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エピローグ:8日目

 幽閉されていた部屋。それは館の一室であるが、部屋を出てみると当の館は薄暗く荒れ果てている。

 それでも、あの部屋以外の光景は新鮮であり、輝かしく見えたのが本当のとこだ。


 闇雲に進んでいくと、玄関ホールに出た。

 天井には火のないシャンデリアがあり、灯れば綺麗だろうなと想像する。


「……」


 目線を上から下げ、外へと繋がっているであろう扉に目を向ける。

 いよいよ室外へ出るのだ。


 5歳の時以来。最早そこは未知の世界と言ってもいい。

 嫌でも緊張と不安が押し寄せるが、カザミショーヤのシャシンを見て落ち着こう。


「……っ」


 綺麗に写るカザミショーヤの姿がそこにある。

 どうしよう。泣きそうになってしまう。

 もう、会いたい。彼の声が聞きたい。

 つい、数時間前まで一緒だった存在が欠けた寂しさに、折れてしまいそう。

 

 でも、もう泣きたくない。

 その涙はカザミショーヤとの再会か、父様との再会までとっておく。


「うおりゃあぁっ!!」


「お待ちしていました」


 泣きたい衝動を振り払うように叫びながら外へ飛び出したフミーを待ち構えていたのは——


「ネオ・ハクターのコピー人形、そんな名義がわかりやすいですかね。まぁ、役目は全うしましたし、もうそんな立場破棄しますけれど」


 本で見て、カザミショーヤから聞いていた彼女が、待っていた。







 ——全てに反応してアタシの鼓動は高鳴っている。


 鳥の鳴き声、風の音、森の匂い、草の感触、広大なる空とそこへ光を差し込む朝日、そして、未知なる相手。

 その未知なる相手の姿で、外へ出た実感を得たのかもしれない。


「あの」


「……あ」


 目の前の彼女がこちらを無表情で見つめている。

 フミーの頬を雫が伝っていた。

 

「泣かないって決めたのに……」

 

 慌てて乱暴に腕で拭う。これ以上涙が溢れる前に誰か殴ってほしい。

 つい数分前の決意すらすぐ破るようでは、これから先やっていけるとは思えないから。


「長い間、お疲れ様でしたね」


 願いとは裏腹に、降ってきたのは拳ではなく労りの言葉だ。


 フミーの願いは、叶わないことばっかり。

 神様、もう少し叶えて。


「ん……。アタシ、フミー。フミー・チョジュラス」


 涙は自力で止め、名を名乗る。

 アタシのことは知っているのかもしれないけれど、自己紹介は大切だ。

 願うなら、これから自己紹介をする機会をもっと欲しい。たくさんの人と関わりたい。

 カザミショーヤと共にあの部屋で過ごすことを願っていたが、それは破られたのだから、新たにそれを願う。


「知っていますよ。……とりあえず、移動しましょう」


「どこに?」


「私の家です」



———



 小屋のような家だった。

 フミーが幽閉されていた部屋よりもずっと小さい。

 その家の中で、白衣を脱いだ彼女とテーブル越しに向かい合って座る。

 へそも脚も腕も露出して、今が暖かい時期とはいえ、寒そうな格好だ。


「紅茶で良かったです?」


「うん」


 好き好んで飲むことはなかったが嫌いではない。

 ただ、母様が好きだったものだから、飲んだら悲しい気持ちになりそうで避けていたものではある。


「爽やかでいい香り」


 こうして、紅茶の香りを嗅いでいても平気なのだから、これからは積極的に飲んでいこう。

 そんなことを思いながら、ティーカップに口を付ける。


「おいしい」


「でしょう。私のお気に入りです」


 これまで、固まったように無表情だった彼女の顔が、仄かに和らいだ気がする。

 『コピー人形』などと称していたけれど、なんだ、全然『人形』ではないじゃないか。


「さて、あなたに状況説明をしましょうか。既知の情報も含まれると思いますが、改めて」


 指を組んで、こちらを視線で射抜く。


「まず、あなたの父は大分前に亡くなっています。チョジュラス家指南役であったネオ・ハクターにあなたを頼むよう遺言を残して。それを全うしようとした彼女に代わり、彼女のコピー人形である私にはあなたを連れ出す役目がありました」


