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呪解冒険譚  作者: すめ
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p1 外の世界

「貴女だけは…幸せに……」


その言葉だけが記憶に残っている。でも、誰の言葉なのか分からない。


鎖に手足を繋がれて、人も出入りのしない辺鄙な遺跡で1人でもう何十年も囚われていた。歳を取らず、老いを知らない…この不老な身がこの時だけは憎く感じる。食事を取れず、痩せ細り骨が浮き出た身体。非常にも過ぎていく時間によって、伸びた長い白髪。私はこのまま一生をここで過ごすのだろうか。このまま…このまま…


数十年前、当時まだ私は14歳という歳で今となっては思い出せないが、大切な人と平和に暮らしていた。私は生まれ時からとある呪いに侵されていた

怠惰(スロース)の呪い

言い伝えによると、この呪いは七大罪と呼ばれる呪いの中の1つでその七つどれもが最終的にはロクな末路を辿らない。その上に物語の中では沢山の人々を巻き込む可能性もある恐ろしいものだった。

そんな呪いを国は野放しにする訳もなく、私は突然家に押し掛けてきた国の兵士に連れて行かれ、教会司教を名乗る男の力によって、この遺跡に封印された。私は望んで呪いに侵された訳じゃないのに。


逃れられるのなら、早く…早くこの場所から逃れたい。




ある日、入口に続く奥の方からコツコツという足音とカランカランと言う足音が1つずつ聞こえた。誰かが…近付いてきている?こんな場所に?教会の人間か…または国の人間か…いや、でも何十年も誰も来なかった癖に今更だなんて……まぁ、兎に角こんなところに来るだなんて、ロクな人間じゃないだろう。


「あ、居た居た〜!この子だよ、イベくん!」


現れたの甲高い声で喋る桃色髪のエルフの女。そして、その少し後ろには狐の仮面を被った和装の小柄な男が居た。イベくん、と呼ばれた男は到底「くん」と付けるには似つかない雰囲気をしていたが本人は気にしていないようだ。


後ろの男からは何処か自分と似たような魔力を微かに感じる。女の方は…魔力が多い、流石はエルフと言ったところだ。


「そうか、予定通りにな」


エルフの女の言葉に人間の男は冷めた言葉を返して、私の方を少し見つめると直ぐに入口の方を向いて腕を組んだ。男の様子に不貞腐れるように女は言う。


「もう〜…昔はあんなに可愛かったのに、今じゃ…素直じゃないんだから」


そう言いながらも、女は身に着けていた小さなポシェットの中から古臭い鍵を取り出すと此方に近付いてきた。鍵を私の足にある枷の方へ持って行って、鍵穴に鍵を刺そうとする。が、鍵穴は時間が経ち過ぎたのか錆びて、汚れが溜まってしまっている。


「あっちゃぁ〜、これは面倒臭い…イベくーん?」


鍵が入らないとして、鍵穴をよく確認しながらまた男の名を呼ぶ。男は声に反応すると身体を少し女の方へ向けた。女は片手を上げて、此方へ来るように指先を動かす。男は何も言わずに頷くと、また入口の方を向いた。そして、片足の爪先を少し上げると地面に軽く叩き付ける。またカランという音が鳴る。それと共に男の足の裏から伸びる男の影が段々と大きくなって、それは男の身体を簡単に覆い尽くしてしまいそうな程の大きさになった。すると影の中から、無数の黒い手のようなものが出てくるとそれは段々と伸びて遺跡の高い天井にも着きそうな程長くなる。そして、それらの手は突然向きを変え、此方の方にゆらゆらとゆっくりと進み出す。少しずつ手の速度は増して行き、物凄い速さで此方へ近付いてくる。それは、私の手足に付けられた枷の鍵穴の中に入って行き、カチャカチャと音が鳴って暫くすると枷が外れた。私は床に放り出されようとしたところを女が身体を支えてくれた為、地面に肌を付けることにはならなかった。


外れた枷が床に落ち、鈍い音を立てた。その音がやけに遠く感じた。長年、着いていた枷が外れ、手足がスッキリとした感覚が僅かにする。長い事、繋がれていたからか…手足だけでなく、喉も力が入らない。動けそうにもないし、言葉を発することも出来そうにない。


「腕細っ!肌も薄いし…骨浮き上がってるじゃん。これで、よく生きてたよね……貴女。」


力無く、倒れ付すしかない私に身体を貸してくれるエルフの女は私の腕やら頬やらを触りながらそう言った。男の方に目線を向ける。その先には先程の手が男の影の中へと戻って行くと影は段々と小さくなり、次第には元の大きさへと戻った。男は腕を組んだまま、黙って入口の方を数秒間見つめた後、振り返って此方の方へ歩み寄って来た。


