心中の意味
あれから何年か経った。あれからゆりなにも、くららにも会っていない。死んだのかはわからない。生きていて欲しいと思うとともに、死んでいて欲しくもあった。
しかし、ある日インターホンが鳴った。
そこにはゆりながいた。それから数分、お互い口を利かなかった。だが、彼女がついに口を開いた。
「くららは死んだよ。ねぇ、私じゃダメなの?」
驚きながらも聞き返す。
「なんでそんなことを聞くの」
「さっき、あなたの顔を見てて思ったの」
「何を?」
「あなたしかいないって。その顔じゃなきゃ安心できないの」
「顔目当て?」
「そうじゃなくて、私が見てきた人の中であなただけしか永遠にいてもいいと思う人がいないの」
「じゃあ結婚するってこと?」
「当たり前じゃない」
「嫌だ」
彼女の声色が変わった。
「そうなんだ、、、じゃあ死んで」
彼女は僕をベランダまで突き飛ばしてから手すりを掴んだ。
「結婚しても永遠にはなれないよ」
「それとこれとは関係ないよね?」
「だから聞いてよ」
「なに?いい加減にしてよ、洒落にならないから」
「うるさい。もうおしまい」
彼女は僕を全力で突き落とした。でも抱きしめられている感覚は消えなかった。
滞空時間は長い。僕の部屋は48階にあった。
人生最後の6秒間が始まった。目の前にはゆりながいる。こんなはずじゃなかったのに抱かれている。
思いっきり心中だった。
「心中すれば永遠なの。きっと来世も会えるよ」
落ちる瞬間、視界にくららが映ったのは何かの勘違いだろうか。