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見えない友達は油揚げがお好き!  作者: いば神円
一部【八百万美術大学】
9/40

『9』六月下木曜授業、前編

 *


 一時間目にあたる授業時間が終わった時間帯。幾人かはトイレ休憩や喉を潤す為、廊下に出て行く。中で飲食は原則禁止。(内緒で食べる生徒もいるが見つかったら基本注意される)ただし、卒業制作の締め切りの切羽つまった状態などでの零れにくいものや固形の栄養補給は暗黙の了解で目が逸らされる。(飲む栄養ゼリーや固形栄養食品など)

 本気すぎる、ギリギリすぎる学生。彼らという人間は己に直ぐに苦行をといて動かず、周りの方が寛大に容認しないと大変なことになる。

 ちなみにもしそれで失敗しても、そこは自己責任だ。文句は自分に言うしかない。運命を呪うしかない。


 他残りは、そのまま休憩を取らず、前の絵を描き続けたり。本を読んだり。携帯やスマホをいじくったり。気分を変えるため音楽を聴きリラックスをはかったりする。常に耳にウォークマンを着けたがる者もいるが先生によっては叱られるので、そこは臨機応変に。


 指導云々はいつの時代も社会問題となるが、若い内に我を通せないことを知るのもまた学ぶの一つなのかもしれない。

 不条理は必ずしも悪い訳ではない。

 『この靴は大き過ぎるが、君の足より小さい訳ではないので使え』ならば、個人でどうにか努力によって改善できるし、苦痛はぴったりの靴を手に入れた時の喜びを何倍も美味くしてくれる。

 ただし、『この靴は君の足より小さいが、足を削ってでも使え』は個人の努力以前の問題なので、度合いによる。それでも、その無理難題を解決できるとしたら、それは才能と思っていいのかもしれない。


 舞心は朝一のウォーミングアップで描いていたデッサンの手を止める。背筋を伸ばし、パキパキと腕も伸ばした。指の軽い運動もしていると後輩女子が教室の開いている扉から顔を覗かし、教員がいないと確認するや否や、教室に入る。隣でジョルジオ・デ・キリコ画集を眺めていたタカは女子の気配に敏感に顔を上げた。

「おー!いらっしゃーい!」

 今時といった綺麗形女子。教室の男だらけの空気に花が咲く。(女子はいるが、ここは特待生のみで構成された特殊クラスなので十三人中の割合は1:12その唯一も今日はいない)

「タカちゃん先輩ーマロちゃん先輩ーおじゃましちゃったー」

「おはようございまーす」

「うんうん、おいでおいでー」

 教室内に残る何人かは入ってきた後輩を一瞥するが直ぐに興味をなくして視線を反らすか、反対に暇つぶしに眺める。

「おはよ」

 舞心もタカに合わせて挨拶を返し、後輩二人は昨日のサークル内に来た二人と判断。タカとうち解けているのか会話が弾みだす。その輪に囲まれながら、舞心は次の時間から試す気でいたコンパスを二人の後輩が来たことで思い出した。二人まとめてそうだが、特に片方女子の昨日の文房具店に行く前の行動が記憶に残っていた為。繋がりでコンパスが思いだされた。

「え、なん、それ」

「見て分からんかコンパスや」

「いやいや、なにか違う何か違和感を感じるんじゃ…」

 舞心がコンパスを使いはじめると、隣で後輩の女子と話していたタカが徐に声をかけてきた。後輩の女子もキャピキャピする。

「マロちゃん先輩の色っぽくないねー」

「可愛いけど、子供っぽーい」

 授業の合間である短い十五分の休み時間、別室の舞心とタカに会いに来た後輩女子二名はそんなことを言う。聴こえていた会話から判断するに、次の授業は隣の部屋であるらしい。

「次なん?」

「アクリルでーす」

「ポスター描きとか、別にしたくないのにねー」

「選んだのしたいよねー」

「ねー」

「君らのは水彩やっけ?」

「はーい。あたし達ふわふわした絵が好きなんですー」

「可愛いよねー」

「ねー」

「ふわふわ」

「あはは!二人みたいに可愛い子にぴったりじゃな!」

 タカが合いの手を入れた。

「きゃ、もうタカちゃん先輩ったらあ」

「やーん」

 くねくねして喜ぶ女子を一瞥して、コンパスで円をいくつかとったスケッチブックを見る。

「あ、シャボン玉とかかくんですかぁ?」

「あはは、大きーい」

 円の中心に穴が空かず、ズレることなく描けた。無駄な不快感もなくスッとできた感じはいい。使えそうだ。

 隣でガン見のタカ。

 近い。

 興味を持つのはいいが近い。

「…タカ、使ってもええで」

「え、いいの?やるやる!」

 身を起き上がらして両手の平を差し出してくるタカ。素直な反応に苦笑しながらコンパスを手の平に置く。舞心のスケッチブックを持って、コンパスを持ちためしに円を描いてみるタカ。

「うおっ描きやすー!」

「えーなになにー?」

「気になるう」

 後輩もタカの反応に興味を持ってコンパスを持つ。

「あーホントだぁ」

「きゃー魔法みたいー!」

 円をスケブに描いて、わっとテンションを上げる三人。それを横目で見つつ、舞心は昨日買ったストックを鞄から取り出し専用の箱に入れてく。


 子供のように夢中になるうちに、休憩時間が終わった。






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