「……コピー人形って言うけど、それってアタシよくわからない。あなた全然人形っぽくないし」


 平坦な口調で説明していく彼女へ、燻っていた疑問を投げかける。

 カザミショーヤからも聞いていた話だが、アタシの頭が悪いせいか、あまり飲み込めていない。他の話に気を取られていたのもあるけれど。


「ネオ・ハクターの記憶、頭脳、能力を植え付けられておきながら、彼女のような情熱も人望もなく、迷走し、100年以上も役目を果たせなかった。そんな下位互換のコピー人形——それが私です。あなたにも、こんなに待たせて悪いことをしました」


「下位互換ってよくわかんないけど、アタシはあなたにとっても感謝だよ。途中で諦めないでいてくれたから、こうしてアタシがいるんだし」


 諦められていたら、カザミショーヤにも出会えなかった。

 死ぬまで、あの部屋で独り。そうならずにいられたのは彼女のおかげだ。

 

「だから、ありがとう。——あっ、そうだ。あなたのことは何て呼べばいい?ネオ・ハクターでもコピー人形でもないでしょう?」


「……」


 彼女は沈黙を作っている。

 変なことでも言ってしまっただろうか。

 何せ154年も幽閉されていたのだ。その間に常識が変わっていても不思議ではない。


「ねぇ——」


「ネオン」


「!」


「役目を全うし、ネオ・ハクターの代わりを終えたら、そう名乗ると決めていました。ネオン。そう呼んでくれると——嬉しい」


 呼びかけようとしたが、それは名前を呟く声にかき消される。

 眉を下げ、先程以上に和らかい表情だ。

 ネオン。その自身の名を呼ぶ声はどこか愛おしげでもあり、強い思いがあることがわかる。


「いい響き。ネオ・ハクターから取ってネオン?」


「私の協力者が私をそう呼んでいたんです」


「協力者……」


「あなたが幽閉されていた部屋に照準を合わせて、あなたの父と近しい魂の者を召喚をするのは並大抵のことではないですから。迷走していた時に本を出版していたんですけど、それがきっかけで出会いまして」


「あ!チョジュラス家について書かれてたあの本!」


 長寿であることを知り、500年生きることを知ったあの本。

 その存在が彼女自身の口から出てきた。


「ご存じでしたか。……その当時の自分なりに色々考えた末のことでしたが、チョジュラス家の情報をばら撒いたことに違いありません。申し訳ありませんでした。例の組織は滅ぼしたとはいえ、長命なあなたを狙いかねない輩は今でもいるのに」


「まぁ、それはいいいけど」


 頭を下げられても困る。

 こっちは、カザミショーヤを召喚してくれた時点で感謝してもしきれないというのに。


「……それで、その協力者と共に導き出した結論が——」


「カザミショーヤの召喚」


「カザミショーヤ。それが、あなたの父親と魂が近しい者の名前ですか」


「うん」


 父様と近い魂と言われてもイマイチピンとこないけれど、彼の名前を口に出し、誰かに教えるというのは不思議な気持ちだ。

 カザミショーヤの話をもっとたくさんしたい気持ちはあるが、話の腰を折らないように抑える。


「……あなたは、その方から何か聞いていましたか」


「蘇生のこと?」


「ええ」


「アタシね、その話を聞いた時、カザミショーヤを選んだの。でも、父親を選べってカザミショーヤに言われてね」


 それを言われた時、湧いてきたのは怒りだ。

 どうしてそんなことを言うのか。

 どうしてフミーが選んだことを否定するのか。

 どうして、あんなにアッサリ言えてしまうのか。


「フミーは長生きだからその間に俺がが生き返る方法探してくれー、なんて、自分勝手だよ」

 

「……あなたは、それでいいのですか」


「ちっともよくない!!!」


 問いかけに、叫んで応える。

 内なる不満をここで爆発させてもしょうがないのに、止まれない。


「よくないよくない!謝っても、好きって言っても許してやらない!」


 勝手に決めて、了解もしていないのに勝手に灰になるんだから酷い人だ。

 酷い。酷い。本当に。バカ。


「でも、そんなカザミショーヤと違って、アタシは好きな人のお願いは叶えるから……だから、まず、父様を生き返らせたい」


「ええ。承知しました」


「……本当に生き返れる?父様と会えるの?」


 カザミショーヤの話を信じていないわけではないけれど、死んだ人間がもう一度生き返るなどおかしなことだ。


「ええ。あなたの父親の場合、正確には復元になりますが」


「復元?」


「……。気にしないでください。——さっそく生き返らせるための研究所へ移動しましょうか。着いてきてください」


「……! うん!」


 座っていたソファから立ち上がり、家から出るネオンへ続く。

 ネオンの家は森の空いた草原に建っていて、心地いい風が吹き歩いている。

 その風に背中を押されてるようだった。

 

