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05話:決意

 そんなこんなで無事(?)に朝食を食べ終わり、私は魔王サマの道案内で再び部屋へと戻ってきたのだった。魔王サマは仕事があるとのことで去って行き、今は私一人がぽつんと残されている

 部屋が広い上にしばらく使われていなかったようで、なんというか自分の部屋なのに佇んでいるだけでさびしくなってくる空間だ

 去り際に魔王サマは「前任者たちの作った管理人の覚書があるので、それを参考にするがいい」と言っていたので、まずはそのマニュアルを探してみることにした。じっとしていてもなにも解決しそうにないし、もしかしたら帰るためのヒントみたいなものがみつかるかもしれないし


 私は置いてある可能性が一番高そうな本棚へと近付いた

 見上げるほど高いマカボニー製のずっしりとした本棚には、革表紙に金装飾の彩られたヒジョーに高価(たか)そうな深緑と焦茶色の本が交互に上から順に詰めてあり、下の数段は空で埃がうっすらとかぶっている

 その中から適当な茶色の本を抜きだして開く

 「うぅ、本も埃っぽいにおいがするし、実際に埃が積もってるから少しけむいなぁ・・・。本って虫干し? だっけ、たしか日陰に干すのがいいんだよね」

 なんかの漫画で読んだ知識を思い出しながら、指の赴くままにページをめくっていく。めくるたびにぺらりぺらりと紙が鳴る音が心地よく感じられた

 書いてあったのは、今日は中庭に花が咲きましたとか、中央回廊のステンドグラスを夕方に観ると綺麗だったとか、そんな些細な日常話がほとんどだった。時々、東の尖塔を掃除したとか、一応仕事っぽいことも書いてはあるが、はっきり言ってこれはただの日記にしか思えない

 本をしまうと、今度は深緑の本を手に取る。こちらは茶色のよりもかなり薄い。開く前にその表紙に書いてあるタイトルに目をやる。箔置きをされたカリグラフィーには『フランタ 青蛇族』とあった

 開くと中はいくつもの雑多な紙が閉じてあり、本というよりはファイルに近いものだった。一番上の紙はここの地図のようだが、なにやら変った書き方がされており、部屋を示す円形や四角形が重なりあい複雑な模様となっている。読めない地図は置いておいて、ほかの用紙にも目を通していく。どうやらこれがマニュアルのようだ。廊下の掃除のコツや天井裏のネズミの巣駆除箇所なんてのが書いてある。端が折り曲がったり破れたり、紙自体がヘタっているのは何人もの人が見てきたからだろう

 ほかの緑の本もいくつか抜きだしては次々と手当たり次第に目を通していく。毎日の仕事の流れをびっしりと書いている人、言葉少なに短いメモしかない人、洗濯のしかただけが異様に詳しく書いてある人、いろいろなマニュアルがあった

 タイトルに書いてあるのは、マニュアルを作成した人の名前と種族のようだ。一番初めに手に取った本を例にすれば、青蛇族という種族のフランタさんが書いた本というわけだ

 茶色の日記の方のタイトルには、更に仕えた時期も書かれており、『448-458 フレンタ 青蛇族』となる

ある程度の本を軽く読み終えた私は、日記とマニュアルが交互に並びセットとなっている中から、共感できそうな種族を探すことにした

 一部のマニュアルは特殊すぎて、正直、役に立ちそうになかった。フランタさんで言えばネズミの駆除の仕方が捕食とか、まあ、蛇の仲間みたいだし・・・・・・と、私は黙って本を閉じた

 他にもスライムの人は床を傷つけずに汚れだけ綺麗に溶かすコツが書いてあるし、耳長族の人は花壇の食べてはいけない草といい草の違いしか書いてないし、その種族に近いひとにとっては役にたつ情報なのだろうが、私には必要ないものだった

 いくつもの本を抜いては戻して、それでどうにか見つけた人間族。あとわかりやすくまとめているラミアと獣脚類の人のも抜き出しておく

 本棚の横に置かれている学習机に似た木製の机の上に、その三冊を置こうとして、私はすでに置かれていた本の存在に気が付いた

 茶色と深緑の二冊の本は、散々みた日記とマニュアルと同じだった

 手に持っていた本を机の端に置くと、その日記のタイトルを口にする


 「675- 加藤春香 人間族」


 私の名前・・・・・・?

 春香と書かれた本を開く。1Pは白紙。2P目も、3P目も……どこまでめくっても白紙が続く日記。もう一冊のマニュアルの方にも白紙が閉じてあるだけだった

 もう一度本を閉じて表紙に書かれた名前を指でなぞりながら、これは私が書くように用意された本なのだと、理解した

 筆入れからペンを抜きだすと、白紙の日記を開く

 日付けをどう書こうか迷ってから、朝食の時に冷蔵庫に貼られていたメニュー表の日にちを参考にすることにした

 書いたのはたった一言だった


 それは決意の言葉


 なによりも優先すべき、私の願い


 たとえどんな苦難が待ち受けていようと、どんな大変な道であっても、必ずなし遂げるべき、強い目標






―――4月6日

   

   必ず家に帰る。


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