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04話:そして腹拵え

黒パンで検索すると素敵なのがひっかかる

 案内された先の食堂は広々としていた。人が私以外だれもいないので、広々というよりもがらんとしていたというほうが正確かも

 体育館くらいの広さの部屋に、50m走もできそうな長い机が並んでいる。好きなところに座っていいって言われても、なんとなく遠慮しちゃって隅っこの方に腰をおろしてしまった。小市民ですみません

 小さくなって待っていると、魔王サマが食事の乗ったプレートを片手に戻ってきた。お子様ランチが乗っているような区切りの付いた皿に、パンと目玉焼き、それにスープの入ったカップが乗っている

 いい匂いにますますお腹が減ったと、ぐーぐー鳴って私に訴えかけてくる


 「いただきます」


 手を合わせてから、まず目についたパンを手に取る。丸くて十字が切られたパン

 半分にちぎろうとしたけど、なかなか固くて、力をいっぱい入れたらつぶれてしまった。それを口の中にいれると、なんだか、すっごく、体に良さそうな味がした

 固いし、黒いし、変な味がするし、それ以上パンを食べる気にはならなくて、次に目玉焼きをフォークで切り取ってから食べる。これも変な味がするんじゃって覚悟したけど、これは普通の味がした。卵の下にはベーコンが隠れてて、美味しかった

 野菜スープも一口飲んでみたけど、こっちも普通に美味しい

 まずいパンをベーコンエッグとスープでごまかしながら頑張って食べる

 半分くらい食べ終わったあたりで、前の席で魔王サマがなにもせず座ったままなのに今更気が付いた


 「朝ごはん、食べないんですか?」


 そういえば、なんで私は敬語なんて使ってるんだろう? 魔王サマの偉そうな雰囲気にのまれてかな


 「気にしなくていい。それより量は足りているか?」


 気にしないでっていわれても、黙ってみつめられながらご飯食べるのってなんかビミョー

 イケメンなら許せる気もしないでもないけど、なんか居心地悪いのよね~


 「量は十分だども、ちょっとパンが口に合わないです」

 「どんなパンがいいのか言ってみろ。他の料理に関しての不満もだ」


 なんでこの人、基本、偉そうなのかしら? 魔王サマだから?

 とは言っても、口調は機械で作った音声みたいに淡々としてるから、それほど威圧感はなくて助かるんだけどね


 「えっと、普通のパンがいいです。食パンとかクロワッサンとか、普通のやつ」

 「ふむ、わかった。他には?」

 「あとは大丈夫です。ベーコンエッグもスープも美味しいです」

 「そうか」


 まるで業務連絡みたいな会話を終えると、また彼は黙ってしまった

 居心地の悪さをごまかすために、がんばって残りの食事も片付けてしまおう。やっぱ普通のふわふわのパンがいい。ちょっち涙目


 「ごちそうさまでした」


 両手を合わせると、プレートを持って立ち上がる


 「これってどこに片付ければいいですか?」


 必殺・片付けると称して、ほかのひとに挨拶をすませる&印象アップ作戦だ! 城の管理者?になることに納得はしてないけど、一緒に働く仲間になるのだ。できるだけ仲良くしておきたい

 先ほど料理を持ってきた先が調理場と予想をして、そちらの方へと向かう


 「おじゃましまーす」


 予測した通りにそこは調理場だった。家庭科室のように広い調理場は何人もが同時に料理ができるように、いくつものコンロや流し場があちこちにあった。お風呂にできそうなほど大きな鍋や、なにに使うのかわからない器具がきちんと整理されて並んでいる

 だけど、誰もいない


 「どこに片付ければいいのかなぁ」

 「そこの流しに置いておけばいい」


 いつのまにか後ろに立っていた魔王サマが、白くて長い指で流しを指差す。青色に塗られた爪は魔女みたいにとがっていて、刺されたら痛そう

 指示されたように、食器プレートをそこに置く。これを使うなんて小学生の時にファミレスとかでお子様ランチを食べた以来だわ。チキンライスのてっぺんに刺さってる旗が好きで弟と競争で集めてたなぁ。なぜか弟の方には調べないと出てこないようなマイナーな国旗ばっか来て、こんな変なのいらないって私のと交換したっけ。ブータンとか、手が込んでてカッコイイとおねーちゃんは思うんだけどな

 

