否定
「それは違うと思う」
そう言って、僕は後悔した。またやってしまった。
これは僕の悪い癖だ。彼女の言う言葉を何でも否定してしまう。
「頑張って失敗した時、傷つくのは自分なんだ」
後悔していても僕は言葉を止めることは出来ない。
「でも、頑張らないと怠惰って言われる」
彼女も負けじと反論する。
彼女の事は好きだが、言い返されると此方も反論したくなる。これも悪い癖。
「そもそも、人間楽な方向へ逃げようとするのは当たり前じゃないか? それを悪いと言うなら、それはただの偽善。良い子の振りをしたいだけだ」
そこで、彼女はムッとした顔をした。彼女じゃなくても、誰でもそんな顔をするだろう。悪いことをしている自覚は大いにあった。
「拓海は何時も否定ばっかりだよね」
それについてもやっぱり否定したくなる。
僕は自分の意見を言ってるんだ。
そう言いたくなる。きっと言ったら、喧嘩が長くなる。
「何も答えないけど、どうせ否定の言葉しか考えてないんでしょ」
「そんな事ないよ」
取り敢えず否定した。否定してから気がつく。
彼女はいやらしい笑みを浮かべている。
「ほら、またそうやって否定する」
「それはお前が」
最後まで言わなかった。だって、これも否定だから。
ここまで自分が否定しか言ってないとは思わなかった。
我ながら酷い性格を持って生まれた。
「なんで、拓海は否定ばっかりなんだろうんね」
ため息をつく彼女。
「もしかして、拓海は私の事嫌い?」
少し考えて言う。
「そんな事ないよ」
また否定。
それを聞いて彼女は優しく笑う。