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リリカと優しい悪魔様  作者: 夕月 星夜


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2/9

2


「……どちらさまって……」


何故か激しくショックを受けた顔をされたが、それどころじゃない。

どうして完成してない魔法陣から召喚されるというんだ。

どうして、こうも、上手くいかない。


「……う」

「う?」

「うわああああ先生ごめんなさい私なんかやらかしたっぽいですうううう!!」


頭を抱えてしゃがみ込む。

なんだろう、情けなくて涙がじんわり浮かんできた。


「いっつもこうだよなんでうまくできないの? バカなの?」

「お、おい……」


ぐすぐすと泣いていると、頭にぽんっと手が置かれる感触があった。

ビックリして顔を上げれば、非常に困ったような顔の美青年が。


「……あ、ご、ごめんなさい」

「いや、うん。なんか知らんが、頑張れ」


初対面の、しかも正体不明の人に慰められてしまった。

さりげなくハンカチまで差し出されてしまったが、丁重に断って、手の甲で乱暴に拭う。


「取り乱してすみません。ええと……」


とにもかくにも、召喚してしまった事は事実だ。

少なくともちゃんと状況説明はしなくてはと、リリカは美青年に向き合った。


「私の名前はリリカ・リリアムです。ゴーティア魔術学校の一年次で、本日は課題に出された召喚陣を書いていました」

「……一年次で俺を召喚できるって、どんだけ天才なんだ?」

「あの、それでですね」


どことなく呆然としている美青年に、リリカは召喚陣を指し示す。


「その召喚陣、確認して頂いてもよろしいでしょうか?」

「は? 確認って……」


言われるままに召喚陣へ視線を落とし、それから美青年はピシリと音を立てて固まった。

どうやらこの魔法陣がどんなものなのか分かったらしい。

これなら話が通じるかとリリカはひとつ息を吐いた。


「ご覧のように、その召喚陣は初級精霊召喚用で、しかも書きかけです」

「……だ、よな……じゃあ、なんで俺は召喚されたんだ?」

「むしろ私が聞きたいです……」


真面目にひとつずつ丁寧に書いていて、何も間違えていないのにどうしてこうなった。


「魔力の籠め方にも問題はないし、召喚陣への文様の書き方や順番におかしい所もない……やっぱりこれ、ちゃんとした初級精霊召喚用だな」

「ちなみに、この魔術書で書いたものです」


読めるだろうかと魔術書を差し出してみると、美青年は一瞥して小さく頷く。


「うん、間違いないな。やっぱり、どうして俺が召喚されたんだかわからない。だがまあ、召喚された以上はきちんと挨拶しようか」


そう言って魔術書を返すと、美青年は流れるような動作で一礼をした。


「私の名はユリウス・エリゴール。魔王城宰相ベルゼビュート様が配下にして序列15位を与えられた者。魔界の公爵だ」

「魔王? 魔界? って、それって、もしかして」

「……まあ、いわゆる悪魔だな」


何を言いたいのか察したらしい美青年――ユリウスの苦笑に、リリカは気が遠くなりそうだった。

なんで初級精霊召喚陣から悪魔が出て来るのか。

しかも公爵ってどれだけ上位なのか。


思わず脱力してぺたりと座り込んだリリカに、視線を合わせるようにユリウスも片膝をつく。


「とりあえず召喚された事は事実だから、何か命令を」

「い、言える訳ないじゃないですか!!」


悪魔召喚はそもそも上級生、最低でも五年次生にならなければ関係書を読む事さえ禁じられるのだ。

いくら原因不明で事故だったとしても、このままリリカが契約を交わしたままではいられない。


「とにかく、先生に報告しなきゃ。それで、ペナルティでもなんでも貰って、それから貴方を契約解除して返せるようにしないと」

「先生?」

「あ、私の担当の先生です。多分、この時間ならまだ起きてるはずなので」


時刻は午前0時を十分も過ぎていない。まだ大丈夫のはずだ。


「ええと、それじゃあ申し訳ないんですけど、私は先生の所へ行って来るのでこの部屋で待っていて貰えますか?」

「いや、一緒に行く」

「え、でも多分状況確認でこの部屋に先生も来ますよ?」


だったらここにいた方が二度手間にならないで済むのではないかと思ったのだが。


「何を言ってるんだ。時間を考えろ」

「え? 午前0時過ぎ、ですけど……」

「いくらなんでも、こんな時間に一人で女を歩かせられないだろう。何かあったらどうするんだ」


何を言われてるのかわからなくて目をパチパチさせる。

けれど、憮然とした表情のユリウスは、冗談でもなんでもなく本気でそう言ってるようだ。


「……ここ、学生寮です。先生の部屋も同じ寮内にあるので、外には出ませんよ?」

「この部屋から出たら対して変わらないだろう。夜にふらふらしてる女は男にとって格好の獲物になるんだぞ」


つまり、それは。


「……心配して、くれてる、の?」


思わず呟けば、ハッとしたように顔をそらされて。

その頬がほんの少しだけ赤い。どうやら、本気で心配してくれていたようだ。


じわじわと嬉しさが込み上げて、リリカは思わず笑顔になる。


「ありがとう、優しいんですね。じゃあ、お願いします」

「……お、おう……」


どこかばつが悪そうなユリウスに、召喚されたのがこの人で良かったと心から思えた。




.


エリゴールはソロモン王72柱のうちの一人、エリゴスから取らせて頂きました。

爵位等もほぼそのままです。

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