第6話 恩師との再会
やばいやばい。
中間1週間前うぃる。
という訳でその間しばしのお別れですー(´;ω;`)
――5時間後
「はぁはぁ……」
「はぁはぁ……り…いす…さ…」
未だに町の門を見つけられず。ずっと歩き続けてもう夜……
さすがに生命の危険を感じるわ。もう水も無いし。
「町まで……頑張るのよ……」
「ら…じゃー…」
そう言ってジルとあたしは地面にぶっ倒れた。
目を覚ますとジルの顔が見えた。
「リースさぁぁぁん、よかったぁぁぁ!!」
びーびー言いながらくっついてくるジルを引き剥がしながら辺りを見回した。部屋の中には、高そうなベッド、沢山の絵、キラキラした宝石などがあった。
ずいぶん金持ちなのね、この家。
「ここ、どこよ?」
「ぇと……よく分かんない」
「えー……」
「誰かが助けてくれたみたい」
「誰かしら? てか、この宝石欲しいなぁ……」
「リースさんは欲にまみれ」
ばきっどごっがっこーん
「みにゅぅ―……痛ぃぃ。リースさん日に日に強くなってるよ?」
「あたしの腕をなめないでちょうだい」
「そっちの腕をなめるつもりは微塵もございませぬ」
あたしとジルが騒いでいると、どこかの扉が開く音がした。
どうやら家の主が帰ってきたようだ。
屋敷の主人の足音が近づいてくる。あたしのリュートで叩きのめし……ちゃ駄目よ、相手は命の恩人なんだか
「うおりゃ―――――――――――!!!!!!」
「痛ぁーぃ☆ やだなぁ、リースくぅん☆ 久しぶりに痛いんだぉ☆」
あれ、知らない間に手が動いて殴っちゃったらしいわね。
「ねー、リースさぁん、この人誰?」
「昔のあたしの先生。テイル・アイリス先生……」
「あったりぃ~☆ リースくぅん、そんな暗記力あるなら通い続けられたのに……☆ 君ともっと魔法の授業したかったんだぉ☆」
「え? リースさんって学校中退してたの、初めて聞い」どかっ「うぅ……」
うるさい少年はお黙り。
テイル・アイリス。あたしの魔法学校時代の担任。生れつきネコ耳で死ぬまで少女の姿。とりあえず容姿は置いといて、頭はめちゃくちゃ良い。確か魔法発明学の有名な学者……らしい。
「ところでぇ、リース君の隣のお兄たんはだぁれ?」
「ジルニトラ=ズメイです。よろしくお願いします、アイリスさん!」
「アイリスでいいよぉ☆ ところで君、もしかして……竜なのぉ?」
ぽか――――――――――――――――――――ん。
何かいきなり当ててるし。やっぱおかしい、この人。
「君たち、山の中で倒れてたから、抱えてきて、回復魔法で手当したんだぁ☆ でもじるるんの背中、ちょっとおかしくて……見せてくれるぅ?」
「……うん」
……じるるんって誰ですか。しかもジルも普通に返事して上着を脱いでるし。ヘタレの割に人並みに筋肉ついてるのね。
「ほら☆ 肩甲骨の形が違うんだぉ☆ 竜の翼を小さくした形だぉ☆」
なるほど。確かにその通りだ。
「竜が人間になることって、滅多にないことだぉ☆ だから、最近やっとわかって、学者の中でしか知られていない知識なんだぉ☆」
「なるほど……はっくしゅ!」
「いっけなぁい、じるるんっ☆ 早く着替えてぇ~☆ リース君も☆」
それぞれ服を渡され、別の部屋に行った。それにしても、フリフリなドレスだな……リース様の趣味に合わん!