 ——父様にいよいよ会える。

 最後に会ったのはあの部屋にフミーを幽閉する時だ。

 最後に交わした会話も昨日のことのように覚えている。


「ちょっと待っててください」


「どうしたの?」


 外へ出てまだ数歩しか歩いていないのに立ち止まるネオン。

 歩きずらそうなヒールでこちら振り返る。


「着替えます」


「わかった。待ってるね」


「いえ、あなたもです」


 ネオンは視線をフミーの顔より下へ移している。

 つられて下を見ると意味がわかった。


 カザミショーヤの灰を回収すべく、大胆にワンピースを千切ったため、もはや、下半身露出に近しい状態だった。


 こうして、再びネオンの家へ入り着替えること十数分。

 ネオンと体格が近かったため、彼女の服はそのままフィットした。


 今のフミーの格好は、長い髪を後ろで団子にし、ハイネックの黒い上着の下に緑のスリット付きワンピースを着ている。

 腰には茶色にポーチを付け、カメラとカザミショーヤのシャシンと灰を仕舞ってある。


「ところで、アタシはともかくネオンはどうして着替えたの?似合ってるけど」


 ネオンは、紺色のベレー帽を被り、黒色をした、ピンと短いネクタイと手袋を付け、黄緑の薄手のスカートを纏って、大きくイメチェンしていた。


「これまでの格好はネオ・ハクターの模倣で、私の趣味じゃありませんでしたから」


「へ〜、じゃあ本当はそういう格好が好きなんだ」


「……まぁ」


 はっきり肯定はしなかったが、その返答は肯定に等しい。

 どんどん彼女のことを知っていく。

 それがフミーには楽しく感じられた。


「アタシも似合ってる?」


「ええ」


「服のサイズ合わなかったら、召喚術を使おうかと思ってたよ」


「そうですか。人目につかないここなら平気ですが、召喚術は世界中で原則禁止なので人前では使わないようにしてくださいね」


「初耳……」


「召喚術使える人はそうそういないんですがね」


 それを知らずに人前で使ってしまったら危ないところだった。

 幽閉されていた分の空白は、やはり大きい。


「そういうの、もっと教えて欲しい。アタシ、全然知らないから」


「じゃあ、研究所へ向かいながら話しましょうか」



———



 時に険しい道を辿りつつ、数十分歩いただろうか。

 真っ白で四角い塔のような建物へたどり着いた。

 自分の髪も白いので少し親近感が湧く。


「ここが研究所『テーキット』です。元はネオ・ハクターの所有物で色々曰く付きですが、現在管理者は私になっています」


「大きな建物だ……」


 フミーが幽閉されていた部屋の何倍も大きい。見上げていると首が疲れそうだ。


 入口の扉の鍵を開け中へ入っていくネオンへ続く。


「——っ」


 足を踏み入れた時、息を呑んだ。


 広い空間だ。フミーの身長より大きな本棚がいくつかと、観葉植物が置いてある。

 一つの部屋の中で二層に別れ、中央に階段があった。

 色は外観同様に白く、雪の中にいると錯覚するほど異質な雰囲気を作り上げている。


「あ、鍵かけてくれませんか?」


「わ、わかった」


 言われた通り、振り返って入り口に鍵をかける。


「こんなとこに盗みに入る物好きはいないでしょうけど、一応ね」


 空間の中央に設置された階段へ足を向けるネオンへさらに続く。

 二階部分も同様に壁も床も白く、この建物はどこも色が付いていないのではないかと思う。


「こっちよ」


 キョロキョロ辺りを見渡してたフミーへ声がかかる。

 奥にある扉を指差していて、その先へ進んでいくようだ。

 離れた距離を詰めて、フミーも着いていく。

 

