続・君の背中に恋をした
当小説は、短編小説『君の背中に恋をした』の続編です。
はじめに、恋愛ミステリー的な前編をお読みいただけると幸いです*͈ᴗ͈ˬᴗ͈ෆ ↓
小説家になろう版- https://ncode.syosetu.com/n0913mq/
※カクヨム様、note様にも掲載しています。
もう見ることはないであろう友也の背中を見送ったあとの二週間、由希はベランダの近くの床で外を眺めて過ごしていた。
テレビのニュースが流れてくる。
「速報です」
由希はその言葉にテレビに目をやった。
「俳優の永谷大河さんが、世田谷区の自宅で亡くなっているのがわかりました。43歳でした。警察によりますと、現場の状況などから自殺とみられています……」
由希はテレビを消した。
由希は台所へいくと水道の水を一杯飲んだ。その時、アパートのチャイムが鳴った。
由希はドアを開ける。
そこには、両手いっぱいの薔薇の花束があった。
横からひょっこり顔を出す友也。
「……どうしたのよ」
「忘れられなくて」
「……」
「二週間経っても由希さんのこと好きだったら、来てみようと思ってたんです。で、二週間経っても忘れられなかったです。今も好きです」
「ここでずっと話すのもなんだから中入って」
「はい。……お邪魔します」
由希は友也に麦茶を出すと、薔薇の花束を花瓶に活けて床に座った。
「由希さんは、この二週間僕のこと忘れてましたか?」
「さあ、どうかしらね」
「……」
「シャワー浴びる?」
「僕は浴びてきました」
「そう。用意がいいのね」
「違うんです。そういうことをするためじゃなくて……」
「何よ」
「僕のこと、好きになってくれるまでは何もしません」
「……」
「あ、旦那さんのことは……ご愁傷さまでした」
友也が深々と頭を下げると、由希は吹き出した。
「無理して難しい言葉使わなくていいのよ」
「……由希さん。嘘じゃなかったんじゃないですか?」
「?」
「旦那さんがいるって」
「……」
「由希さんの心の中では、旦那さんがまだ生きてるんじゃないかと思って」
「……」
「だから、きっと嘘じゃないんですよ」
「そう……」
「だから、僕はまず友達になりたいと思って」
「友達ねえ」
「ダメですか?」
「ダメじゃないけど……。今日、仕事は?」
「僕、会社辞めたんです」
「どうするのよ、これから」
「いや、次の会社が決まったから、辞めたんです」
「先にそう言いなさいよ、営業だったのに話すのヘタね」
友也は、へへ、と笑った。
由希はその笑顔を見て、癒されるのを感じた。
「どんな仕事なの」
「工場です」
「工場?」
「はい。月光製紙って知りませんか?ルナルティーってティッシュとか作ってて、あの、漫画の、ジャンプの紙も作ってるんですよ!」
友也は目を輝かせた。
「営業の方が向いてるんじゃないの?営業向きの顔よ?」
「もう、人を傷つけたくないんです」
「そう……」
由希は、深く聞かないでおいた。
「私は、なんて呼べばいいかな」
「はい?」
「あなたの名前」
「名前で呼んでくれるんですか」
「その方がいいでしょ?」
「はい。何がいいかな」
「今までの彼女が呼んでない呼び方がいいわね」
「そんな人数付き合ったことないですよ」
「そう。じゃあ、ともやくんは?」
「それは、最初の元カノが……」
「じゃあ、ともちゃんは?」
「それは、二番目の元カノが……」
「じゃあ、とーちゃんは?」
「お父さんみたいですよ」
「なんならいいのよ!」
「うーん……むかさともやだから……」
「むっくんにしましょ」
「むっくん?」
「これなら被ってない?」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ、むっくんね」
友也は恐る恐る聞く。
「あの……旦那さんと被ってないですか」
「大丈夫よ」
「なら良かった」
友也は麦茶を一口飲んだ。
