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Quaint Quest  作者: 文芸開花
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第3話 世界の端のとある村で

今回の本文で歌の歌詞が記載されていますがこれは作者が創作したものであり、既存曲に酷似しているもの若しくは同一のものがあったとしても、それは作者がその歌を知らなかったためであり、作者に既存曲の無断転載を行う意図は無いことをここに明記します。


……と、長ったらしく書いてみましたが被ることは無い気がします。

でも世界は広いですからね。一応。


それでは本文どうぞ!

 今だったら、この時のあたしは、世界最強の馬鹿丸出しだったなと思うけど、でも、でもでも! 酒の誘惑に勝てる人間なんかじゃないのは分かるでしょ!?


 ……ま、要するにただの馬鹿なんだね、あたしは。とりあえず、地下道を急いで進む。


「ほら、さっさと行くわよ!」


「らじゃー! ……!?」


 ……え? 今、後ろで何かあった様な……おかしいな? リュートはきちんと持っている。あれ、何か聞こえるな。壁の向こうからだ。


「……少年……入れた……こさえ……盛大な宴が……」


 嫌ぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァ! そうだ、あの少年がいない!


 思わず壁から飛び跳ねて離れた。するといきなり壁が倒れてきた。間一髪のところで避ける。暗くて周りがよく見えなかった。石そっくりのダミーだったらしいわね。ま、それだけで済んでよかったけど。


 やっぱり目の前に隠れた道が見えて、進まない人はいないよねー。じゃ、れっつごー。


 ……。


 ゆっくりと、音を立てないようにドアを開けた。すぐに赤いカーテンの影に隠れる。


「……え?」


 少年は確かにそこにいた。不自然な所はなかった。黄緑色の光る液体の入った鍋の中で呻いてること以外は。あ、充分不自然ね。


「ダメ……渡しちゃ……リース……」


「まだ何か言ってんのか、今度のは!」


 黒い衣服を着た男が言った。どうやらまだあたしに気付いていないらしい。


「アーシェはどこだ!? 早く呼んでこい!」


 しばらくして、アーシェが姿を現した。少年が叫び声を上げる。ボクト……トモダ……とか呟いているように見えた。


「そろそろだ。アーシェ、さっき見た女はどこへ行った!? もう奥の間からここへ連行されてもいい頃だよな!?」


 アーシェは頭が上げた。あれ? 道教えてくれたあの時とどこか何かが違うような気がするんだけど……ていうか、今にも見つかりそ……うっ!?




 あたしは思わずカーテンを握る手に力を込めた。


 黒服の男は言う。


(フィースト)……(フィースト)の実行だけは阻止せねば……」


 フィースト? 何を言っているのだこの男は。


「アーシェ」


 黒服の男がそう呼んだ途端、あたしはさっきの疑いを確証へと変えた。


 アーシェの目が……紅い……!


 純粋そうなその少女の瞳はみるみるうちに紅へと染まっていく。


 鈍い銀色に輝く粉状のものが鍋へと投げ込まれる。


「……少年に、神の祝福を、そして……」


 少女が静かに唱える。


「……神の裁きを」


 鍋の中の液体は紫色に光り、少年の悲鳴が聞こえた。


「―――やめろっ!!」


 同時にあたしは飛び出し、鍋を思いっきり蹴り倒した。


 鍋から液体と少年が転がり出てくる。

「大丈夫!? 怪我は!?」


「……大丈夫……もう少しで死ぬところだったよ……ありがとう……」


 あたしは少年を自分の元に引き寄せた。


 幸いな事に命に別状は無いようだ。


「……っ、誰っ!?」


 アーシェが上げた声に反応した黒服の男がこちらに向き直って言う。


「……おいアーシェ……こいつ、リースじゃねぇか?」


「……え?」


 しまった。少年の無事に安心したのも束の間、あっさりと正体がばれたようだ。


「ははあ……? ご本人様の登場かい?」


「……へえ、こいつが噂のリース。私の儀式を邪魔したのもこのリースってわけね?」


 二人はじりじりとあたし達のもとに近寄ってきた。


 まずい。


 でも、この距離では……


 とっさにあたしは傍にあったリュートを掴む。


「……クク。あんたたちが(フィースト)なんかを実行しようとするのが悪いのよ。こんなに鱗の見が早かったのには驚いたけど……もうこれでおしまいね」


 さっき盗み聞いた言葉を適当に組み合わせて口走る。口先こそ余裕ぶっているが、本当は恐怖で心臓が口から飛び出しそうだ。あたしは震える手でリュートを弾き鳴らす。


 とっさに弾いたのは、「王国の物語」――あたしの故郷の村で語り継がれている歌で、あたしが最初に弾けるようになった簡単な曲だ。何故これがいきなり頭に浮かんだのか分からない。一番慣れた曲だったからだろうか。


「な……っ!? なんでこの曲を……」


「よせっ、やめろ……!」


 男たちはなぜか耳を塞いで苦しみ出した。あたしの手は止まらずに身体に染み込んだ歌を奏で続ける。

どうやらこの二人がリーダー的立場にいたらしく、周りの人たちはどうすることも出来ずに戸惑っているようだった。


 やがて二人は耳を塞いだまま、床にうずくまってしまう。


「はあ、はあ……」


「た……倒したの……?」


「そのよう、ね……とにかく、ここから早く逃げましょ」


 あたし達は訳も分からないまま建物の外に出て、そのままそこから逃げるように離れた。




「……そういえばさ、あの曲どこで覚えたの?」


 もう日はほとんど沈み、あたし達は今日泊まれそうな所を探していた。


「んー、故郷の村で教わっただけとしか言いようが無いわね」


「じゃあ何であいつらは倒れたの?」


「さあ……それはあたしにも分からないな……特別な歌って訳でも無いし……。あ、そうそう、確かあの

歌には歌詞もあってね、何だっけ……」


 あたしは子供の頃覚えた歌詞を頭の中で紡ぎ出す。



 昔々あるところ

 とあるひとりの旅人が

 世界の端のある村に

 竜を捧げに行きました



 そうそう、こんな感じだった。


 確か、続きは……



 そこでその旅人は

 村の大きな建物で

 美しい少女に会いました

 その少女は鍋を焚き

 歓迎の言葉をかけました



 まさか。あたしははっとした。

 ゆっくり、ゆっくり、続きを思い出す。



 少女は薄く笑いながら

 紅い瞳を向けました

 襲われてしまった旅人に

 この歌を捧げます

 この歌を捧げます



 ……まさか。


 息が、止まるような思いだった。


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