 その先は複雑な回路であり、辺りを見渡す余裕もなくはぐれないようにネオンへくっついて歩き、数分。

 ネオンの足はある部屋の前で立ち止まる。


「休憩スペース?」


 扉に書かれていた文字を読み上げる。


「ここで待っていてください。お菓子とか、本とかあるのでご自由に」


「ひとり……か……。わかった!」


 これまでネオンと共に行動していたが、またひとりになる時がきたようだ。

 寂しい気持ちを振り払うように明るく返事をする。

 

「……。フミー、やっぱりあなたも一緒にきてください」


「う、うん? わかった!」


 どうして急に言ったことが変わったんだろうか。とにかく先程同様、明るく返事をした。


「私の協力者について話してなかったですね」


 ネオンは歩きながら口を開く。


「彼がいないとあなたの幽閉が解けませんでしたし、あなたの父親を生き返えらせるのも不可能だったでしょう」


「すごいんだね、その人。会ったらたくさんお礼言わなきゃ……!」


 ネオンの口ぶりも、その人への感謝が滲み出ている。

 『ネオン』という名前も元々彼が呼んでいたようだし、凄く仲良しなのだろう。

 

 フミーはすでに、カザミショーヤには及ばないが、ネオンへ好意を持っている。

 その彼女と良好な関係を築いているその協力者とも是非仲良くしたいものだ。


「今度会わせてね」


「今、探しているんですよ。『テーキット』の中にいるはずなんですが……」


「そうだったの……!?」

 

「言ったでしょう。私一人じゃあなたの父親を生き返させるなんてとてもじゃないができませんよ」

 

 いつか会いたい気でいたが、今すぐとは思いもよらなかった。


「ということは……」


 アタシ以外の人間が二人いる状況になるということ。

 カザミショーヤ、ネオン、これまで一対一での会話だったが、三人での会話になってしまう。

 幽閉される前でも、父様との一対一の会話がほとんどであった。


「……」


 緊張——も、もちろんあるが、それ以上にワクワクしている。

 三人で会話とはどんな感覚になるだろうか、ネオンとその協力者がどんな会話をするだろうか、賑やかになるのか、三人ではそうでもないのか。

 

 期待を膨らませながら、ネオンと共に散策していく。


 薬品がたくん並べられた部屋、シャワー室、服がたくさん掛けられた部屋、暗い部屋、寒い部屋、キッチン、トイレ——。


 その期待とは裏腹に、数時間が経過し、建物中どこを探し回っても、その協力者は見つからなかった。



———



「鍵がかかってて中が荒らされてないってことは、外部の人間がここ侵入しリクを誘拐した可能性は低い。ならリクがここに帰ってくる最中か、一旦ここを出て戻ってくる最中に何かあった……?それとも鍵をなくして別の場所にいるとか……。狙われる理由ならいっぱいある。もしあの人に何かあったら——」


 今のネオンはとても平常とは言い難く、混乱しているのが見てとれる。

 小さく円を描くように歩き回り、ぶつぶつと独り言を吐き出している。

 どうやら、『リク』というのが協力者の名前らしい。


「ネオン」


「——案外うっかりだし、森のどこかで寝ているだけとかある。だからまだ慌てちゃだめだよね。うん。私の方が凄く歳上とはいえリクは子供じゃないんだし、そうやってすぐ不安になるもんじゃ——」


「ネオン!!」


「——っ!」


 アタシの存在を失念していたからか、大声で呼んだからか、ネオンの肩がビクッと震えてからこちらを向いた。焦燥を露わにした顔をしている。


「アタシもね、母様が誘拐されたことがあるから気持ちわかるよ」


 誘拐され、そのまま帰ってこなかった。

 当時3歳。できることなど何もない。

 それでも、苦しくて悔しくて辛くて、そんな感情が、今でも思い出せるほど焼き付いている。


「だから、何でも協力する。——何をすればいい?」


「———。ありがとう、ございます……」


 お礼を述べてから、ネオンは大きく深呼吸し、息を整える。


「……リクは、殆どここで寝泊まりしています。最後に会ったのはあなたが幽閉されていた部屋の前で、カザミショーヤを召喚した時なので七日前です。ここに帰ってきていたと思ったんですが……」


「ここに帰ってきてた跡も見当たらなかったよね。誘拐とか何かピンチの可能性もあると……」

 