「あなた、……むっくん、」
「はい」
「後悔しない?」
「何をですか?」
「私なんかに執着して」
「執着なのかな。好きなのは執着なんですか?」
「……」
「由希さんが、僕がいると迷惑だって言うなら、はっきりそう言ってください。僕、キッパリ諦めます」
「迷惑じゃないけど……悪い気が……」
由希は俯いた。
「忘れましたか?僕は二番目の男だと分かった上でここに通ってたんですよ?」
「……」
「だから、由希さんが一番好きなのが亡くなった旦那さんでもいいんです。僕は、生きてる人の中で一番好きになってもらえるようにするから」
由希は、友也の言葉に心が動かされた。
「由希さんと、外でデートしたり、ドライブしたりしたいなあ」
由希は、胸がいっぱいになって頷いた。
「しましょう」
「ほんとに?」
「ええ」
「海見に行きたいなあ」
「海?もう遅くない?」
「だからいいんですよ。夏休みも終わったし、はまぐりでも食べに行きましょうよ」
「いいわね」
「僕、帰ったら色々調べます。……あの、」
「?」
「連絡先を、」
由希は頷くと、携帯電話を取り出して一通り連絡先を交換した。
「嬉しいな~」
友也はしみじみ言った。
「?」
「由希さんにいつでも連絡できる。そうですよね?」
「そうね」
「連絡しちゃいけない時間とかありますか?」
「ないけど……あ、夜は、弟がいるから、電話が鳴ったら驚くわね」
「弟さんには秘密ですか」
「そういうわけじゃないけど……そのうち紹介するわ」
「やったー」
友也は両手を広げて喜んで見せた。由希は無邪気だなあ、と微笑ましく思った。
「じゃあ、僕はそろそろこれで」
「いいの?」
「?」
「何もしなくていいの?」
「由希さん、誤解してますよ。僕は、そういうことするためにここに通ってたわけでもないんですよ?」
「……」
「そりゃ……本音を言えばしたいんですけど、」
二人は笑った。
「一緒にいて、話をするだけな日があるのもいいじゃないですか」
「……そうね」
「僕、由希さんが思ってるより、由希さんのこと、好きですよ」
友也は、真剣な顔つきで言った。
由希は、申し訳ない気持ちになった。
「むっくん、他にいい人いないの?」
「いないですよ。いたら、ここ来ないですよ」
「そう……」
「本当に僕、浮気とかしたことないんですよ。信じてもらえないかもしれないけど……」
友也はバツが悪そうな顔をした。ふと時計を見る。
「病院に行く時間です」
「どこか悪いの?」
「いや、姉を迎えに行きます」
「看護師さんだったわね」
「今、僕仕事してないの知ってるから、こき使われてますよ」
「大変なお仕事だから」
「……じゃあ」
そう言うと友也は名残惜しそうに帰っていった。
由希は、部屋の、友也がいた場所の空白が怖くなった。そして、部屋は薔薇と自分だけになった。
次の日の朝、ケータイにメッセージが入った。
『おはようございます。由希さんは朝ごはん食べましたか?僕は目玉焼きとベーコンを食べました』
友也だった。
『ましゅまろたべた』
由希がそう返信すると、
トゥルルー トゥルルー
電話が掛かってきた。『むっくん』と表示されている。由希は電話に出た。
「マシュマロってなんですか!ちゃんとしたもの食べなきゃダメです」
「はい、わかりました」
由希は呆気に取られて言った。
「じゃあ、また後で」
友也は電話を切る。
昼になるとまたメッセージが入った。
『ごはん、ちゃんと食べてますか?抜いたりしたらダメですよ。食欲なくても、豆腐とか納豆とかのタンパク質と、出来れば野菜も摂ってくださいね』
由希は気怠い足取りで冷蔵庫を覗いた。豆腐と納豆があった。由希は溜息をついて取り出す。
『とうふとなっとうたべた』
由希がメッセージを送信すると返信が届いた。
『良い子です』
由希はふと笑った。
夜も、友也からメッセージが入った。
『由希さん、夕食は食べましたか?