「流石は魔女の娘、と言ったところだ……」


魔女の娘、男はそう言うと近くへ来て、私の方を見た。上から見下ろすように私を見る。目が合って、仮面の先の瞳を見ようとするも、先には果てしない深淵のような闇しか見えなかった。数秒間見つめ合うと、男は目線を外し、仲間のエルフの方を見て何かを言った。が、その内容までは聞き取れなかった。珍しく、興奮して舞い上がってしまったからなのか…ただでさえ、力無い身体から更に力が抜けていく。そして私は意識を手放した。




……温かい。


最初に戻ってきた感覚は、それだった。硬く冷たい石じゃない。布の柔らかさと、草木特有の香りがした。眩しい、太陽の光が酷く懐かしく感じる。外、私は外に居る。


「あ〜、目…覚めた?おはよ、真っ白ちゃん!」

『ま…ろ……ゃん…?』


真っ白ちゃん、と奇妙な名前で呼ばれるから思わず聞き返すように声が出る。だが、衰弱し切った身体では上手く喉が動いてくれない。


「いやぁ〜、良かった!余りにも身体が弱ってるから…もう起きないんじゃないかと焦ったよ。」


それもそうだ。何十年も飲まず食わずで囚われ続けていたのだから。身体中が衰弱し切っていて、手足を動かすのも喋るのもやっとのことだ。


辺りを見渡すと、小さなテントと焚火に椅子代わりの丸太があって…焚火の周りには料理用具がいくつか並べられていた。身体を起こそうと、腕に力を入れるが直ぐに力が抜ける。倒れるかと思ったが、彼女が背中を支えてくれたお陰で倒れることはなかった。彼女の手を借りて、上半身だけを起こす。


『こ…こ……は?』


上手く動かない舌を必死に動かして、そう言うと彼女が答えてくれた。


「遺跡からちょっと離れた私達の野営地だよ。あそこに長居してると精神が参っちゃいそうだからね〜!」


そう言って、彼女は笑った。なるほど…ここは彼らの野営地だったのか。


辺りを見渡すと、奥の方で木に背を預け、根元で刀の刃を布で綺麗に磨いている狐面の男…イベくんと呼ばれていた人が居た。


『…あの…人…は?』


彼の方を見て、そう言う。すると、彼女も彼の方を見て悪戯を企む子供のような表情で言った。


「イベくんはね……あれで実は心配性の世話焼きなんだよ〜?君が気を失った時なんて、中々うごかなかったんだからね。」


彼女がニシシ、と笑うと遠くに居る彼の刀を磨く手がピクリと止まる。彼女の方に目線を移すと何時の間にか遠くに居た彼が直ぐ近くに居て、呆れたように言った。


「……余計なことを言うな。カラン」


低く、落ち着いた声だった。


カラン、彼女の名前のようだった。カランとイベ…くん?これが2人の名前なのか。そう言えば、私の名前まだ教えてなかった。数十年の時を経て、記憶や身体は衰弱しているが名前だけは確かに覚えている。


『シー…シャ』


私がそう言うと、カランはポカンとした表情をした。どうやら、私が何を言っているのかよく分かっていないようで…それを見たイベくん?が言った。


「シーシャ、それが名前だな?」

『そ…う……』


彼の問いに頭を縦に振る。するとやっと、彼女は分かったようで…


「あぁ…!名前ね!なんで、シャーシャーって、初対面のイベくんみたいに言ってるのかなと思ったよ〜!」


初対面で…シャーシャー??そんなこと普通あるだろうか。いや、ただの比喩表現か…


「ありもしない事を言うな。俺は何時だって、流暢に喋ってるだろ」

「流暢に……ねぇ〜?」


彼女と彼の掛け合いが親しい仲なのが伝わってくる。それと同時に本当に私は今、外に居るんだと痛感する。あんなにも、外に出ることを諦めていたのに…こんなに簡単に彼らは私を外に出してしまったのか…と。


2人の掛け合いを見ながら、感傷に浸る。暫くすると、掛け合いが終わると2人は此方を向いて、彼女が言った。


「取り敢えず…そろそろ、ご飯にしよっか!ついでに自己紹介も!イベくん、宜しく〜!」


そう言って、私をずっと支えていた手をゆっくりと離して私を寝かせた。彼は彼女の言葉に軽く返事を返すと、先程の遺跡の時のように爪先を上げて、カランと音を鳴らした。するとゆっくりと私の身体が浮き始めた。身体中にひんやりとした風を感じる。風魔法のようだ。風魔法が優しく私を押して、立ち上がらせてくれた。


「俺の魔法で補助をしているから、倒れる心配はない。」


そう言って、奥の焚火の方へと歩き出した。彼の後を彼女が追い掛け、彼女の手招きで私も奥へと歩き出した。

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