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廃倉庫

 実際問題、姫乃咲夜という少女を助けようとする必要はなかったのだろう。そこまで深い関係ではないし、浅すぎる関係と言える。しかし、なぜか助けたいと思った。なぜなのだろうか。もしかしたらヒーローごっこでもしたかったのか。子供じゃあるまいし……。

 あの後、サマエルは「まぁ、困ったことがあったらここに来なさい」と簡単に時間をかけず書いたであろう地図を俺に渡した。その地図に書かれているのは確か、現在は使われていない廃れてしまった倉庫といったところだった気がする。

 俺はそのまま家に帰った。電車に乗って、普通に。

 天使?化け猫?普通じゃない。だから信じられないけれど信じても見たい。そんな不可思議な感情が心の中で渦巻く。


 「にぃちゃん、おかえりー。どうしたの?遅かったねー」

 家に帰ると、柚子がそう言って迎えてくれた。

 「本屋に寄ってたんだよ」

 適当な嘘をつく。柚子はその嘘を特に怪しまず、「そーなんだ」と言ってリビングに戻っていった。

 俺はまっすぐ自分の部屋に向かった。

 一応、さっきの単語を頭の中で反芻してみる。

 ――――――天使。神様。化け猫。サマエル。姫乃咲夜。

 「…………」

 無理です。

 いやいや、だってこの単語たち現実離れが甚だしいぜ。姫乃咲夜っていうのは人名だからこの際触れなくてもいいけど、他の単語たちは暴れすぎだろ!

 なんだ、天使って!なんだ、神様って!なんだ、化け猫って!

 考えたすえ、電車で考えても自室で考えても同じということが分かったため、まぁそこが知れてよかったな、と無理やりポジティブシンキングに持ち込む結果になってしまった。

 それ以上の思考は無駄だと思ったため――――――というか今日という1日だけで仕方がないけれど、とても疲れてしまったためベッドに潜り込んだ。そして、すぐに眠りに落ちた。


 翌日。4月13日日曜日。快晴である。

 俺がもし吸血鬼ならこの日光ですぐに砂と化していたかもしれないけれど、残念ですがそんな事実はないので砂にはならない。

 なので俺は安心して外に出た。現在午前9時30分。少し眠い……。

 しかし眠たくても行かなければいけない場所があるのでそこに向かうとする。昨日サマエルとやらから聞いた―――というより教えられた廃倉庫である。

 もう何年も使われていないであろう、目的の廃倉庫に到着する。掃除など長年しているわけなく、埃が喉をつき、また錆び付いた匂いがする。

 本当にこんなところにいるのか?

 「サマエル!」

 半信半疑の心構えながらも俺がそう叫ぶとサマエルはとても眠そうに目をこすりながらその姿を現した。やっぱり、どこかのショッピングモールなどで見かければ綺麗だなと思わせる容姿。どこにでもいそうなんだけど。

 だけど、天使または神様。胡散臭いけど。

 「うるさいなぁ……。あぁ神前君か。昨日の今日なのにあの子に熱心だね」

 サマエルはからかうように言う。

 「で、なに?」

 サマエルは少し面倒くさそうに言った。

 「姫乃の助ける方法を教えてくれ!」

 するとサマエルは「やっぱりね」と小さく言った。

 「確かに化け猫をどうにかする方法はあるけど」

 サマエルの中の眠気は結構強いらしく、うつらうつらとした表情で話す。

 「本当か!」

 「うん、ただその前に1つ聞かせてほしいな」

 サマエルは俺の目をじっと見る。

 「なんであの子を助けようとするの? まぁ人を助けようと思うのはいいことだけど、実際そんな聖人みたいな人はいないんだわ。これはもう断言していい。会って数日という浅い関係。そんなに話してもいない。友達でもない。しかも相手は化物、妖怪。だとしたら――――――」

