絵美 その4
●絵美 その4
○絵美の自宅 リビング
テーブルの上には脂っこい料理が並んでいるが全て手を付けていない
湯気も全く出ていない
扉が開く
母親が入ってくる
家政婦「奥様」
母親「どうしたの? わざわざ家政婦さんが料理作ってくれてるのに? 全部あなたの好きな食べ物じゃない。冷め切っちゃってて。食べないの?」
黙り込んでいる絵美
絵美の瞳からつうと一筋の涙が零れる
母親「何か言いなさい。私もちょっと疲れてるの。なかなか仕事がうまくいかなくてね。順調に行ってたんだけどね。部下の失敗は全部自分に降り掛かってくるから――」
絵美「お母さん!」
母親「……なに?」
絵美「私、ダイエットしたい……」
ため息をついて席に着く母親
母親「ちょっと前に話してたじゃない。若い時にするダイエットは無茶なものばかりで体に良くないって」
絵美「それでも……」
涙声になる
絵美「それでも痩せないといけないの!」
母親「……じゃあ、私の知り合いにトレーニングジムを経営してる人がいるからそこに行って、ついでだからエステにも行って健康的に体重を落として――」
絵美「違う! そんなのいらない!」
母親「何がいらないの? そこまでしてあげてるのにいらないってどういうこと?」
絵美「何で心配してくれないの?」
母親「心配してるじゃない。私なりにわざわざトレーニングジムだったりエステだったり紹介してあげようって」
絵美「……お金で解決しないでよ」
母親「お金って……」
絵美「私が友達……友達『だった』人たちになんて呼ばれてるか知ってる? 金持ちの豚だって。豚みたいに何でも食べる、残飯処理野郎だって」
母親「……そんなこと誰が言ったの」
絵美「クラスメイトみんな、私が太っていく様を見て馬鹿にしてストレス発散してるんだって。みんな事情があるからと思って食べてあげてたのに。全部豚の餌だったって。黒田絵美だから黒豚だって。オープンキャンパスで馬鹿にされて、今日は学校でみんなからそう言われたの……」
母親がカバンから携帯を取り出して電話をかける
母親「もしもし。石原くんいる? 黒田だけどちょっとの間だけ話しを聞いてもらえるかしら?」
絵美「石原って……」
電話を避けて絵美に話しかける
母親「後輩の弁護士にかけあって、裁判を――」
言い終わる前に絵美が電話を奪ってぶん投げる
叫ぶ
絵美「何で金で解決するの! 何で他人に解決してもらうの! 何で私に向かって『大丈夫だよ』って言ってくれないの! そんな当たり前のこともできないなら、金なんかいらない! お母さんもいらない!」
席から立ち上がる
椅子が倒れてもお構いなしで自室に戻っていく絵美
携帯を拾う母親
母親「データが吹っ飛んだらどうするのよ……」
家政婦「奥様」
母親「何?」
家政婦「絵美さんの今の服のサイズは知ってますか?」
母親「そんなに太ってるの?」
家政婦「絵美さんのお友達の名前、一人でも言えますか?」
黙る母親
家政婦「絵美さんの好きだったおもちゃ、漫画、アニメ。何でもいいです。一つでも答えられますか?」
母親「それは全部あなたに任せておけば――」
家政婦「私は家政婦です。絵美さんの生活すべてを任されています。ですが、そんな親として当然のことも知らずに他人に頼るのはまずいのではと私ですら思いますよ? 絵美さんと向き合ったことが一度でもありますか?」
母親が一度口を開けるが何も言葉が出てこない
家政婦「私は絵美さんが二歳半の頃から十五年近く家政婦として働いて来ました。ですがもう潮時のようですね」
母親「ちょっと……」
家政婦「辞めさせて頂きます。今まで、本当に、ありがとうございました」
家政婦が部屋から出ていく
○絵美の部屋
パソコンの前で座り、泣きながら聞いている絵美
ディスプレイにアキラさんからのメッセージが届きました。と表示される
「明日、エミリーさんに会うよ。会いに行くよ」
○翌日 駅前公園
待ち合わせをする人が多く集まっている
その中でアキラくんを待っている絵美
キョロキョロと辺りを見渡すがそれらしき人は現れない
携帯を開く
メールに「私はこんな姿をしています」と書かれた本文と絵美自身の画像が貼られている送信済みメール
すると電話がかかってくる
絵美「もしもし」
田中「ああ、よかった」
絵美「……え?」
見上げると目の前に制服を着た田中が立っている
田中「エミリーさんだよね?」
絵美「え……はい……」
田中「騙すつもりはなかったんですけどごめんなさい。私は田中晶。アキラって名前で騙されちゃったみたいだけどれっきとした女性です」
絵美「そう……なんだ……。ごめんなさい、早とちりしちゃって。……嘘じゃない、ですよね?」
田中「エミリーさんは昨日お母さんと大げんかして。嫌な言葉を友達から言われた。ですよね?」
絵美「ああ……アキラ、さん……」
泣き崩れてしまう絵美
田中が優しく撫でる
田中「お母さんはきっと分かってくれる。家政婦さんもきっと帰ってきてくれる。大丈夫」
絵美「本当……もう……」
田中「ダイエットは女子高生ならみんなしてるよ。親と喧嘩してる子供も世の中にはいっぱいいる。いじめられてる人も世の中にはたくさんいる。大丈夫。まだまだこれからですよ」
絵美「ごめんなさい……」
田中「大丈夫。そういえばコンビニでバイトを始めたんです。今まではお金に余裕がなかったけどこれからいくらでも、ってわけじゃないけど、月に何度かは会えるようになりますよ」
泣いて声が出ない絵美
ずっと優しく撫で続ける田中
田中「みんなを見返してやろう。お母さんも味方につけよう。頑張れる。エミリーさんなら」
絵美「私は、絵美です。黒田絵美です」
田中「絵美さん。私も応援します。一緒に立ち向かおう」
絵美「うん……」
○マンション
インターホンを押す
家政婦「はい」
絵美「戻ってきたんですね」
家政婦「あれは軽い脅しですよ。それとむかついたんです」
笑う絵美
家政婦「今開けますね」
扉が開く
母親が立っていた
お互い見つめ合う
母親が絵美を抱きしめる
母親「おかえりなさい」
絵美「……ただいま」