でも今の服はびしょびしょだし……仕方ない、着替えよう。
「リースくぅん☆ 遅かったぉ☆ ごはん冷めちゃうよぉ~☆」
いや、今はパンより……可哀想なジルの有様を眺めていたい。
メイド服withうさみみ……相変わらずなんちゅー趣味だこの人は。
「はーいっ☆ では、いっただっきまぁーす☆」
「……この服嫌だ……」ごすっ「う……」
それはあたしも同じなんだからとりあえず黙れ。
そして、食卓を囲むような形で、あたし達は座った。
「……それで、じるるんはどうしてそんな事になったのお?」
「……」
ジルは黙り込む。
「……あんまりいい話じゃなさそうだねっ……ちょっと待っててえ」
そう言って先生は立ち上がり、大きな書物を取り出した。
「先生、それは……」
「リース君が習っていた頃よく使ったよねっ? ……そう、全魔法の大辞典、『東西方魔法全書』っ! ここにねえ、面白いのがあるんだっ☆」
先生はばたばたとどでかい本を捲っていく。そして、あるページで手を止めた。
「リースくぅん、弾いてみなっ☆」
先生はそう言ってあたしに本を差し出した。
曲名は、「竜操秘歌・解令」。
「これを……?」
「そうだおっ☆ 大丈夫、リース君なら弾けるからあっ! よろしくっ!」
「は、はい……」
言われるがままに、あたしは曲を弾き出した。
その時。
「あ……あああああああああっ!」
ジルが大声で叫び出した。
「ちょ、ジル……「弾くのをやめるんじゃないおっ!」
慌てて弾くのをやめようとするも、先生に止められる。
ジルを見ると、背中から……大きな鱗に包まれた羽が飛び出していた。
「……!?」
ジルの身体はみるみるうちに鱗に包まれ、どんどん大きくなって行き……
「……わ……」
「……これが、じるるんの本当の姿だお……!」
目の前には、大きな大きな竜が、立っていた。
あたしは相棒のリュートを放り投げてその竜の足元に走った。
「ジル……」
これがあのジルだなんてにわかには信じがたい。しかもまるで大きすぎてこの世の物では無いみたいだ。
「ってあれ?」
恐る恐る伸ばしたあたしの手は、竜の……ジルの中に吸い込まれていった。よく見ると、竜の頭は高い天井を突き抜けているにも関わらず、部屋の内装は全く傷ついていない。
「これは…」
「失敗…だね☆」
先生のその言葉を合図にしたかのように巨大な竜は霞となり消え、後には床に横たわるジルと、まだ微かに耳元に響くリュートの余韻のみが残った。
「ジル、大丈夫?」
「あんまり大丈夫じゃないと思うよ☆」
え、大丈夫じゃないの?
「先生、今のって何なんですか?」
「一言で言えばリース君が下手っぴだったんだね☆」
うっ。痛い所をつかれてしまった。
っていうよりもこれじゃ下手っぴリュート弾きどころか殺害リュート弾きじゃない。
「まぁ眠ってるだけだよ☆」
「なら解除すればいいんじゃないですか」
命令系の曲は失敗した時の解除曲があるはずだ。
「分からないんだよね。その解除の曲が」
「えっ……」
「あの曲って、基本的に支配下に置いていた竜を手放す曲だったんだぉ。だから竜を個人の所有物に出来なくなった中世にしか使われてなくってね」
「中世って千年以上前じゃないですか」
ってことは要するに……
「古すぎてどの曲が解除曲か分からないのぉ☆」
珍しいことではない。昔にしか使われなかった曲、特に1000年以上前に作られた曲は組となっているはずの片方の曲が分からないことがよくある。しかしよりによって造りが複雑で特定困難な命令曲が……。
とか言ってる場合じゃないわよ! かなりピンチなんじゃないの!?
「まぁ同じ時代の曲で怪しいやつ片っ端から調べればどうにかなると思うよ☆」
先生は動じない。
想定外って言葉じゃ足りないぐらいあたしは運が悪いらしかった。
「と、いうことでアイリスと―」
先生が指を立てながら身を寄せてくる。えっと、何がしたいの?
