あなたはこんなことする人じゃないわ…」
「…君を愛しているよ」
アルバートと呼ばれた男が、寝台の女に口付けをした。
「っ…アル、バート…?」
女の首筋に、注射器が刺さっていた。
声が弱々しく消えていき、瞼が落ちるのを見届け、アルバートは一人呟く。
「実験5。モデル"クワガタ"。被験者はマリア。…これより実験を開始する」
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「お父さん、私もルーシーみたいにチーターがいいなぁ。あ、でもネコ科?ならなんでもいいよ!」
「間に合っている。もう十分だ」
そう言うと、お皿に口を付けてずずっとスープを啜って、お父さんは実験室に入る。
「ねぇ!ジャックとルーシーしか私知らないよ!まだ他にいるの!」
分厚い扉をバンバンと叩きながら呼び掛けた。
「ビリーだ。詳しくはマリリンにでも聞け」
「マリリンって地下室のお化けウナギでしょ?…えっ!?マリリンもなの!?ねぇ!」
私の声をかき消すように、けたたましいモーターの音が始まった。
「もう!」
扉を蹴ったけど、足が痛いだけで何の音も響かなかった。
「知らなかったのかい?」
ルーシーは驚いたように私を見た。
私はルーシーの顎を指で撫でながら言葉を返す。
「だって、あんなでっかいんだよ?人間だなんて思わなかったよ」
ルーシーの喉がごろごろと鳴る。見ると、心地良さそうに表情が緩んでいる。
私の視線に気が付き、ルーシーは話す。
「あぁ、すまないね。ええと、マリリンの話だったか?ありゃ私よりも先輩だよ」
「そうなの!?」
驚いた。ルーシーは実験体の事情に詳しく、だいたい誰のことでも知っている。だから私はてっきりルーシーが一番古株なのかと思っていた。
そう言うと、ルーシーは苦笑して言葉を返した。
「私は確かに随分昔からいるけど、あくまで"第二期実験体"だからね」
聞き覚えの無い言葉が出ると、私はすぐに質問する。それを察したのか、ルーシーはすぐに"第二期実験体"について説明してくれた。
「モデルは大きく分けて五タイプ。まず鳥だね、ゴードンとかエリック」
「トリ?」
「羽が生えてて、空飛べるやつさ」
「アリサもだね!」
ピンと来ないようで、ルーシーは眉根を寄せて答えた。
「知らないね。多分第三期だよ」
「ダイサンキ?」
ルーシーは頭に手を当てて、少し考えたあと答えた。
「要するに、五人実験するごとに一区切りなんだよ。ビリーから始まって…」
ルーシーは言葉を切って黙り込んだ。聞きたかった名前が出て、私の興味はそっちに移った。
「ねぇ!ビリーって誰なの!」