第2話 剣士との邂逅
28歳、ブラック企業に心と体をすり減らしていた佐藤健。
過労と事故で命を落とした彼は、女神の導きで異世界へ転生することに。
与えられたのは——
「全スキル適性SSS」
「魔力∞(計測不能)」
そして、前世で培った現代知識。
目覚めた森で試した初級魔法は、森をまるごと吹き飛ばす規格外の威力!
その光景を目撃した美しき女剣士リィナは、健を“怪物”と呼び、一戦を挑むが……結果は圧倒的な実力差。
平凡な人生しか歩めなかった男は、異世界で初めて「無敵の力」と「新たな仲間」と出会う。
やがて王国の陰謀、魔王軍の影、そして転生の真実へと巻き込まれていくことに——。
「今度こそ、自由に生きてみせる!」
無双チートで爽快!ちょっぴりシリアス、時々コミカル。
これは、ひとりの元社畜が“本物の英雄”になっていく物語。
彼女こそ、“氷の剣姫”リィナ。
この地でその名を知らぬ者はいないという実力者だった。
リィナの視線が、焼け野原へと注がれる。
炭と化した木々、地割れした大地、漂う焦げ臭い匂い。
その中心に、場違いなほど間抜けな顔で立ち尽くすケン。
「……これを、一人で……?」
リィナの声は低く、信じがたい光景を前に震えていた。
同行していた冒険者たちも言葉を失う。
「森が……吹き飛んでるぞ……」
「いや、こんなの……人間の魔法じゃない……」
ケンは慌てて両手を振った。
「あ、あの! 俺、ちょっと試しただけで……! 本当に!」
だが言い訳は虚しく響くだけ。
リィナの瞳は鋭さを増し、剣へと自然に手が伸びる。
シュッ——。
鞘から抜き払われた瞬間、空気が張り詰めた。
白銀の刃が、残光に赤く染まる夕陽を反射し、まるで炎そのものを映したかのように輝く。
リィナはゆっくりと剣を構えた。
「……名を名乗れ」
突き刺さるような声。
ケンの背筋を冷たい電流が走る。
喉が渇き、言葉が出てこない。
「俺……えっと、ケン……ただのケンです!」
「ただの、だと?」
リィナは鋭い吐息を漏らす。
「森ひとつを吹き飛ばす《ファイアボール》など、ただの人間が放てるはずがない。
——怪物か、天災か。いずれにせよ確かめねばならない」
彼女の周囲の空気が凍りつくように冷えた。
蒼い瞳の奥に宿るのは、恐怖でも憎悪でもない。
ただ、圧倒的な“戦士の覚悟”。
リィナが一歩踏み出すたび、落ち葉がざわめき、健の心臓が跳ね上がる。
剣先がまっすぐ自分を捉えているのを感じる。
呼吸が乱れ、背中に汗が流れ落ちた。
「ま、待ってくれ! 俺、本当に戦うつもりなんて——」
「黙れ。言い訳は剣に通じぬ」
一閃の気配。
リィナの姿が霞のように揺らぎ、風が鳴った。
ケンの目に、初めて見る“本物の戦場の気配”が飛び込んできた。
そして...リィナが地を蹴った瞬間、世界が変わった。
—— 風。
耳を裂くような轟音とともに、彼女の姿は視界から掻き消える。
残ったのは空気を切り裂く圧力と、足元を揺らす衝撃波。
「なっ……!? 速い——!」
ケンの瞳が大きく見開かれる。
思考が追いつくより先に、銀閃が目前に迫っていた。
リィナの剣。
白銀の軌跡が夕陽を反射し、炎の残光と混ざり合い、一瞬だけ流星のように煌めく。
避けられない。
防げない。
——本来なら。
キィィィィンッ!!