何とも言えない空気があたし達の間をしばらく流れた後、先生は急に頬を膨らませた。年寄りの考えることは理解できないわね。
「もぉ、ここは“リースの”って言うんだよー☆」
「はぁ?」
「さっ、もっかいいくぞ! アイリスと―」
「リースの?」
「実験教室☆ って声揃えないと恥ずかしいんだぉ☆」
「何、この人……」
「何か言ったかな? 何か言ったなら爪立てちゃうぞ☆」
……何も言ってないわ、ええ。
「で、これも駄目みたいね☆」
「……何で先生そんなに楽しそうなんですか?」
「何か言ったかな?」
「いいえ! 何も!」
それで解除曲を探すため、片っ端から同時代に作られたっぽい曲を弾いていたんだけど、ただいま57曲目。早くも手と声が死にかけております。ついでに精神も。
先生はといえば見てるばっかりで手伝ってくれない。
それにしても何でこんなに先生は楽譜持ってるんだろう。彼女はまったく楽器が弾けないのに。
本人に聞けば「資料だぉっ!」って答えるだろうけど、何か違う気がする。違う気がするっていえばジルを竜に戻そうとしたこともだ。あの人はあれでもちゃんとした研究者であり教師だった。それならばこんな無茶はしない。危険な曲だったなら、ちゃんと使えるかも分からない、しかも失敗した時の対処法がないような曲、そんなのを(自分でも分かってるけど)そんなにうまくないリュート弾きに弾かせるなんていう危険なこと、やらせない。焦ってでもいないかぎり。
「さ、58曲目行くよー! 早く竜を見たいからね☆」
――案外、竜を研究したいだけなのかもしれない。
「むにゃむにゃリースのひんにゅきゃぁ、ごめんなさいごめんなさい」
背後で眠ってるジルに一瞬殺意がわいたのは気のせいよね?
そして……
何をやっているんだろう。手にした呪術書は『魂砕き』。あからさますぎて笑える。
――竜の少年を捕獲しました、閣下――
――よくやった、アイリス。それと一緒にいた女だが――
術者以外でこの呪文を聞いたものは心を砕かれて死人状態になる。これは私やリースのような『奇形』を『標本』にするために作られた呪文。
――殺せ――
――……しかし閣下、リース(あの子)になんの罪が――
この呪文に解除呪文は存在しないことになっている。かけられたら最後、死ぬまで意思を失ったまま在り続けることになる。故に一部の学者と|最高権力者(勇者)しか知らない。
――あの女にはエルフの血が流れている。分かるだろうが逆らったらお前の命は――
――…………――
「ふざけんな」
呪術書が落ちる音。その音に反応してリースの身体がぴくりと震えた。
《アイリス、命令を実行せよ》
脳内に響く司令。やはり、見張られていた。
「リース、逃げるよ」
《この屋敷は囲まれている。命令を実行せよ》
「囲まれている?」
《お前が裏切ることは想定内だった。諦めて命令を実行せよ》
「先生……?」
不思議そうな目で私を観ているリース。差別により学校を退学させられそれでも泣かずに宙を睨んでいたあのリース。
「今から五秒間だけ移動回路を開くわ。あなたはジルくんを連れて行きなさい」
「え? 魔方陣を使わないんですか? 移動回路だと先生が行けないじゃないですか」
「この屋敷は敵に囲まれているわ、魔方陣は使えない」
「でも……」
「大丈夫、任せなさい。それより早く」
「……はい……」
そう言ってリースは素早く荷物をまとめ始めた。
上手く行くかどうかはわからない。それでも全て監視されている魔方陣よりは安全だろう。
その時ポケットに入れた指先に何かが触れた。
それは茶色い包だった。重さと質感から何が入っているのかもわかった。
「先生、出来ました」
「ジル君を背負って、しっかり掴んで……ええそれでいいわ。じゃあそこに立って」
「行き先は……?」
「行けばわかると思うわ……あなたの故郷よ。あと、これを持っていきなさい。きっと役に立つわ」
「これって……」
「着いてから開けるのよ。無くさないように。じゃ、暫くお別れね」
詠唱。
「せんせいっ……!」
叫ぶリースの声はやがて消えた。
しばらくして司令の声。
《強がりか?》
「或いは。でも」
《部下はもう屋敷に入った。もうすぐ死ぬぞ。言い残すことは?》
「いいわ。それに私は……あなたが思っているより早く死ぬ」
さっきの包。あれは命の欠片。固形の生命力を持つと言われている妖精族が死ぬときにからだから零れ落ちた物。
「あれは形見」
「貴方達は私を殺すことはできない」
《なにをほざいている》
「よろしくね☆ リース、任せたぉっ☆」
この国の未来もきっと……