絵美 その2
●絵美 その2
○絵美の通う私立高校 昼休み
ご飯を食べている絵美と友人三人
夏希「私、ダイエット中なの。だから絵美、これ食べてくれない?」
そうやってお弁当の残りを差し出す
絵美「いいの? ありがとう」
由佳「私も今日はちょっと調子悪いなあ。少しだけでいいからお弁当の残り、食べてくれない?」
絵美「そっか。大丈夫だよ。後で食べてあげる」
由佳「ありがとう。本当助かるよ。うちの親、弁当残すだけでキレてくるからさ。本当やってられないんだけど、でもいつも食べてくれて助かるよ」
絵美「いいって。本当調子悪かったらいつでも言って」
少し量の多い弁当箱の周りに残されたお弁当が集まる
恵梨香「でも絵美ってよく食べられるよね」
絵美「そうだね。ちっちゃい頃からもう太ってたから」
恵梨香「諦めちゃったの? ダイエット」
絵美「うん。正直、このまま痩せることもないだろうから、みんなの役に立つんだったらどんどん食べるよ」
恵梨香「あんまりムリしないでよ?」
夏希「本当ごめんね、いつも」
由佳「私も」
絵美「いいよ、大丈夫だから」
お弁当を食べていく
かしましい声を出す四人
由佳「絵美は結構人気者で羨ましい」
絵美「人気者?」
由佳「みんなから声かけられてるし、いっぱい友達いるだろうし」
絵美「そうかな?」
夏希「そうだよ。女同士って結構派閥があって面倒臭いんだよ。だけど全部の子と仲がいいって結構珍しいよ」
絵美「そういうものなの?」
夏希「そういうもんだよ」
絵美「そっか」
ちょっと笑う絵美
○町中 放課後
四人が歩いている
恵梨香「最近食べ歩きとかしてないね」
由佳「昔は結構してたけどね」
絵美「ダイエットのせいかな?」
夏希「どっちかっていうと金欠だからだと思う。お金があればいくらでもやりたいよ」
絵美「……やっちゃう?」
恵梨香「え?」
絵美「食べ歩き」
夏希「聞いてなかったの? お金が――」
絵美「いいよ。大丈夫。私、昨日お金が入ったから」
恵梨香「でも悪いよ。さすがに四人分はキツイよ」
絵美「んー。じゃあ、私一人だけ食べる!」
由佳「何か絵美らしいや」
夏希「そういえば一個百円のケーキショップできたらしいよ」
絵美「本当に?」
恵梨香「あーあ、絵美の目が変わっちゃった」
絵美「行こう行こう! 教えて!」
夏希「いいよ。たくさん食べちゃって!」
ケーキを食べる絵美
それを微笑ましく見守る三人
○高級マンションの前
絵美「じゃあここで」
恵梨香「うん」
夏希「またね」
由佳「じゃあね」
○マンション
一人で部屋に入る絵美
ガランとしたリビング
内装は豪華ではあるが部屋が広く、ポツンと一人佇んでいる
チャイムが鳴る
インターホンに出る
絵美「はい」
吉岡「黒田さん。家庭教師の吉岡です」
絵美「あ、はい。少々お待ち下さい」
自宅に家庭教師の女性、吉岡が入ってくる
広い部屋でふたりきりで勉強をする
あっという間に夕方になり、日が沈み、夜景が広がる
吉岡「じゃあ、今日はこのへんにしておこうか。また明日来るから」
絵美「ありがとうございました」
吉岡「うん、じゃあまたね」
絵美「また明日」
扉が閉まる
リビングに行き、スイッチを押す
窓に全自動でカーテンが閉まる
チャイムが鳴る
インターホンに出る
絵美「はい」
母親「絵美、私」
絵美「お母さん! 待ってて」
母親が扉を開ける
絵美「おかえりお母さん。珍しく早いね」
母親「今日は私が休みをとったの」
絵美「そんなことしていいの?」
母親「いいのいいの。たまには休んで家族の時間だって作らないといけないでしょ、って部下に言われちゃったのよ」
絵美「そっか。優しい人だね」
母親「でもね。正直、今仕事を手放しにできる状態じゃないの。一応帰ってはきたんだけど……。やっぱりみんなに悪くて。ごめんね。またすぐに出かけるから」
絵美「……そっか」
母親「そのかわり、家政婦さんに私が指示しておいしいご飯作ってあげるから!」
脂っこい料理が並ぶ
それを美味しそうに食べる絵美
絵美「学校のみんな、お弁当の量が少ないの。みんなダイエットとか事情があるみたい。大変そうだな」
母親「そんなに若いうちからダイエットなんかやったらダメよ。体壊しちゃうから。大体若いうちはそれだけで素晴らしいことなんだから」
絵美「そう、だね」
母親「気にしなくてもいいの。そういう子たちはどうせ言っても聞かないんだから。痩せてることだけが美しいことじゃないのにね」
絵美「うん」
母親「もう行かなくちゃ。あとはもう全部家政婦さんに任せて」
絵美「分かった」
母親「それじゃあね」
絵美「うん……」
リビングから出ていく母親
扉の閉まる音がかすかに聞こえる
ガランとしたリビング。一人で残さず食べきる
○自室
お洒落に統一されたインテリアの自室
パソコンの電源を入れる
SNSサイトにつなげる
アキラさんからのメッセージが届いています、と表示されている
絵美「アキラくん」
「アキラくん。いつもメッセージありがとう。早く会いたいよ」とメッセージを書く
キーボードを操作する音が広い自室にこだまする