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第1話 ブラック企業戦士、異世界へ

28歳、ブラック企業に心と体をすり減らしていた佐藤健。

過労と事故で命を落とした彼は、女神の導きで異世界へ転生することに。


与えられたのは——

「全スキル適性SSS」

「魔力∞(計測不能)」

そして、前世で培った現代知識。


目覚めた森で試した初級魔法ファイアボールは、森をまるごと吹き飛ばす規格外の威力!

その光景を目撃した美しき女剣士リィナは、健を“怪物”と呼び、一戦を挑むが……結果は圧倒的な実力差。


平凡な人生しか歩めなかった男は、異世界で初めて「無敵の力」と「新たな仲間」と出会う。

やがて王国の陰謀、魔王軍の影、そして転生の真実へと巻き込まれていくことに——。


「今度こそ、自由に生きてみせる!」

無双チートで爽快!ちょっぴりシリアス、時々コミカル。

これは、ひとりの元社畜が“本物の英雄”になっていく物語。

◆地獄のような日常


佐藤健さとう けん、28歳。

大学を出て、地方から上京したときは胸を躍らせていた。

「この街で、自分も一流のエンジニアになってやる」

そう思って飛び込んだIT企業は、誰もが噂する悪名高き“ブラック”だった。


——午前7時。

通勤ラッシュの山手線。

すし詰め状態の車内で、押し潰されるように立ち尽くす。

革靴の中は汗で蒸れ、スーツの襟はすでに湿っていた。

車内アナウンスも人々のため息に掻き消され、窓ガラスには自分と同じように疲れた顔が映っている。


——午前8時半。

パソコンを立ち上げ、息を整える間もなく、メールの通知が雪崩のように画面を埋める。

上司からは赤字だらけの資料の修正指示。

クライアントからは無茶な納期変更。

昼休憩も削られ、コンビニおにぎりを片手で食べながらキーボードを叩く。


——夜。

終電など存在しない。

タクシーの領収書だけが、深夜残業の勲章だった。

午前2時に会社を出ても、空気は湿って肌に重くのしかかる。

街灯に照らされた自分の影が、やけに薄っぺらく見えた。


帰宅すれば、シャワーを浴びる気力すらなく、ベッドに倒れ込む。

食事は冷えたコンビニ弁当。味も匂いも感じない。

休みの日ですら、スマホに「緊急対応」の通知が届けば、否応なしに会社へ。


——ある日の朝。

徹夜明けで血走った目を擦りながらオフィスに入った健を、上司が見下ろすように睨んだ。


「なんだその顔。客先に出せるツラじゃねえぞ」


声は冷たく、容赦なく心を突き刺した。

返す言葉もなく頭を下げると、背中からは後輩たちの笑い声が追いかけてきた。


「佐藤さんって、要領悪いよね」

「仕事できないのに残業だけは一人前」


笑い声が耳に染みついて離れない。

塞いでも塞いでも、胸の奥で反響する。


かつて「夢のある大人になりたい」と思っていたはずだった。

誰かに誇れる人生を歩みたいと願っていたはずだった。

それなのに今や、夢も希望もなく、ただ疲れ切った体を引きずりながら生きるだけの日々。


唯一の救いは、寝る前にスマホで開くRPGゲームの画面だった。

勇者として、魔王を倒す主人公。

仲間に囲まれて笑い合う姿。


【もし、自分が勇者だったら】


——その妄想だけが、佐藤健をかろうじて生かしていた。


◆死の瞬間


その夜も健は、いつも通り午前様だった。

蛍光灯の白い光に照らされたオフィスを最後に出たのは、時計の針が午前1時を回った頃。

パソコンの残光に焼き付いた目は霞み、足取りは鉛のように重い。


外に出れば、雨上がりのアスファルトが街灯を反射し、じっとりとした湿気が肌にまとわりつく。

シャツは汗と雨で重く、革靴の中では靴下が冷たく張り付いていた。


「……はぁ……明日も資料作りか……」


口から漏れる声は、ため息とも呟きともつかない。

疲労でぼやけた視界に、信号機の赤が滲んでいた。

それでも足は止まらなかった。

止まったら、そのまま倒れてしまう気がしたから。


——その瞬間。


ドォォォォンッ!!


