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Quaint Quest  作者: 文芸開花
2/12

第1話 小さな村と小さな竜

今回からいよいよ主人公たちが登場します!


それでは本文どうぞっ。

447年 帝国 雪霧洞



「リュート弾きのリースです。一晩泊めて下さいませんか?」


 村人たちは何やら話し合っている。そりゃあ今までにも何回か泊まるのを断られたことはあるけど、今日は一日中歩いてとても疲れている。だから負けるもんかと胸を張る。意地でも泊まり込んでやるわ。


 どうやら話がまとまったようだ。村人たちは一斉にあたしの方を向いて……襲いかかってきた。




 うぅ、身体が痛い……全く何よ! あたしは泊めてくれとは言ったけど殴り倒して紐で縛れとは言わなかったわよ。しかも、ここどこ? 真っ暗ね…どうやら洞窟の中みたいだけど。


 体をよじると紐は簡単に解けた。手探りであたりを見てみるとリュートと革袋もあった。まるで逃げろと言っているみたい。取りあえず革袋から火打石と携帯松明を出して火をつける。ボッと火の粉が散って周りが明るくなった。思った通り洞窟のようね……これで身体は自由になったけど、どっちが出口か分からないわ。


 途方に暮れていると、リュートの柄に羊皮紙が結び付けられている。他にすることも無いので読んでみた。


「このたびはとつぜんなぐったり、そのうえこのようなことになってしまってまことにもうしわけありません。おわびといってはなんですが、かえってきたあかつきにはせいだいなうたげをひらきたいとおもっております。しょうさいがきになりますでしょうが、どうかおきになさらずにりゅうをたおし、そのうろこをもちかえってください。」


 何よ! この無礼千万の文章は! いや、怒っても仕方ないか。とにかく竜を倒すのね! そんなこと勇者に頼みなさいと言いたいところだけど、ここは魅惑のリュート弾きリース様が魔法の音色で何とかしてみせるわ! その後村人にどんな仕返しをしようかしら……。


「あの……」


 そうよ! あたしはいままで1年間も諸国をめぐって生きてきたのよ! こんなところで負けてたまるもんですか!! っていま、誰か話しかけてこなかった?


「えるふのおねーさん?」


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 竜が出たわ!!」


「えっ…」


 いや、あたしとしたことが、落ち着かないと、そうよ、リュートを弾くのよ、私はリュート弾きのリースなんだから!


 咄嗟に弾いたのは「月の子守唄」。鎮静効果のあるオリジナルの曲だ。ふぁあ……いけない、あたしが寝たら意味が無いわ。その時、また声が聞こえた。


「僕が竜だって分かるの?」


 おそるおそる振り向くと、ぽかんとした顔の少年がこっちを見ている。


「「……」」


「えーと……何か用かな?」


 気まずい沈黙から逃れるため、満面の笑みで話しかける。何てことなの、あたしったら見もせずに声がしたのを竜だと決めつけるなんてどうかしてるわ。


「うん、食べ物持ってない?」




 幸い革袋の中にパンが少しあったので、少年に分けてやった。あたしがパンを千切って差し出し


ふぁひふぁふぉー(ありがとー)ふぇふふふぉ(えるふの)おふぇーふぁん(おねーさん)


「…………」


 ……この少年いつから物食べてないんだろ……


 少年の食欲に呆れつつ、あたしもパンを食べる。


「……という訳で、とにかく竜のウロコを持ち帰って歓迎されなきゃいけない訳よ」


「えー……」


 どうやら少年は気が進まないらしい。


「なんで?」


「だってぇ……竜を倒すなんて……」


「怖がってる場合じゃなぁぁぁぁぁい!!」


「……うわああ……えるふのおねーさん、声おっきーね……っていうか、えるふのおねーさん、どうみても弱そうだけど……だいじょーぶなの?」


 どうやらこの少年の中ではあたしは「えるふのおねーさん」らしい。……って!


「大丈夫よ! あたしの魔法の音色を舐めるなぁ!」


 全く無礼千万な奴ばっかりで……仕方無いわね、とは口に出さず、黙ってリュートを弾こうとすると、


「耳がぐわんぐわんしてるよ……あっ、ちょっと待ってえるふのおねーさん、それ……さっきの?」


「さっき……ああ、『月の子守唄』のこと?」


「子守唄……? っていうか、」


「何よ」


「へたっぴ」


 ぽかぽかぽかすかどっこーんばきっがこん


「うぅー。えるふのおねーさんひどーい」


「それとあたしはえるふのおねーさんじゃない。魅惑のリュート弾きのリースなんだから。リース様とお呼び」


「へたっぴリュート弾きなの?」


「……その腹踏ん付けられたいの?」


「みきゃー」


 変な悲鳴を上げて少年は転がっていく。あんなにぼっこぼこにしたのに、回復速くない?


 そして顔を上げ、懲りずに言った。


「うん、多分無理だよね、ハイ。という訳で偽装しよう」




 という訳で海岸にいる。


「魚のウロコとかでいーんじゃない? だいじょーぶだよ、だって竜のウロコなんて見たことある人いるの?」


「まーね……。適当に色つければ、なんとかなるわよね、多分」


「という訳で魚。リースさん、魚獲ってきて」


「ちょっ……獲れる訳無いでしょ!? あんたが獲って来なさいよ!」


「え? だってリースさんはリュート弾きだからリュートで魚おびき寄せんの簡単でしょー? だったらやってよぉ、誰かが言ってたよ、“楽器の音色で魚をおびき寄せることも出来る”って」


「なっ……」


「リースさぁん」


 そんなレベルの高い技……知らない。でもここでリュートを弾かなければ……


「ふう……分かったわよ。やりぁいいんでしょやりゃあ!!」


 半ば自棄になってリュートを弾く。曲は……ええいもう何でもいいや。


 これは確か……つい最近作った曲だったっけ。名前もまだつけていない。


 海岸にリュートの音色が響き渡る。


 …………。


「リースさあん、魚来ないよ?」


 …………。


「リースさああん」


 …………。


「り・い・す・さ・あ・あ・あ・あ・ん」


「魚なんて寄って来る訳ねぇだろーがンな上級の奴使えっとでも思ってんのか!!」


「うひゃーリースさんがキレたー」


 は、はっ。つ、つい本音が…あたしとしたことが。仕方なく正直に白状する。必殺! “開き直り”!


「ハイ! 魚なんて寄って来ませんでした! だってそんなん使える訳ないじゃない!」


「初めから言ってよぉ……全く」


 そう言って、奴は耳から何かオレンジ色の物体を取り出した。あれは…耳栓?


「……また殴られたいの?」


「うわああ、リースさんがあああ」


 あたしは早くも沈もうとしている夕陽を絶望的な気分で眺めつつ、都合良く釣竿とか落ちてないかなと至極どうでもいい思考を巡らせていた。


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