僕はダイヤモンドカレーを作って食べました。由希さんもちゃんと食べてくださいね』
『さばさんたべた』
由希が返信すると、友也から返信がくる。
『よくできました』
こんな具合に、毎食ごとに食事の心配をするメッセージが友也から入るようになった。
由希はふと呟いた。
「なんなのこの人。私のお母さん?」
そう言いながらも、楽しみにしている自分がいた。
由希は少し淋しく思っていた。メッセージは入るが、新しい仕事が始まるまで、昼間むっくんは何をしているのだろう……
由希は電話を掛けてみた。
トゥルルー、トゥルルー……
「はい!むっくんです」
「ねえ、たまには会いたいんだけど……」
「え?ほんとですか?良いんですか?」
「ダメなんて言ったことないじゃない」
「迷惑かと思ってて」
「……淋しかったんだけど……ずっと」
「そうなんですか!ごめんなさい」
「謝らなくていいんだけどさあ、会いたいよお」
「明日、梨持って行きます」
「今日は?今日はダメなの?」
「今、梨買ったばかりで、このあと床屋に行こうと思ってて」
「じゃあ、明日は?」
「明日は大丈夫です」
「じゃあ、らんらんぽーと行かない?」
「良いですね!わかりました。明日十時に迎えに行きます。大丈夫ですか?」
「うん、じゃあね」
「由希さん!夜ごはん、ちゃんと食べてくださいね」
「わかんない。メッセージくれないと食べない」
「じゃあ、メッセージ送るんでちゃんと食べてください」
「はあい」
由希は電話を切ると、
「私、こんな人間だった???」
そう呟いて、両手で顔を覆った。
翌日十時に友也が迎えに来ると、由希は外で待っていた。
「おはようございます。すいません、遅れて」
「ううん、私が早かったの。まだ十時にもなってない」
「そうですか」
友也が腕時計を見る。
「まだ九時半ですよ!?」
「待てなかったの!むっくんだって早いじゃない」
「そうですね……どうぞ、乗ってください」
由希は助手席に乗り込んだ。
「ねえ、むっくん、ここ数日、何してたの?」
友也は運転しながら答える。
「昨日は梨買って、」
「昨日はいいの。その前」
「その前は、いろんな本屋に行ってました。書店巡りです」
「本が好きなの?」
「千葉の名所が知りたくて」
「……」
「由希さんと、行くために」
「本なんてネットで買えるじゃない」
「めくらないと、中見れないから」
「そのためにわざわざ?」
「はい……」
「うちにも来ないで本屋に?何日も?」
「……もしかして、嫉妬、してますか?」
「まさかー、私が?本に?嫉妬するわけないじゃない」
由希は口を尖らせて窓の外を見た。
らんらんぽーとへ着くと、由希がヨンリオショップを見つける。
「わたし、この、グログロがまがえるんが大好きなの!」
「僕もです!」
「え!ヨンリオなんて興味ないでしょ?男の子なんだから」
「姉がグッズ持ってたんで」
「そっかー」
「この、グログロがまがえるんの、可愛いようで可愛いくないところに惹かれるんですよ」
「わかるー。わかりすぎるー。可愛いようで可愛くないところが可愛いんだよねー。可愛いが渋滞!」
二人は両手を握り合っていた。
「やだ」
二人は急いで手を離した。
「由希さん、がまがえるんのストラップ、お揃いでつけませんか?」
「う、うん。いいけど……」
「僕、買ってきます!」
友也は走ってレジへ向かった。
「むっくん……」
由希が呆気にとられていると、友也が戻ってきた。
「買ってきました!」
「いくらだった?」
「いいです、いいです」
友也は満面の笑みでスマホケースにグログロがまがえるんをつけた。
「……ありがとう」
由希も、グログロがまがえるんをケースにつける。
友也は、にこーと笑って、
「おそろいだっ」
と、呟いた。
次に、遊印良品の店を見つけた由希は駆け寄る。
「由希さん、遊印好きなんですか?」
「うちの、全部そうよ?」
「そうなんですか!僕も遊印大好きです」