澄んだ金属音が弾けた。
見えない壁がケンの前に立ち現れ、剣を弾き飛ばしたのだ。
透明な波紋が空気を震わせ、光の揺らめきが走る。
「……は……?」
リィナの表情に、初めて困惑が浮かんだ。
しかし彼女はすぐに気を取り直す。
「まだだ——!」
二撃目、三撃目。
剣閃が嵐のように振るわれる。
ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ!
斬撃が空を裂き、衝撃波で近くの枝葉が千切れて宙に舞う。
冷たい殺気が肌を切り裂くかのように押し寄せる。
ケンは立ち尽くしたまま、ただ瞼を強く閉じた。
「やめろ、やめろ、俺なんか死ぬって!!」
だが、刃は届かない。
バシュンッ! バシュッ!
剣が当たる寸前、透明な壁が必ず間に割り込む。
金属が弾ける音と共に、光の火花が次々と散った。
まるで“意思を持つ守護者”がケンを守っているかのように。
彼自身が動く必要すらなかった。
リィナの息が荒くなる。
額に玉のような汗が浮かび、目に苛立ちと驚きが混じる。
「……何者だ、お前は……!」
彼女の斬撃は百戦錬磨のもの。
並の冒険者なら一合目で地に伏している。
だが目の前の男は、構えすら取らず、ただ怯えながら立ち尽くしているだけ。
それなのに、その全ての剣を完璧に防いでいた。
「バカな……防御魔法を展開する動作も、詠唱もしていない……!」
リィナの声が震えた。
彼女は決意を固めるように目を細める。
「これで終わりだ!」
全身の力を剣に込め、一直線に突きを放つ。
空気が悲鳴を上げ、矢のように放たれた必殺の一撃。
ケンの瞳孔が開き、迫りくる刃先を映した。
「う、うわあああ!!」
——その瞬間。
バシュウゥゥンッ!
光の盾が音を立てて展開し、突きを真正面から弾き返した。
反動でリィナの体が跳ね飛ばされ、地面を転がり、剣先が土に突き立つ。
舞い上がる砂埃。
静寂。
荒い息を吐きながら立ち上がるリィナ。
その蒼い瞳は、信じられないものを見たと告げていた。
「……まさか……無意識で……」
一方、ケンは腰を抜かしそうになりながら叫ぶ。
「いやいやいや! 俺、何もしてないから! 本当に!!」
彼の必死の弁明は、むしろ場を凍らせる。
リィナの仲間の冒険者たちは唖然とし、ただ一言。
「……怪物だ……」
その囁きが、静かな森に落ちていった。
沈黙の中、リィナはゆっくりと剣を収めた。
彼女の瞳が、今度は獲物ではなく“得体の知れない存在”を見る色を帯びている。
「認めざるを得ない……お前は怪物だ」
その声には恐怖と、ほんの僅かな敬意が混じっていた。
健は困ったように頭を掻き、ぎこちなく笑った。
「いやいや、怪物って……俺はただのケン、です」
リィナは彼をじっと見据えたまま、低く告げた。
「……ケン、だったな。お前の力は、このまま放置できるものではない。ギルドで正式に測る必要がある」
その言葉は命令でもあり、提案でもあった。
健はため息をついた。
「……また面倒なことに巻き込まれそうだな」
だが心の奥では、久しぶりに“胸の高鳴り”を感じていた。
ここまで作品を読んでいただき、本当にありがとうございます!
拙い部分もあるかと思いますが、少しでも「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけたなら、それだけで作者冥利に尽きます。
※初投稿後に描写を修正しました。ストーリーに変更はございません※
この物語は、平凡で報われなかった主人公が、異世界で“自由”を得て新しい人生を歩んでいくお話です。
読んでくださったあなたが「自分ももう一度やり直せるかも」と思えるきっかけになれば、これ以上の喜びはありません。
ブックマークや感想、評価などで応援していただけると、執筆の大きな力になります。
次回もワクワクする展開をお届けできるよう、全力で物語を紡いでいきますので、どうぞお付き合いください。
それでは——また次の話でお会いしましょう!