談話
「幽霊とかって信じる?」
今年の4月7日から、もっと正確に言うならば明日から中学生になる妹の柚子は夕食のコロッケを食べながら俺にそう聞いた。
「幽霊?」
不意に聞かれたのでつい聞き返してしまう。すると柚子はまるで自分の夢を語りだすようなそんな嬉々とした表情を浮かべた。そして右手に持っていた箸をカチャカチャと決して行儀がいいとは言えない音を出しながら話し始めた。
「そう幽霊。幽霊とか妖怪とか神様とかってさ、まぁ非科学的だよね。でもさ、そういうのってさ何ていうのかなぁ……。そう、うん。ロマンがあるんだよね」
そこで俺が「ロマンかぁ。甘そうなお菓子だな」と言ったら、「にぃちゃん、話の腰をおらないで」と怒られた。
「でまぁ、つまり簡単な話幽霊とかに会ってみたいわけよ。話してもみたいな」
柚子はコロッケを食べ終えたらしく、9割がたキャベツしか入ってないサラダを食べ始める。
「じゃあ例えばだがどんな幽霊とかに会ってみたいんだ?」
「一つ目小僧とかかなぁ……。あ!あと化け猫とか」
「だいぶマニアックだな……。俺はユニコーンとかだと思ってたぞ」
「うーむ、にぃちゃんの感性はわからん」
お前の感性の方がわからん気がするぞ。
「そういえば何でそんなこと俺に言うんだ?」
ふと思った疑問をそのまま口にする。
「別に深い理由も浅い理由もないよ。なんとなく聞きたくなっただけ。で、信じてるの?」
柚子はサラダのキャベツの量にうんざりとしたらしく、食べるスピードを落とす。
「俺はそういうのは信じてないよ」
そう簡潔に答えると「にぃちゃんらしいよ」と柚子に返された。
「俺らしい……ね」
俺は別段感情も込めずに呟いた。
「そういえば、にぃちゃん。明日から高校生なんだよね」
「あぁ、そうだな」
俺こと神前隼は明日から新・高校生といった感じになっている。これから3年間通う高校は霜月高校という進学校である。といっても俺の成績が飛び抜けていいわけでもなく、中の上ぐらいである。順位でいえば100人中35位ぐらい。だからまぁそのへんの公立高校と特に違いは無いと思う。
「てか、お前もだろ。明日から中学生じゃん」
「あーそうだね。うん。そこそこ楽しみだなぁ」
「何でそこそこなんだ?」
「だって小学校のときと特に友達とかが変わんないじゃん。変わっても近くの学校から来るだけだし。だからさぁ……あんま実感ないんだよね」
まぁ、それも一理あるか。俺もおんなじ感じだったからなぁ、と無駄に思い出に浸ってみる。
それにしても化け猫か。化け猫。違う言い方をするなら猫又。確か、不遇の死をとげた主人のためにその愛猫が怨みをはらそうとして変化した妖怪だったはずだ。人にも化ける。“猫をかぶる”っていう諺もそういうところが語源なんだろうなぁ。
そんなことを俺が考えているうちに柚子はサラダも食べ終わったようで「ごちそうさまでした」と言って、自分が使った食器を片付けていた。
「ま、しょうもない話に付き合ってくれてありがとう。それ、はやく食べちゃいなさいよ」
そう言って柚子は自分の部屋に帰っていった。
「明日、いきなり化け猫に出会ったりしないかね?」
柚子が言い出しそうなことを何となく呟いてみた。まぁ、多分出会わないだろう。
そう思って、そう願った。
目標・・・30000字
頑張るぜー!