耳を劈くクラクション。

目の前に迫る巨大なヘッドライト。

世界が白一色に塗り潰された。


時間が引き伸ばされたように、思考だけが鮮明になる。

「あ……トラックだ」

「俺、今、轢かれるんだな」

恐怖よりも、奇妙な安堵が先に訪れた。


【これで……終わるんだ】


血の気が引き、体の感覚が遠のく。

痛みはない。ただ心臓の鼓動が遠くで響いている。


意識が完全に途切れる直前、健の頬に雨粒が一滴落ちた。

冷たい感触が、妙に優しく思えた。


——そして、すべてが暗転した。


◆女神との邂逅


——暗闇。

全てを失ったはずの意識が、ふと、柔らかな光に包まれた。


目を開けると、そこは果てしない白銀の空間だった。

床も天井も存在しない。

光の粒子が舞い、まるで夜空の星々を逆さにしたように周囲を照らしている。


空気は澄み切り、どこからともなく優しい音色が流れていた。

風鈴のようでも、聖歌のようでもある不思議な響き。

耳に触れるたび、心の奥に溜まっていた淀みが洗い流されていく気がした。


「……ここは……?」


呟いたその声に応えるように、光の粒子が集まり、人の形を成していく。

やがて現れたのは、黄金の髪を持ち、碧い瞳を宿した女性。

純白の衣に身を包み、背後には淡い翼の幻影が揺らめいていた。


「お疲れさまでした」


鈴の音のような声が、健の心に直接響く。

それは慰めでもあり、祝福でもあった。


健は思わず膝を折り、頭を垂れた。

「……あんたは……神様、か……?」


女神は微笑んだ。

その笑みは母のように優しく、同時に全てを見透かすほど神々しかった。


「ええ、私はこの世界と、いくつもの世界を見守る存在。

あなたの魂は、あまりにも痛みに満ちていました。

努力は踏みにじられ、心はすり減り……

それでも、あなたは最後まで生き抜いた。——その強さに報いたいのです」


女神の言葉に、健の胸の奥で何かが震えた。

誰からも認められなかった人生。

「無能」と蔑まれ、「役立たず」と笑われ続けた日々。

そのすべてを、この女神は見ていたのだ。


「……俺の人生に、価値なんてあったんですか」

健の声は震えていた。


女神は静かに首を振る。

「もちろんです。あなたが耐えてきた時間は、決して無駄ではありません。

だからこそ——次の世界では、あなたに自由を贈ります」


女神が両手を広げると、光の粒子が渦を巻き、健の体を包んだ。

暖かい、優しい、心の底から安らぐ光。


「全てのスキルに最高の適性を。

無限の魔力を。

そして、前世の知識を持ち越す力を。


——これはあなたへの祝福です。

今度こそ、あなたが笑って生きられるように」


涙が頬を伝った。

健は嗚咽を堪えながら、ただ小さく呟いた。


「ありがとう……」


その言葉と共に光は強く輝き、健の体は別の世界へと導かれていった。



◆異世界での目覚め


——まぶしい光。

目を開けた瞬間、視界いっぱいに広がったのは、濃い緑と青の世界だった。


天を突くように伸びる巨木。

無数の葉が重なり合い、風に揺れるたびに光と影のモザイクを地面に描き出す。

頭上から差し込む陽光は黄金の粒となって降り注ぎ、健の頬を柔らかく撫でた。


「……ここは……?」


体を起こすと、草の香りが一気に鼻をくすぐる。

湿った土の匂いと混じり合い、どこか懐かしく、そして新鮮だ。

足元には小さな小川が流れ、透明な水が陽光を反射してきらめいていた。

水面に映る自分の顔は、不思議と疲れの影が消え、少し若返ったように見える。


耳を澄ませば、小鳥のさえずりが重なり合い、まるで旋律のように森全体を満たしている。

遠くでは獣の鳴き声、風に揺れる木々のざわめき。

そのすべてが調和し、ひとつの「生きている音楽」となって響いていた。


健は手を伸ばし、草を握った。

しっとりとした感触。

指先に残る緑の匂い。

それだけで、胸の奥が熱くなる。


「……すごい、本当に……異世界だ」


喉が渇いていることに気づき、小川に口を近づける。

冷たい水が唇を伝い、喉を滑り落ちていく。

甘い。澄み切っている。

都会で飲んでいた水道水とは比べものにならない。


思わず目尻が熱くなった。

「……生きてる……俺、本当に、生き直せるんだ……」


長年、心を押し潰され続けた男の瞳に、初めて光が宿った。

その涙は、過去の苦しみを洗い流し、未来への希望を告げる証のように頬を伝っていった。


ブラック企業に心を削られた男が、初めて「生きる喜び」を味わった瞬間だった。

——そして、これが彼の第二の人生の幕開けだった。


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◆初めての魔法