 サマエルは俺に聞く。

 「――――――なぜ?」

 先述したとおりサマエルの言うとおり助ける必要がない。ヒーローごっこかもしれない。聖人になれないからせめて善人と思われたいのかもしれない。

 ここで主人公なら、誰かを助けるのに理由なんていらねぇ!、とか言うのかもしれないけど俺にはそれが言えない。そんなこと微塵も思っていないし、それに。それ以上に俺は。

 主人公にはなれない素質だ。一生かかっても届かない。

 でも。それでも――――――。

 「こんな俺でもこの小説の主人公に抜擢されちゃったんだし、そのくらいしなくちゃ駄目だろ」

 なんて。メタ発言しちゃって。

 「……ま、いいけど」

 サマエルは呆れた風に俺を見た。

 「さて、じゃあ化け猫の対処法を教えるけど簡単なんだわ。化け猫を殺せばいい」

 サマエルは当たり前のように答える。

 「ただし化け猫を殺せば、あの子も死ぬよ」

 「え? ちょっと待て! 俺はあいつを助ける方法を――――――」

 「無理だよ、そんな方法」

 そんなことをさらっと言う。

 「だから言ったでしょ。“化け猫をどうにかする方法”はあるって。でもね、助ける方法は私のできる限りでは無いわ。そもそも化け猫に憑かれるってどういうことかわかってる?」

 「いや、知らない……」

 「まぁ、この際だから説明するけど所謂化物というものには大きく分けて3種類あるのよ。ミカエルが統治する天使。サタンが統治する悪魔。そして誰も統治しない妖怪。さらに妖怪にも一応は線引きとかあるけど今は説明する必要ないわね。で、今回の化け猫は妖怪という部類に入るわ。妖怪は人に憑く。その理由は人の悩みに付け入るためね。もし妖怪に憑かれればつまるところその妖怪と一心同体になるということよ。その結果妖怪を殺せば憑かれている人も死ぬ。人を殺せば憑いている妖怪も死ぬ。一生を共に過ごさなければいけない。人は憑かれたその時から実質的には死ぬんだよ。そしてその妖怪を倒すために立ち上げられたのが霊能社っていう団体。それに属する者を霊能者って言う。さて、神前君。君が選べるのは2つに1つ。被害を抑えるためにあの子を殺すかそれとも善良な市民が傷つけられていく様子をただじっと見ているか。まぁ、君があの子を殺さなかったらあの子は霊能者に殺されるだけだと思うけど」

 「…………」

 結局、俺は主人公にはやっぱりなれないらしい。みんなが笑って終われる方法を探すけれどそれはあるのだろうか?

 「俺にあいつを殺すなんて……」

 「ふーん、じゃあ人が傷つけられていくところを見てたら」

 サマエルは冷たい目で俺を見る。

 探す。考える。殺す。化け猫。

 殺すなんて……。…………? 殺す? 憑いたら実質死んでいるも同然。何かが引っかかっている。

 「移したりはできないのか?」

 「言うとは思っていたけどね」

 サマエルは別段驚きもしなかった。

 移す。化け猫を他人へ移す。姫乃咲夜以外の誰かを殺す。

 「できるか?」

 一縷の希望を乗せて俺は聞いた。

 「できるかできないかで聞けばできるかな。ただし、問題が2つある。1つは失敗の可能性が高い。失敗したら、死ぬ。もう1つは誰に移すかという問題。さっきも言ったとおり憑かれた人は死ぬ。君には殺したいほど憎い相手というものがいるのかい?」

 サマエルは愉快そうに聞く。

 「いる。それは俺だよ」

 主人公にもなれずに人を助ける理由も答えられないような死んでもいい人間。そいつはおそらくこの俺なのだから。

 「くくっ、あははははははっはははっはは」

 サマエルは愉快に痛快に笑う。俺を嘲り笑う。不愉快な笑みを浮かべて。

 「一応言っておくけど、おそらく化け猫を移すときに君は地獄を見るよ。そして移せたとしても地獄を見続けるだろう。妖怪と人は共存できない。だから霊能者はいる。そのことを忘れないでおくことが君には重要だよ」

 サマエルは真剣な表情をする。

 「じゃあ、3日後のえっと……水曜日にあの子と一緒にここに来なさい。それまであの子を24時間ずっと見張っていてくれ」

 「学校とかどうしたらいいんだよ……」

 するとサマエルは「サボっちゃって」なんて他人事のように言った。確かに他人事だけど。

 「あと、これ」

 サマエルはポケットからどこにでも転がってそうな石を取り出し、俺に渡した。

 「なんだこれ?」

 「化け猫の暴走を抑えるためのものだわ。3日ぐらいならもつでしょ」

 なんて適当に言った。そこは大事なとこなんだがな。

 サマエルから石を受け取り、廃倉庫を後にした。

 諸事情により更新が遅れてたりします。いやー、小説を作るって難しいなぁ。

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