「わー、このビーズクッションいいわねー、体中包んでくれるやつよね。いつか買おー」
「プレゼントしますよ」
「いいわよ。さっきこれ買ってもらったし」
グログロがまがえるんが揺れている。
「これはこれ、ですよ」
「二万近くするわよ?高すぎるわよ」
「全然大丈夫ですよ。買いましょう」
友也はそう言うと、軽々と大きな塊を抱えてレジへ向かった。
……なかなか、頼もしい……
由希はそう思いながら、急いで友也の背中を追った。
帰りの車の中、疲れたのか、由希は眠っていた。
赤信号になると、友也は由希の寝顔を眺める。
幸せなひとときだった。
頬に触れようとするが、許可もなしに触れられない……と手を戻す。
僕たちに身体の関係があったのが嘘みたいだ……
友也はそう不思議な感覚になった。
由希のアパートに着く。
「由希さん、着きましたよ。由希さん」
声を掛けるが、由希はなかなか起きない。
触れるわけにもいかず、とりあえず、後部座席の特大ビーズクッションを取り出すことにした。
友也は、ビーズクッションを取り出して左手で持つと、右手でドアを閉めた。
バタンッ
由希がその音で起きた。
「由希さん、着きましたよ」
「ありがとう。むっくん」
由希が車を降りると、ビーズクッションを持とうとする。
「無理ですよ、由希さん。結構重いですよ。僕が家まで運びますから」
「そう?」
「はい」
階段を上ると、由希が部屋の鍵を開ける。
「おかえり」
男の声がした。
「ああ、弟のカズヒロよ」
「こんばんは」
友也が頭を下げて、床へビーズクッションを置いた。
「誰?」
カズヒロは訝しげに友也を見る。由希が言う。
「……彼氏」
「!」
友也が目を見開く。
「彼氏のむっくん」
「はじめまして!六笠友也と申します。彼氏をさせていただいてます!よろしくお願いいたします」
友也はそう言うと、カズヒロに握手を求める。
「……」
仕方なくカズヒロが右手を差し出すと、友也は固く握手をして上下にぶるんぶるん振った。
「彼氏いたのか、姉ちゃん」
「まあね」
由希は俯いて呟いた。
「では、僕はここで。失礼いたします。おやすみなさい」
友也はそう言ってドアを閉めた。
由希は気まずそうにしている。
「姉ちゃん、良かったじゃん」
「う、うん」
「僕も少しホッとしたよ」
「うん」
「良い奴そうじゃん」
「そうね」
「どこで知り合ったの?」
「……」
「まあ、どこでもいいけど……ほんと、なんか安心したよ」
カズヒロは微笑んだ。
「今、急いで夕食作るから」
「ありがとう……少し休んでからでいいよ」
帰りの車の中で、友也はニヤついて仕方なかった。
……この感情はなんだ?嬉しすぎるだろう!彼氏だぞ!彼氏って紹介されたんだぞ!
そう言ってはハンドルを叩いて喜んだ。
夜道だったが、友也には沿道に花が咲き乱れているように感じた。
「かれし~かれし~♪」
と、歌いながら家まで帰った。
友也が部屋に着くと、電話が鳴った。『由希さん』と表示されている。急いで出た。
「もしもし、由希さん」
「むっくん、今日はありがとう。クッションね、すごくいい」
「良かったです。本当に買って良かった」
「むっくんがいない時は、これをむっくんだと思うことにした」
「僕はいつでも駆けつけますよ」
「やだー仕事始まったりしたら無理でしょ」
「そうか」
「だからね、この子に『むくお』って名付けた」
「むくおをよろしくお願いします」
「うん、それでね、弟がね、むっくんのこと気に入ったみたいで『夕食は気にしないでいいから遠出してくれば?』って言うの」
「はい」
「ほら、書店巡りしてたかいがあるじゃない?」
「そうですね、じゃあ、近いうちに九十九里でも行きましょう」
「良いお店、もう調べてあるの?」
「完璧です。『かくに』っていう店なんですけど、すぐそばに砂浜もあって、海も見れます。そこに行きましょう」
「うん、楽しみ。ありがとう」
「おやすみなさい」
「おやすみなさい」
「……」