 推理ものの本をいくつか読んだことがある。食器を洗った跡だったり、飲みかけで放置されていたコーヒーだったり、そんな細かいところから情報を導き出していたが、この場合そんな目ぼしい物も見つからなかったので、帰ってきていないと思った方がいい。


「誘拐なら、リクは……少し特異な力があるので、狙われる理由に心当たりがあります」


「そっか、その狙った相手の心当たりはない?」


「そうですね……。かつてあなた方を狙った例の組織の残党が、再び組織を結成しようとしているという噂がありました。リクの能力が奴らの興味を引いた可能性はあります」


「じゃあその人たちの情報収集して、アジトを見つけて突撃!……かな?」


 敵の情報収集は基本だと本にも書いてあったことだ。特に酒場がいいらしい。


「それがいいでしょうね。丁度、その残党の一人の居場所を知ってるので会いに行きます。フミーも私と一緒に着いてきてください」


「わかった!それだけでいいの?」


「私が弱々しくなったらさっきみたいに大声で名前を呼んでください」


「わかった!」



———



「んげっ!何の用だよネオ・ハクター!!」


 森を突き進み、見晴らしのいい高台に聳え立つ小さな喫茶店。

 カラン、とドアベルを鳴らしながら入ったネオンの顔を見て、店主と思わしき女性は声を荒げる。


「コーヒーは入れなくていいですよ。すぐ帰るから」


「なら今すぐ帰れ、昼・休・憩・中だ!」


 ネオンの気安い態度へ出入り口を指差しながら講義をした。実際、『休憩中』と書かれたプレートが入口の扉にかかっていて、構わず入ったのがネオンだ。


 不満を露わにするその人物、黒い髪を後ろでポニーテールにしてまとめ、胸元とヘソを大胆に露出した、三白眼で目つきの悪い彼女だが、この人が組織の残党だろうか。


「お?何だこの娘、お前とリクとのガキにしては似て——いや、何でもない」


 何かを言いかけたが、ネオンが目を細めたのを見て途中で言うのをやめてしまった。


「アタシは、フミー。ネオンの、お、お友達、かな……。あなたの名前は?」


「ウチはリーゼだ。ネオ・ハクターとは殺されかけた仲だ。……フミー、お前リクと同じ呼び方してるんだな」


 友達を名乗っていいものかわからなかったが、ネオンをチラ見するとよさそうだったので、そのまま名乗って自己紹介をする。

 続けて、目つきが悪い女性はリーゼと名乗った。物騒なことも口にしていたが、今触れる必要性はなさそうだ。

 リーゼの言うリクと同じ呼び方というのは『ネオン』のことだろうか。


「リーゼ、あなたもネオンって呼んでくださよ。私はもうネオ・ハクターとしての役目を終え、ネオンして生きるので」


「かっ。そんなの知るか。ウチの中じゃネオ・ハクターはお前だ」


 ネオンの要求を笑い飛ばし、首をかくリーゼ。


「じゃあ、せめて組織について教えてくださいよ。奴らの残党共が再結成しようとしてると聞いたんです。だったらあなたにも声がかかったはず」


 ようやく本題へ踏み込んだ。

 リーゼがやはり、ネオンの言う残党の一人であった。


「リーゼ、アタシからもお願い、教えて!」


「いきなり呼び捨てすんなよガキ。初対面の相手からお願いされようが、そもそも知らねーよ」


 手を合わせてお願いしたが、何も得られなかった。

 当てが外れたのかと、ネオンの方を見ようとすると——


「リクがそいつらに攫われたかもしれないんです。頼みます」


 深く、頭を下げていた。

 

 さっき、リーゼはネオンを殺されかけた仲と言っていた。

 かつて殺しかけた相手に頭を下げる気持ちも、殺されかけた相手に頭を下げられる気持ちも、フミーには想像つかない。でも、黙って見ていることができなかった。


「アタシは、そのリクって人に会ったことないけど、今ここで、こうしているのはその人のおかげでもあって、感謝しなきゃいけない人で、それを直接伝えたい。だから、お願いします」


