エピローグ
●エピローグ
○光と田中晶の父親、横山真との会話から十数年後
絵美と絵美の母親|(黒田・不動産会社社長)の再会から半年後
田中とマスター|(斉藤・SHモータース社長)の家出から数ヶ月後
悠太がSHモータースへ来た直後
マスター「悠太、ちょっと来てくれ。それと田中ちゃん」
田中「はい」
マスター「お客さんだ」
田中「誰ですか?」
マスター「晶って人を探してるって言ってたな。好青年だったぞ。外で待ってるから行ってこい」
田中「そうですか」
マスター「悠太、行こうか」
立ち上がる悠太
マスターは店の奥へと歩き出す
すれ違って店の外に出る田中
○SHモータース
店の外へと向かう田中
外に絵美と男が話している
田中「どちら様ですか?」
絵美「ああ、晶。こちらは大学職員をやってる川下光さん」
田中「何で絵美がここにいるの?」
絵美「歩いて家に帰ろうとしたらたまたま会ってね。私、昔大学にオープンキャンパスに行った時にこの人にほんの少しだけ助けてもらったの」
光「いや、僕は何も」
田中「何を助けてもらったの?」
絵美「一番辛かった時に『大丈夫』って声をかけてくれたの」
光「でもまさか覚えていらっしゃるとは」
絵美「覚えてますよ! あの言葉のおかげでこれだけ痩せられましたから。もちろん晶の力もあったけどね」
○回想
大学のオープンキャンパス
トイレの中
手元にある紙コップを持つ
ぐしゃっと潰す
どこかに投げようとするが構えるだけで諦める
泣きそうな顔をしながらゴミ箱を探すがトイレにはない。そのまま廊下に出て、あたふたとする
スーツを着た男と鉢合わせになる
職員「どうかなさいましたか?」
絵美「え? いや、あの……」
職員「あ、ゴミですね。私が捨てておきますよ」
絵美「……すいません」
紙コップを手渡した瞬間、走りだしてしまう
職員が叫ぶ
職員「あの! きっと大丈夫ですよ!」
と声をかける職員、光
光「あの時は紙コップを持っていましたから」
絵美「……ん? まあいいか。そういえば晶も昔、この人に会ったことがあるらしいよ?」
田中「え……?」
光「オンジンさん、と呼ばれていました。もしかしたら覚えてらっしゃらないかもしれないですね。お父さんがアニメのストラップを鍵にしていらっしゃったと思います」
田中「……ああ! あの時の!」
光「嬉しいなあ。覚えてましたか」
田中「もう十年以上は経ってますよね」
光「ええ。あの時、私は中学生。多感な年頃でしたから。……それで本題なんですが」
光がカバンから鈴を取り出す
光「これはあなたのお父さん。横山真さんが持っていました。あなたがもしバイクに乗るようになったら渡してほしいとのことでした。そして私はあの時、晶さんに伝えて欲しいことがあると真さんから言伝を頼まれていました」
○回想
海浜公園のベンチで話す光と真(田中の実の父親)
父親「まさかそこまで未来が見えるとは」
光「相当悲しい思いをするみたいです……あくまで僕の見た未来、ですが……」
父親「未練がないとはいえ、やっぱり……悔しいな……」
光「僕が成長した晶さんをなんとか探しだして伝えます。その未来も見えました。晶さんは大人になっていて、僕は痩せた女性と話しているところにやってきます。彼女はバイクに乗っていましたよ。影響を受けて整備士になっているなんて」
父親「だとしたら嬉しいな」
光「……何を、伝えますか?」
父親「……」
○SHモータース
光「泣きたい時には泣いていいんだよ。ただ一言。そう真さんはおっしゃっていました」
光が田中に鈴を渡す
○回想 十数年前
砂浜で遊ぶ娘、晶を見つめる父親、真
父親「泣きたい時には泣いていいんだよ」
○回想 半年前 絵美の暮らすマンション
扉が開く
母親が立っていた
お互い見つめ合う
母親が絵美を抱きしめる
母親「おかえりなさい」
絵美「……ただいま」
○回想 数ヶ月前
SHモータースのトラックの中で涙を流す田中と見守るマスター
涙が零れる田中
田中「お父さんが恋しいよ。なんで死んじゃったの……お父さん……!」
大声をあげながらむせび泣く田中
田中「お父さんに会いたい。お父さんの言葉が聞きたいよ……」
マスター「大丈夫。大丈夫さ……」
田中「マスター。私、頑張る……。ちゃんとみんなと働けるように頑張るから……」
マスター「……分かった」
田中「でも、お願い。今だけはこうさせて……」
マスター「分かった。いっぱい泣いていいぞ」
○現在
SHモータース社内
父と息子(悠太)が仲良く話している
○SHモータース
田中「……お父さん」
一筋の涙を流す田中
フェードアウト
エンドロール
バイクで疾走する田中
鍵にはアニメのストラップと鈴が結ばれていた
終わり