我が身より大切なもの
また夢を見てしまいました。
大切な人だったんです。
だからそのまま見殺しにはできませんでした。
どうかお赦しくださいませ。
神様。
3ヶ月前、神が舞い降りてくる夢を見た。禿げた頭に伸びた白い髭。さらには血だらけの白装束をまとっていた。なぜか怖くはなかった。
それから夢をよく見るようになった。というより、毎日だった。全く知らない人が、死んでいった。病に侵されたり、刺されたり、飛び降りたり。
2751年8月23日。
その日の早朝、ある男の子がマンションの上の方から飛び降りる夢を見た。ただそのときに、「9年間ありがとう」って言ってた。なんのことだろうって思ってた。
でも、その日の夜のニュースで全てがわかった。「小学生くらいの男の子がマンションの15階から飛び降りたと隣人から通報があり、その場で死亡が確認されました。亡くなったのはこのマンションに住む9歳の男児でした。」
怖くなって友人である七瀬ゆりなに相談してみる。
「最近人が死んじゃう夢を見て、本当に怖いんだ」
「お前、相変わらずだな。臆病なところは何も変わってないし、変なことを言うよな」
「今回だけは違うんだよ」
「何が?」
呆れているんだな。いつもの如く変なことを言う僕に。でも僕の友達は彼女しかいなかった。だから諦めずに話してみる。
「今日の、男の子が転落したニュースの前に夢で男の子が死ぬ夢を見たの」
「まじで」
やっと信じてくれた。
「それが正夢になっちゃったんだね」
「うん」
「でもたまたまかもよ?」
「いや」
「まあ、重く考えるなよ」
「わかった、こんなこと言ってごめん」
9月1日。
高校時代の片想いの相手である小森くららの顔が映った。夢だった。でも、なぜかゆりなの顔も出てくる。何かあったと思ってゆりなの家に行くと、玄関には腹にナイフが刺さったゆりなと、それを怯えた顔で見つめるくららが立っていた。
僕は、ゆりなの腹に刺さったナイフを抜いて自分の腹に刺した。
「くららの恋人に捧げます。幸せにしてあげてください。」
心からの望みを語った。
続きます。