暗い夜道には気をつけましょう。
「う、うわぁぁぁあぁぁ!助けてくれぇ!」
もし周りに街灯がなければ何も見えないであろう暗い夜道。夜になると本当に人がまったくより付かなる場所。そこでその男は襲われていた。
「ひ、ひいぃぃぃいい!に、人間じゃない!この化物、近づくな!」
男は“そいつ”から逃げようと必死だった。
「ぐぅぅぅうぅうううぅ……」
“そいつ”はとても低く呻く。
「お、俺が何をしたって言うんだ!毎日会社では上司にはこき使われて!それでも家族のために頑張ってたのによぉ!くそぉ。ち、近づくな!」
男はその辺にならどこにでもいそうな普通のサラリーマンだった。特に髪を染め上げるわけでなく、ただ家族にために働いてきただけだった。だから、こんなところで化物のようなものに襲われることは筋違いなのであろう。しかし“そいつ”は男を逃がさない。“そいつ”は彼の手を足を体をそして彼の精神を少しずつ蝕んでいく。
「いやだぁぁぁぁあぁ!」
“そいつ”はやめない。彼をただ傷つける。彼は叫ぶ。しかし、誰も助けてくれない。
グシュッと、ガシュッと、グチュグチュと。血のあの独特な匂いがする。
そして彼は――――――。
「何をしているんでしょうね」
なんの前触れもなく女性の声が辺りに響き渡った。
「ぐるるぅ……?」
“そいつ”はその女を睨めつける。ジッと見続ける。その夜道だけ世界から見放され、時間が止まっているように感じられた。
だが、時間は動き出す。“そいつ”が先に動いた。しかし、その女を痛み付けるわけに動いたわけではない。“そいつ”は逃げるために動き出した。“そいつ”はどこか……おそらく本能で感じ取っていたのだろう。この女は危ない、と。
「あの子、完全に魅入られてますね……」
女は誰に話しかけるわけでもなく、“そいつ”の背を向け逃げている姿を傍観しながらただつぶやく。
「あの……。あ、ありがとうございます……」
一介のサラリーマンは彼女に礼を言う。
「いえいえ、気にしないでください。それより救急車を呼ばなくてはいけないですね」
そう言うと、彼女は最近購入したばかりの携帯電話を取り出し、そして電話する。
「もうじき、救急車が来ると思うのでじっとしててくださいね」
すると、彼女は立ち去ろうとする。
「え……。あのどこへ?」
「私もあまりここで時間を食いたくないですからね」
そして、彼女は笑顔でサラリーマンを見たあと、再び歩き始める。
「これからどうなるのでしょうね。あの子はどう動くのか……。高みの見物とでもいきましょうかね」
彼女は独り言をつぶやくように、はたまた誰かに伝えるように言う。
「これだから――――――」
何かすごいことを言うような仰々しさが宿る。
「生きることはやめられないんですよ!」