 ネオンの隣へ並び、フミーも同じく深く頭を下げた。

 もう一度、ちゃんとお願いをする。


「……。リクに関しちゃホントに知らん。——ただ」


 答えてくれた声へ、二人は顔を上げる。


「再結成へ動く残党から声がかかったってのは当たりだよ。断ったけどな」


 頬杖をし、カウンターテーブルへ重心を預けながら、その真実を口にした。


「奴らの根城は!?」


「近ぇ!!廃墟だ、廃墟!廃墟の館の庭!……この辺りにあるから気が変わったら来いって言われたよ。庭をよく探せば地下への入口があるらしいぜ」


 前のめりでリーゼへ顔を近づけ、詰め寄るネオン。

 そんなネオンへ苦言を呈しつつ、しっかり大事なことを教えてくれた。


「「ありがとう。リーゼ!」」


「仲良しかお前ら!」


 意図せず感謝の言葉がネオンと被ってしまった。

 しっかり情報を教えてくれたり、律儀にツッコミを入れてくれたり、いい人だ。

 

「ところでネオン、その廃墟の館って……」


「この辺りにあるのは一つですね」



———



 フミーが幽閉されていた館。


 チョジュラス家の私有地であり父様曰く、昔は父様の母様、つまりはフミーのお祖母様が住んでいたのだそう。

 しかし、今や管理する者もいなくなり、荒れ果てた場所になっている。


 そんな場所に再びアタシたちは来ていた。


「この場所には、何度も足を運んでるんですが気づかなかったです」


 草が生え放題の庭を眺めて、そう溢すネオン。

 リーゼが言うに、組織を壊滅させた一人であるネオンのことを残党たちは恐れているから、凄く警戒していたらしい。

 ならば、ネオンでは見つけられないような隠し方をされているのではないだろうか。

 ここまであまり役に立っていないフミーだ。腕がなる。


「アタシ、あっちの方探してくるねー」


「じゃあ、私はこっちですか」


 二手に左右で分かれ、草を掻き分け、それらしき入口がないか探していく。

 

「うーん、と」


 地下への道ということで、地面を見なければならず自然と中腰の状態になる。

 この体制を長時間となるとキツそうだ。早く見つけたいところである。

 


「ようやく、目を離しやがったっすね〜」


 

 どこからともなく、声が耳へ入る。

 粘着力のありそうな籠った男声。

 そう認識したのも束の間、


「ぐ、ぁ——っ!!」


 足が地面から離れた。


 咄嗟に前へ、ネオンへ向かって手を伸ばすも離れた距離が埋まるはずもなく宙を描いた。


 そこでようやく、背後から首を掴まれ持ち上げられたことに気づく。


 首へ圧迫感を要求するそれを引き剥がそうと抵抗するが、意味はない。


「フミー!!」


 ネオンがアタシの名前を呼ぶ声がし、苦しさで瞑っていた目を薄く開け確認する。

 奥歯を噛み力んだ顔だ。


「まさかあのフミーを見つけたのもびっくりで歓喜なんだけど、ネオ・ハクターがずっと隣にいて手が出せなかったのは困りものだったっすね〜」


 背後から気だるげな声が聞こえる。

 自身の首を掴むその人物の姿を見ようと、首を動かしてみるも、よく見えない。


「お前……フミーを離しなさい」


「嫌だ。ていうか、そっちこそ動かないでくださいよ。こいつがどうなってもいいんっすか〜?」


 ネオンに威圧されても諸共せず、脅しをかける男。

 きっと彼が本気で力を入れれば、フミーの首一つなど簡単に折れてしまうことだろう。


「悔しそうな顔だな、ネオ・ハクター。お前にされた雪辱、オイラは忘れないっすよ〜」


「なら、私を思う存分ボコボコにすればいいですよ。それで気が晴れたら、その子を解放しなさい」


 恨みを口にする男へ、交換条件を持ちかけたネオン。

 それは、自己犠牲以外の何でもない。


「いや、こいつはこいつで必要だから、解放はしたくないんだけど……。まーあ、あんたは丈夫で簡単には壊れないし、楽しめそうだからいいか。その条件、のんでやりますっすよ〜」


 ネオンが出したそれをアッサリ受け入れた。

 そのやりとりを足をバタつかせて見ることしかできないのがもどかしい。


「抵抗しない意思表示として、片腕でも自分で破壊してみてくれっすよ〜」


 男が指をパチンと鳴らすと、ネオンを目掛けて、黒い物体どこからか飛んできた。


「———」


 ネオンの額に当たる直前、静止する。華麗に彼女が片手で掴んでだのだ。おかげで、その正体がわかる。

 全身が漆黒に包まれたナイフ。

 そのナイフをじっとネオンが見つめる。

 覚悟はできてるとでも言いたげだ。


「ネ、オン……」


 掠れた声が出る。そんな声をだしたところで、今の状況を変えられるわけがない。


 でも、それはダメだ。

 この男が従う保証がない。頭があまり良くないアタシでも、わかる。

 