 「他に人はいないんですか?」

 「ああ、この城にいるのは我とお前だけだ」

 「じゃあ、この朝ごはんて魔王サマが作ったの!?」


 驚きだ

 まさか、この澄まし顔の魔王サマが、この朝食を作っただなんて

 ベーコンがカリカリになるように焼いている姿を想像したら、可笑しくて頬が自然とゆるんでしまった


 「作ったのはそこの魔道具だ」


 と、思ったら違うらしい

 朝ごはんを作った魔道具とやらは、白い四角の箱で、大きさは私よりも少し大きいくらいの高さ。上と下に分かれていて、それぞれの前面に銀色のとってが付いた扉がある

 これ……ただの冷蔵庫だ

 蛍光灯の一つもないものだから、この城には電気がかよっていないのだとばかり思っていた


 「開けてもいいですか?」


 許可をもらってから、冷蔵庫を開けてみる。ぱくんと、わずかな抵抗をしてから扉が開く

 中にはなにも入っていない

 続けて開けた冷凍庫のほうにもなにもなかった

 というか、冷たくもなんともない

 なんなんだコレ? やっぱりココには電気が走ってないんだろうか


 閉めてから、冷蔵庫のインパクトにスルーした、ドアに貼ってあるメモに目を通す


 6・朝:パン・卵とベーコン・スープ

   昼:パン・ジャガイモサラダ(冷)・魚・スープ

 7・朝:パン・サラダ・スープ・オレンジ(冷)

   昼:パン・肉・キャベツ・スープ

 8・朝:・・・・・・・・


そんな感じに日付?とメニュー?らしいものが5日間分書かれている

 6日朝のメニューって、さっき食べたやつだよね。これが献立表なのかな。さっき人間は朝昼の二回って言ってたし

 眺めていると、魔王サマがそのメニュー表を剥がした


 「食べるものはお前が好きに決めろ。これに書いておけば、その通りのものがここから時間になれば出る。温かいものは下から、冷たいものは上からだ。出る時間に合わせる必要はないが、時間が経つとぬるくなる」

 

 そして、何も書かれていない白紙のメニュー表を新たに張った。そこには朝・昼・晩と私の希望通り三回分の空欄があった

 えっと、朝は7時で、昼は12時、夜は8時ね。出来たてほかほか食べたいし、できるだけこの時間にくるようにしよう

 でも、さっき見たメニュー表はだいぶおおざっぱだけど大丈夫なのかな? スープだっていろんな種類があるし、肉って漠然としすぎてるよね


 「好きにって言われても、どうすればいいの? 肉とか魚とか、どんな料理が出るのかわかんないし」

 「単語を登録した食事が出るようになっている。肉ならマキステットを焼いたもの。魚ならヌヌヌのバッセソ詰めを蒸したものだ」


 ・・・わからない単語を出さないでください。でもそのマキステットという動物について詳しく聞く勇気はない。聞いて8本脚の紫の形容し難いナニカと答えられたらここで暮らしていける気がしない。というか前にいた人、本当にヌヌヌを食べてたの!? 勝手に親近感を感じてたけど、深くて長い谷が私たちの間に存在しているようだ

 大丈夫だよね。さっき食べたベーコンと卵はちゃんと豚と鶏のやつだよね。怪しげなもの食べてないよね。必死に自己暗示をして自分を誤魔化す


 「例えばミートスパを出すにはどうすればいいの?」

 「特定できる程度詳しい説明があれば、こちらで調べて単語を登録しておく。もし違えばその都度、訂正するので遠慮なく言うがいい」


 本当にこの魔王サマは偉そうだなぁ

 そんなことを思いつつ、でも口には出さず、メニュー表に自分の食べたい料理を書いておく

昼:ミートスパゲッティ(スパゲッティという細長い麺をゆでたのに、牛肉をケチャップで和えたソースをかけたもの)

これで大丈夫かな。書いてみるとミートスパの細部は曖昧になってしまったけど、あの調子で謎肉を使われるよりはマシなものが出るだろう

念のため、牛の文字をもう一度なぞって強調しておく。夕食は昼にでも決めよう


 私がメニューを書いているうちに、魔王サマが皿を洗ってくれた。庶民派な魔王サマだ。きれいになった皿は冷蔵庫の中に仕舞われた。そこでいいの?

 建物が古そうだったり電気が通っていないっぽいのに、キッチンはステンレスな近代的な設備で蛇口はあるし謎冷蔵庫はあるし、よくわからないところだ

 本当に私はここで働けるのだろうか。というかさっさと帰してください


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