本当に今日はいい日だった……
友也は、しばし無言を楽しんでから、電話を切った。
船橋から二時間ほどで、九十九里の『かくに』に着いた。
看板に『はまぐり』『いわし』とある。
店内に入ると、二組ほどが並んでいた。名前を記入して椅子へ座る。
目の前の壁一面に色紙が貼ってある。由希は圧倒された。
「すごーい。こんなにいろんな人来てるんだ」
「サインだから芸能人なんだろうけど、誰が誰のだかわかんないや」
友也は素直な感想を漏らした。
「芸能人のサインてなんのためにあるのかしらね。誰だか分からなく書くなんて。よく考えると不思議ね」
由希は首を傾げた。
三十分ほど待って名前が呼ばれる。
「むかさ様」
「はい」
「座敷とテーブルどちらがよろしいですか」
「由希さん、どっちがいいですか?」
「座敷で」
二人は座敷に座ると、目当てのはまぐり定食を二つ注文した。
「はまぐりって私、初めて食べる」
「そうだったんですか」
はまぐり定食が運ばれて来る。
二人は早速、網にはまぐりを置いていく。
由希のはまぐりが先にぱかっと開いた。
「いただきます。わー。はまぐりって、焼くとこんなに綺麗に取れるの?」
「ビギナーズラックですよ。僕のは、なかなか大変ですよ」
友也は、箸ではまぐりを取ろうにも、貝柱からなかなか取れず苦戦している。
「あらー、本来大変なのね」
由希は初はまぐりを口へ入れた。
「おいしー、このタレも本当に美味しい」
由希は満面の笑みである。
僕の前でこんなに笑っている由希さん……
友也はしみじみ来て良かったと思った。
二人は食べ終えて外に出ると、言葉もなくなんとなく海へ向かった。
まだ暑さはあるが、潮風の匂いが心地良かった。
二人は砂浜に腰掛ける。
「むっくん」
「はい」
「話があるの」
「なんですか?……良い話ですか?悪い話ですか?」
「どっちだろう??むっくんはどう感じるのかな」
「教えてください。なんであっても、受け入れます」
「ほんとう?」
「はい。約束します」
由希は、覚悟した。
「昨日わかったんだけど……お腹にね、赤ちゃんがいるの」
「そうですか……僕の子です」
「『本当に僕の子?』って、聞かないのね」
「そんなこと、聞かないです」
「計算するとね、確かにむっくんの子なの。他に思い当たることもないし」
「僕の子です。計算なんてする必要ない」
友也の声に迷いはなかった。
「僕が育てます。何も心配いらない」
友也は由希を見つめた。
「そんな不安な中で、はまぐり食べてたんですか?」
「……うん」
「それは、心苦しいな……ごめんなさい」
「僕と、一緒に生きましょう」
「……」
「不安なこととか心配なこととか全部僕が持つから。だから大丈夫。結婚してください」
「嬉しいけど、……」
由希は、上手く言葉が出なかった。
「由希さん、勘て信じますか?」
「勘?」
「はい。女性は勘がいいっていうじゃないですか」
「そうね」
「僕、由希さんの背中を見た時に、この人と結婚する、って思ったんです。でも、見失って、もう会えないと思ったけど、また会えた……」
「運命、みたいなことを言いたいの?」
「うーん、そう言えるように頑張りたいなって」
「……」
「由希さんと子供を幸せにして、やるべきことを全う出来た。これで良かった。って思いたい」
「そうなのね……」
「もっと、信頼してみませんか。人も人生も。海も、今日もちゃんと生きてる」
友也は立ち上がる。
由希も立ち上がろうとして、友也が手を貸した。
二人は海を見つめた。
波の音が心地いい。
「新しい命がいるんだもの。私もちゃんと生きないとね。ちゃんと……生きないと」
友也はその言葉に安堵した。
「人生って、やり直しできるのね」
「そうですよ」
「きっと、全部、贈りものなのかもしれない……」
由希がそう言うと、友也は由希をやさしく抱きしめた。
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