 ネオンだってわかってるはず。

 それでも、ネオンは一方的にに傷ついて、アタシが守ろうとしている。


 やっぱりそれは、ダメだ。

 

 カザミショーヤのように、勝手に、アタシの前で犠牲になると言うのか。


 そんなのは嫌だ。


 嫌だ。


「ネ、……オ、ン!!」


 首が圧迫された状態の中、声を絞り出し、その名前をなんとか叫んだ。

 さっきよりも、かなり大きな声出た。


 それに反応し、ネオンの視線がナイフからフミーへが移る。


「研究所での、会話、思い出して」


 具体的な指定はしなかった。

 それで、伝わるはずだ。


「……」


 ネオンは双眸を閉じ、大きく深呼吸する。


「おやおや? 妙なマネする気ですか? 本当にこの首へし折りますっすよ〜?」


「いいえ。妙なマネはしません。けど、こうやって喋るだけならいいですよね」


「……何を言う気っすか〜?」


 打って変わって毅然な態度のネオン。

 男の顔は見えないが、きっと怪訝そうな顔をしていることだろう。声から警戒が伝わる。


「フミー、聞きなさい。彼はドットルーパ。——吸血鬼です」


「!」


 血を吸う生物、吸血鬼。本で読んだことがある。

 実在していたのか。

 そして、それを今教えた意味はわかる。


 何故、研究所の会話を思い出せと言ったかには複数の意味があるが、明確な一つとして、

 なんでも協力する、何をすればいい、

 と言ったフミーを、思い出してもらうためだ。

 どうやら、伝わっていたみたいである。


 ——天地創造、この世の理、森羅万象の果てに


「それくらいなら隠してないし、いいっすが〜、あんまり不審なこと——」


「——オファー・コネクタンス」


 ドットルーパの言葉は途中で切られる。


 それも、当然、——流水に抵抗できずに藻がいているのだから。


「ほっ……、と」


 男の手から逃れ、ようやく地面へ足をつける。

 召喚術で上から水を召喚し、滝のような水を味合わせたのだ。


「吸血鬼は流水が弱点なのは通説ですからね。よくやりましたフミー」


「えへへ」


 厳密には流れる水を渡れないと言う話だが、これは言い換えると抵抗できないということと同義である。


 振り返れば、宙から流れ出す水に絡め取られているドットルーパの姿がある。

 カザミショーヤも召喚初日にこの状態になったな、なんて懐かしい気持ちが湧く。


「ゲホッ、ゲホッ」


 ドットルーパの咳き込みと共に、流れる水の音が止んだ。

 召喚の限界になったのだ。


 すると、水に飲まれていたドットルーパの姿が露わになる。


 肩につきそうなほどに黄緑の髪を伸ばし、鋭い瞳で、八重歯が光った中性的な男だ。

 白いマントに身を包み、不気味な笑みを作っている。

 本で見た紳士的なイメージとは離れているが吸血鬼のような奴だ。

 いや、本当に吸血鬼だ。


「はぁ……。種族の弱点が知れ渡ってるとこれだからイヤなんっすよね〜」


 頭をかきながら起き上がる吸血鬼ドットルーパ。


「ゲホッ、ゲホッ……。魔法……いやこれは召喚術か。今の時代に珍しいが、あんたは昔の人間だから納得っすね〜」


「アタシのこと知ってるの?」


「そりゃあの組織にいたし、俺も長生きだし? 当然っすよ〜——おっと」


 会話に割り込むように、ドットルーパへナイフを向けたのはネオンだ。


「今度こそ、殺してやります」


「どうせ殺せないだろうし、痛いのやだし、お断りするっすよ〜」


「———」


 ネオンが腕を振り上げ、空気を裂く音がした、その刹那。

 ドットルーパの太ももに、ナイフが突き刺さっている。

 

