第10話 疾走
これ、サブタイトル考えるの大変だね。
れんとうぎめんなさい
「こっち」
食堂を出るとすぐにジルは右手に走り出す。実は宿舎と食堂は別棟で、食堂からみて左側にオンボ……、見た目はあまり良くないけれど最低限の部分はしっかりしている宿舎が、あとは二階に通じるやはりオンボ、いいえもう自重しない、オンボロで今にも底が抜けそうな階段がある。ついでにいえば、さらに左手の道らしきものを挟んだ反対側にはあの豪華な宿舎がある。
一方、右手はひたすらに砂漠。あたしたちが来た道だ。左手と違って建物もあまりないから光も少なく、もう少し奥へ行けば月と星の光しか見えなくなる。そんな方へ行ってどうする訳?
って、待ちなさいよ! あたしを置いて走り出すな! そこの水色のヘタレ!
「待ってよ、どこ行く訳!?」
「音のした方。リースさんもそのつもりで鍵壊させようとしたんでしょ?」
「ええ、まあ……」
ああ、もう走りながらの会話って鬱陶しい。どうにかならないかしら。疲れるのよ。大体旅っていうのは体力を消耗させないために歩くのよ。旅人ってのは足速くないのよ! なのにこのヘタレったら、竜だからかヘタレだからか足速いのよ。息が切れてくる。
「僕、耳結構いい方なの」
竜だからね、って当たり前でしょ! 何でそう、自慢気なのかしら。気にくわない。
「おいおいちょっとまってくれよ」
「さっきのおっさん、推定三十路過ぎ、ただいま妻に捨てられて旅に出たような気がした娘探しなうと思われる人、なんで付いてきてんの!?」
「くっ、推定なのに図星だ!」
ばたっ、というような人が崩れ落ちる音が背後で聞こえたような。それはちょうどおっさんくらいの重さのような。いいえ、きっと気のせいよ気のせい。
「どうせ俺は捨てられたおっさんだ。三十路過ぎだ。娘にも嫌われてる駄目なおっさんだ」
「な、泣かないでよー。リースさん」
「あたしは泣いてないから。泣いてるのはそっちのおっさんの繊細かはわからないハートらしき物体だから」
「今のが一番傷ついた……。がはっ」
背後で血を吐く音が聞こえたのもきっと気のせいよ。さあ、あの蛍光色頭を追いかけないと。と思えばいきなり何かにぶつかった。
「いきなり止まらないでよ、ジル」
というかジルだった。全く何で立ち止まったのと小言を続けようとする。が、一瞬耳に飛び込んだ蚊の鳴くような声に気を取られ続けられなかった。
――行っちゃった。みんな行っちゃった。僕から全てを奪うだけ奪って行っちゃった。僕を一人残して行っちゃった。ひどい、ひどい、ひどい、ひどい。僕は何も悪くないのに。どうして? ねぇ。
溢れかえる悲しみが聞いてるあたしにも伝わってくる。声を聞いているだけなのに。
――どうして? 簡単。だって僕は君にとっていらないから。君にとっては所詮そこにいた子供の一人。僕だけじゃないって言いたいの? 君たちにとっては。違うよ、僕にとって君は一人だったんだ。僕を救ってくれるはずの一人だったんだ。
何、何なの。この気持ちは。嫌だ、聞きたくない。耳を塞いで今すぐ全てを拒絶して、座り込んでしまいたい。だって、まるで。
――恨むよ。君としては筋違いだろうね。助けようとしてくれたんだから。僕は知ってるよ。でも、許さない。あの時、僕を救えたのに救わなかったことを。僕の世界を全て壊したことを。
まるで、あたしみたいなんだもん。
急☆展☆開
いやぁ、酷いね。心が折れそうになるね