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魔法世界・名無し  作者: Shu
水の始祖、静寂を破る
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エピローグ

魔法世界《名無し》・第二章 闇夜の追跡


夜の稲葉町──

列車の窓から差し込む月明かりを浴びながら、シュウは静かに目を閉じていた。耳を澄ませば、遠くから忍び寄る不穏な魔力の鼓動が、己の魔力を震わせる。


「……間違いない。この町だな」


駅に降り立った瞬間、空気が重く淀んでいるのを肌で感じる。吐息すら黒く濁るような、邪悪な魔の気配が町全体を覆っていた。足音を忍ばせ、彼は暗い路地を抜け、情報で聞き及んだ集会の痕跡を探し始める。


やがて、一人のローブ姿の男が視界に入った。腕には禍々しい気配を放つ魔導書。シュウが視線を向けた瞬間、男は怯えたように身を翻し、駆け出す。


「逃げるか……」


追跡は夜の街を駆け抜け、やがて男は仲間の元へ辿り着く。そこには、すでに異形の巨獣が召喚されていた。背を覆う黒炎、眼は血のように赤く輝き、その威圧感は空間を軋ませる。


「これなら……あの魔法使いも終わりだ」

嘲笑を浮かべる信徒たち。だが、その中心に足を踏み入れたシュウは、一切の恐れを見せなかった。


彼は静かに魔導書を開き、低く呟く。

「火炎魔法・第一式──炎鎖」


瞬間、紅蓮の鎖が迸り、巨獣の四肢を絡め取る。咆哮が響き、地面が砕けるが、鎖は解けない。


周囲から飛びかかる信徒たちの刃を、シュウは身を翻してかわし、次のページを開く。

「火炎魔法・第四式──焦炎鳥」


空間から無数の炎鳥が舞い降り、鋭い鳴き声と共に信徒たちへ突撃する。次々と直撃を受けた者たちは炎に包まれ、悲鳴を上げながら地に崩れ落ちた。


その光景を、束縛された巨獣が恐怖の眼で見つめていた──。.


魔法世界《名無し》・第三章 獣王の咆哮


鎖に縛られた異形の獣は、秒を追うごとに狂暴さを増していった。

炎鎖を軋ませ、体をよじり、解き放たれようと暴れる。

やがて──紅蓮の鎖が一部、獣の体表から剥がれ落ちる。


「……っ、鎖が……? こいつ、最高位の魔獣か」


シュウの瞳に一瞬、緊張の色が走る。迷うことなく魔導書を開き、次の一節を紡いだ。

「火炎魔法・第四十式──威焔鳥」


眩い炎が空間に咲き、その中から巨大な炎の鳥が姿を現す。美しさと威圧感を併せ持つその鳥は、獣めがけて一直線に突撃し、灼熱の翼で再び拘束しながら、その身を焼き尽くす。


魔獣は激痛に吠え、額の角から立て続けに魔力弾を放つ。砲撃の衝撃が周囲を粉砕し、建物は次々と崩れ落ちていく。


「……バリア」


シュウは落下してくる瓦礫に覆われる前に、足元から防御障壁を展開した。

次の瞬間──魔獣の全身から凄まじい爆発が迸る。爆炎が半径数十メートルを焼き払い、あらゆる物を吹き飛ばした。


しかし、その中心でシュウは立っていた。

揺らめく障壁の内側、彼の表情は微塵も揺らいでいない.


魔法世界《名無し》・第四章 炎の真祖


街全体を飲み込んだ爆発の残滓が、赤黒い煙となって夜空へと立ち昇っていく。

崩れ落ちた建物、焦げ付いた大地──その光景を見渡し、シュウは小さく息を吐いた。


「……ここで止める。援軍を待つ時間はない」


次の瞬間、彼の黒髪が燃え立つように赤く染まり、瞳は黄金の炎を宿す。

それは“始祖化”──炎の始祖としての真の姿。


魔導書の全てのページが一斉に開き、数十の術式が同時に浮かび上がる。

幾重もの火炎が空を裂き、炎鳥、炎槍、炎鎖、灼熱の嵐が魔獣を包み込む。

しかし、シュウの声は止まらない。


「……そして──」


ページの最奥。これまで一度も使ったことのない術式。

その名を口にした瞬間、世界が震えた。


「火炎魔法・最終式──龍炎咆哮!」


大地を揺るがす咆哮と共に、炎の龍が顕現。

口から吐き出された灼熱の奔流は、目に映る全てを焼き尽くし、魔獣を押し潰す。

やがて轟音が止むと、そこには黒く焦げた巨体が崩れ落ちていた。


「……終わりだ」


シュウは魔導書を開き、転移術式を発動する。

光に包まれた魔獣の亡骸は、瞬く間に彼の隠された研究拠点へと送られた。

あの毛むくじゃらの巨体──その正体を突き止め、どこに眠らせるべきかを知るために?.







エピローグ

主人公の名はシュウ。炎を操る魔法使いであり、魔法が特定の世界を支配し過ぎぬよう、魔導組織と手を組み、その均衡を守っている。

彼に与えられた任務は、配属先である「名無しの世界」において魔力の動向を監視すること。この世界は魔力が溢れ、数多の魔法生物が神や神格として崇められていた。

監視者としての彼の役目は、これらの神々や神格が邪悪な目的に利用されぬよう見張り、もしその力が悪へと傾くなら、たとえ一人であろうと仲間と共であろうと、迷わずそれを討ち果たすこと。

シュウは、七人しか存在しない魔法の始祖の一人──その中でも炎を司る始祖である。彼が操る炎は「原初の炎」。それは全ての世界の歴史における、最も古く、そして最初の炎であった。


魔法世界《名無し》・第五章 原初との邂逅


夜が明ける前、シュウは魔導組織との通信を開いた。

『こちらシュウ。……任務は完了した。だが街は……壊滅状態だ。明日には報道に載るだろう』

『原因は?』

『魔獣だ。もう死んでいる』


短く報告を終えると、通信を切り、転移陣を踏みしめた。


――研究拠点。

冷たい魔力灯が照らす部屋の中央、転送された巨体が横たわっている。

シュウは魔導器を操作しながら、その体を慎重に調べていった。


「……原初存在、か」

解析の結果、判明したのは衝撃的な事実だった。

それは、彼の“原初の炎”と同じ時代、同じ位相から生まれた存在。

だからこそ、全力を尽くし、幾重もの術を重ねねば討てなかったのだ。


さらに──その個体は雌だった。


シュウは膝をつき、そっとその毛並みに触れた。

指先に伝わる、厚く柔らかな毛皮の感触。

「……こんなにも温もりがあるのに」


彼の表情に、静かな哀しみが浮かんだ。

それは敵であり、倒すべき存在だった。

しかし同時に、同じ“原初”を持つ者としての、消せない感情が胸を締めつけていた。

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