ハロウィンとあたりめとべっこう飴と
十月末、ハロウィン。
夜中に独り酒をして過ごしていると、『ドンドンドン!』と壁を叩く音がした。
うるさいと音のした壁を見ると、真っ赤な文字で壁に「とりっくおあとりーと」と落書きが。
どうやら落書きの犯人さまは、お菓子を御所望らしい。
またお前の仕業か。俺は誰にも――自分にさえ何も見えない空間に向かって咆える。
他にハッキリ伝える手段がないからって血文字はやめろ! もし汚れが取れなかったら大家に怒られるだろうが。
全く。そもそもこの日本でハロウィンとかほとんどしないだろ。
お菓子の準備などぜんぜん考えてなかった。どうしたもんか。
困り顔の俺の前で、地団駄を踏む音だけがする。
駄々をこねてお菓子を要求されても無いものは無い。俺は仕方なく酒のつまみのあたりめを壁の前の床に供える。
ベッと顔面にあたりめをぶつけられ、次にぽこぽことお腹を叩く柔らかい感触が。どうやら希望を裏切られてかなりご不満のようだ。
悪かった、悪かったよ。でも美味しいよ?
俺はコンロで炙って柔らかくなったあたりめをしゃぶりながら、お菓子をどうしようか考える。
晩酌に財布の中身を使って、お菓子を買いに行こうにも今は現金がない。お金を下ろそうにもATMは動いていない。
面倒臭いが、作るしかないか。本当は簡単だけど。
俺は砂糖とコップ一杯の水と小さなアルミ鍋を用意。コンロへと向かった。
まず俺がしたのは、砂糖をコップの水に沢山溶かして砂糖水にすること。
次に、アルミ鍋にさっきの砂糖水をいれて弱火にかける。
鍋を回しながら焦げ付かないように注意して、砂糖水全体が茶色くなるまで加熱する。
そうなったら、うすく油を塗ったアルミホイルをしいて割りばしを置き、その先に垂らしてやる。
後は冷えて固まるのを待てば、べっこう飴の完成だ。
これなら、あいつも満足してくれるだろう。
さっそく出来た飴をお供え。
あたりめの時と違ってぶつけられることもない。今度は満足してくれたようだ。
俺の周りでぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねる音が聞こえる。
そうかそうか嬉しいか、良かったなと思ったのもつかの間。辺りを跳びまわるお陰で部屋の者がどんどんと倒れて引っくり返されてゆく。
CDが、酒が、ああーっ、棚の物が全部!
嬉しいのはよおく分かったから落ち着いてくれ。
結局、お菓子をあげても悪戯された……。
夜中に、酷い惨状にされた部屋を片付けながら独りの俺の夜は更けて行った。
翌朝。
壁の血文字は綺麗に無くなっていた。消えてて良かったあやうく大家にどやされてしまうとこだった。
そしてその壁の前に、昨晩俺の作ったべっこう飴とは別のべっこう飴が置かれていた。
置かれてある飴をみると何故か中にあたりめが。あいつ、きっとまだ昨日の事を根にもってやがるな。
そう思って苦笑しながら飴を口に含んでみると、あたりめ入りのべっこう飴は意外とおいしかった。
ハロウィンの話を即興で作ってみました。
所要時間は三十分。