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溌剌剣士の愛が重い2

「あの、別にそういう意味じゃなくてだな?」

「……そういう意味じゃないなら、どういう意味?」


 セラは笑っているが、目はマジだ。


「セラが俺の見てないところで力を発揮できるなら、たとえば俺が追われてるときに、セラに殿を務めてもらいたいってことだよ」

「い、いなくなるって……そういうこと……?」


 肩にめり込んでいた指が離れる。


「あぁ、まだ本気のセラを見たことがないけど、Sランク認定は本物だろ? だから、少なくとも猫よりは頼りにしてる」


 その一言に、セラの肩がびくんと小さく跳ねた。

 

「……たよりに、してる……?」


 赤い瞳が揺れて、まばたきが一つ、二つつ。


「そっか! マスター、わたしのこと、たよりにしてるんだ……! えへへっ!」


 セラの顔が、ぱぁっと花開いたように明るくなる。

 ついさっきまで目に宿っていた危うい光が、嘘みたいに消え去っていた。


「私、ほんとにちゃんとマスターの役に立てるように頑張るからね! 今度こそ、ぜったい! マスターに安心してもらえるように見せてあげます!」


 腕をぐっと突き上げてポーズを取る。

 さっきの糸の切れた人形とはまるで別人だ。

 

「――セラ」


 冷たい声が割って入る。

 リゼットが俺の前に半歩進み出る。


「シン様に甘えるのは構いませんが、重さは他人に預けるものであってはなりません。主の足を引っ張るような者は、剣ではありませんよ」


 どの口が言ってるんだよと思っていたが、案外セラには刺さっているようで、彼女は肩をびくりと震わせた。

 しかし、セラはそのまま怯むような子ではない。

 悔しそうに唇を噛みしめ、ひとつ息を吐くと、精一杯の気迫を込めてリゼットに向き直る。


「リゼットさんの言うこと、間違ってるとは思わないけど」


 ぎゅっと拳を握りしめる。


「でも、いつまでここにいるの? ギルドでメイドって肩書きなら、もっとやることあるでしょ? その……掃除とか、洗濯とか、えーと……お茶淹れたり!」


 舌戦に慣れていないのがバレバレのセラ。

 対して、リゼットは無表情で揺れる様子すらない。


「紅茶はすでに淹れております。そして、今日の掃除は私ではなく、彼の担当です。私の使命はシン様のおそばで、望む全てを解決することだけです」

「す、全てって……!」


 セラが詰まった瞬間、リゼットがさらに続ける。


「シン様の足音が一歩違っただけで何があったか分かる者が、他にいますか?」


 セラは口を開くことができない。


「いますか?」


 これはもう決着だ。

 っていうか、なんでリゼットは分かるんだよ。


「……さて、お話が済んだのでしたら依頼にでも行ってきたらどうです? 私はこれから、シン様の窮屈な部分を解放して差し上げなければなりませんので」


 その言葉を聞いた瞬間、セラの目の色が変わった。


「――ッ!? ま、マスターそれ本当なの!? り、リゼットさんがマスターの……その、ソレを解放してるって……」

「この人が言ってるのは腰のことだね。何を勘違いしてるのか……全然、まったく分からないけど」


 セラの顔がぼっと赤くなる。

 まぁ、リゼットの言い方も悪いけどな。


「そ、そそそそうなんだ! 腰ね! 私も今度マッサージしてあげるから、いつでも呼んでねっ!」


 さっきまでの緊張と嫉妬の空気が嘘のように、明るい声が部屋に戻ってくる。

 

「よーし、今日は修練場で素振り千本! いや、二千本! リゼットさんに置いてかれないように!」


 そう言うと、セラは勢いよく部屋を飛び出していく。

 ドアを閉め忘れて、ヒーリングゴーレムが「にゃ」と鳴きながらついていった。

 

「……ふぅ、なんとかなった」


 再び部屋に静寂が戻ってきた。

 リゼットは何事もなかったかのように俺の背後に回ると、肩周りのマッサージを再開する。

 既に、身体がかなり軽くなっているのを感じる。


「……Sランクはあるんだよなぁ」


 先ほどのやり取りからは想像できないが、セラだって俺の何倍も強い……はずだ。


「私と同時期にシン様を探し当ててもいますね」


 癪ですが、とリゼットが続ける。

 彼女の言う通り、セラは自力で俺を探し出し、リゼットと同じタイミングで加入申請を出してきた。

 面接の順番はリゼットの方が先で、恐ろしい存在を聖域に引き入れてしまったという絶望から、ヤケクソになってセラも合格にしたのを覚えている。


「それはそうと、どうしてセラはシン様に執心しているのですか? 確かにシン様はお美しい容姿だとは思いますが、彼女は行き過ぎというか」


 俺の見た目は――前世から比べると優れているが――一般的で、セラのような美女がハマる要素は皆無だ。

 であれば理由は自ずと絞れてきて、実際に彼女の口から聞いてもいるんだが――。


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