森のざわめきが静まり返る一瞬を感じながら、ケンは自分の手をじっと見つめていた。

「……魔法、だよな。俺も使えるんだよな」


心臓がドクンと脈打つ。

胸の奥に、かつてゲームで憧れ続けた「魔法使い」という存在の姿が浮かんだ。

指先から火が生まれ、敵を焼き尽くす。

それを“自分が”やれるかもしれない。


喉が乾くほど緊張しながら、右手を前に突き出す。

「……よし。落ち着け、俺。とりあえず一番基本的なやつからだ。《ファイアボール》!」


その瞬間、空気が震えた。


手のひらから熱が迸り、周囲の温度が一気に上がる。

まるで大気そのものが燃えだすように、炎の粒が集まり、渦を巻き始めた。


「え、ちょ……なんかデカくない!?」


拳大の火球を想像していたのに、眼前に生まれたのは人間の頭どころか、健の身長ほどもある巨大な炎塊だった。

炎の表面がゴウゴウと音を立てて揺らぎ、中心では白熱の光が唸りを上げる。


次の瞬間——


ドォォォォォォンッ!!!


火球は轟音とともに射出された。

大砲どころではない。まるで隕石の落下だ。


炎の塊は一直線に飛び、数十メートル先の巨木に直撃する。


ドガァァァァンッ!!!


眩い閃光が視界を焼き、耳を裂く衝撃音が森全体に轟いた。

瞬間的に生まれた熱風が周囲を薙ぎ払い、木々の枝葉が吹き飛ぶ。

健の髪が逆立ち、衣服がばたつく。


「うわあああっ!?」


反射的に腕で顔を庇うが、遅かった。

光と熱が皮膚を焼くように襲いかかり、頬がヒリついた。


やがて光が収まり、残ったのは……焼け焦げた荒野だった。

森の一角が、直径数十メートルに渡って黒焦げに変わり、木々は灰となって崩れ落ちている。

土はひび割れ、まだ赤い炎があちこちで燻っていた。


ケンはその光景を見つめ、口をパクパクとさせた。


「……は?」


——ファイアボール。

RPGで言うところの“初心者魔法”。

スライムを炙る程度の技が、森をまるごと消し飛ばす規模に化けている。


「な、なんで!? 俺、ただ小さい火の玉を……」

膝が笑い、尻もちをつきそうになる。


慌てて手を見つめると、まだ微かに煙が立ち上っていた。

「俺、今……核兵器でも撃ったのか……?」


自嘲気味に呟くと、心の奥底でゾクリとした。

恐怖と同時に、胸を打ち破るような快感。


「ははっ……マジかよ。これが……俺の力……?」


周囲は焦げた木の匂いで満ち、黒煙が空へと昇っていく。

鳥の鳴き声は止み、森全体が静寂に包まれていた。

ただ、崩れ落ちる木々のパキパキとした音だけが、虚しく響く。


ケンは喉を鳴らした。


「……俺、本当に……チートなんだな」


笑っていいのか、怯えるべきなのか、感情がぐちゃぐちゃに絡まる。

だが確かなのは、この瞬間——

平凡だった佐藤健という男が、もう“ただの人間”ではなくなった、ということだった。


ブラック企業に押し潰されてきた彼の心に、今まで感じたことのない“力を持つ実感”が芽生えていた。


◆運命の出会い


しかし、余韻に浸る間もなく。

爆心地に立ち尽くすケンの耳に、複数の足音が近づいてきた。

枝を踏みしめる音が重なり、森のざわめきに不自然なリズムを刻む。


「今の魔力……ここからだ!」

「バカな、あの規模は王国でも数人しか——」


声と共に、木々の隙間から数人の冒険者が飛び出してきた。

鎧をきしませ、武器を構え、警戒の色を隠さない。


だが、その視線はすぐにケンの背後へと吸い寄せられる。

彼らの間を、静かに歩み出る影があった。


——銀髪。


月光を思わせる長い髪が、風に靡いて揺れた。

蒼い瞳は研ぎ澄まされた刃のように冷たく、どこまでも真っ直ぐケンを射抜く。


腰に佩いた剣が、歩みのたびに低く鈍い金属音を響かせた。

ここまで作品を読んでいただき、本当にありがとうございます!

拙い部分もあるかと思いますが、少しでも「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけたなら、それだけで作者冥利に尽きます。


※初投稿後に描写を修正しました。ストーリーに変更はございません※


この物語は、平凡で報われなかった主人公が、異世界で“自由”を得て新しい人生を歩んでいくお話です。

読んでくださったあなたが「自分ももう一度やり直せるかも」と思えるきっかけになれば、これ以上の喜びはありません。


ブックマークや感想、評価などで応援していただけると、執筆の大きな力になります。

次回もワクワクする展開をお届けできるよう、全力で物語を紡いでいきますので、どうぞお付き合いください。


それでは——また次の話でお会いしましょう!

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