「っくぁ!」


 小さく呻き声を上げながら片膝をついたドットルーパ。

 ネオンは彼へ向かって一歩ずつ近づいていく。


「吸血鬼とはいえ、あなたが飛べないことは知っていますからね」


 そのセリフで、決して逃亡させないように、最初に脚を攻撃したのだとフミーは気づく。


 ネオンはドットルーパへ手が届きそうな距離まで来ている。

 そんなに不用意に近づいて大丈夫だろうか、フミーがそんな心配をした矢先、ドットルーパが自身へ刺さったナイフを抜き即座にネオンの首を狙い振るった。

 が、息を呑んだのもつかの間、それをわかっていたかのようにかわしてドットルーパの頭を鷲掴みにするネオン。


「チッ……」


「ヘルシャフト・ソナチネ」


 舌打ちするドットルーパを気にせずに呟いたもの、それは魔法の呪文であった。

 掴んだ彼の頭をネオンが離すと、糸が切れた人形のように倒れ込む。


「ドットルーパに付与魔法をかけて意識を奪いました。こいつは魔法耐性ゼロなのでしばらく起きないかと」


「こ……殺さない?」


「さっきのは方便ですよ。殺そうとしてもどうせ死にませんし、後で牢にぶち込みます」


 例え良くないことをされたとしても、一度自分の関わった相手が死ぬというのは夢見が悪い。

 ネオンの返答でそこは安心だ。


「首、大丈夫ですか?」


「うん、平気だけど、跡残ってる?」


「はい」


「え〜〜。嫌だなあ」


 時間経過で消えるとは思うが、残っていたら父様やカザミショーヤと再会する時に困ってしまうではないか。


「地下への入口どこでしょうかね」


 フミーの杞憂は置いておき、ドットルーパの介入により中断された探索を再開することはや数分。


「あ!ネオン!ネオーン!」


 館の裏へ回り込んで草をかきわけ、地面に錆びた扉を発見したのだった。



———



 扉を開けた先に待ち構えるは、地下へと続く緩やかな階段だ。

 壁にランタンが設置され、足元から天井までしっかり照らされている。その中を二人でゆっくり静かに降りていけば、数分で階段が終わった。


 そこからは、廊下が続いていていくつか扉がある。


「どれに入る?」


「フミーが選んでいいですよ」


「ん」


 小声での会話でネオンに任され、直感的に指差したのは一番奥にある扉だ。

 それにネオンは頷き、足音を殺しながら二人で進んでいく。


「———」


 扉の前に着けば、まず中の様子を探るべくネオンが耳を傾けるも首を横に振る。

 何も聞こえなかったようだ。


 立ち止まるわけにもいかずドアノブに手をかけ、ネオンは慎重に扉を開けた。


「——ぁ」


「あの人は——」


 そこは、牢獄のような一室だ。トイレと布団という最低限のものだけ置かれている。

 布団の上では金髪の男が恐らく付与魔法が施されているであろう厳重な目隠しをされ、足に枷を付け壁に繋がれたまま横になっていた。

 小さく吐息を漏らしたネオンへ尋ねようとする前に、ネオンはその人の元へ駆けていく。

 その様子に彼の正体を察しつつ、同じく近づく。


「リク! リク…っ!」


「……ぐー、……ぐー」


 必死に名前を呼びながら、彼の目隠しをナイフで付与魔法ごと切ったのだろう。パリン、とガラスの割れたような音が鳴った。

 その彼——リクは目を閉じて寝息を立てている。

 そんな二人の様子を見守っていたが、後ろから物音がしたことに気づく。


「何だ?騒がしいな」「監禁部屋からだ」


 この根城に身を潜めた者が、ネオンの声、もしくは付与魔法を切った音を聞きつけたのだ。

 ネオンは気づいた様子もなく、リクを起こそうと必死になっている。

 邪魔をしないよう、こっそり部屋を出た。


「だっ、誰だお前ッ!」「まさかあいつを逃がそうと!?」


「———」


 廊下に待ち受けていたのは二人の男。

 小太りのバンダナを付けたおじさんに、痩せ細った無精髭のおじさんという対照的な組み合わせだ。


「とにかく、こっちに来い!」「怪しい奴! たっぷり話を聞かせてもらうからな!」


「あの、ドットルーパに声をかけられてここに来たんですが、聞いてませんか?」


「……何!? ドットルーパさんにか…!」「そうでしたか! ご無礼を失礼!」


 乱暴に腕を掴まれたところで、リーゼの話を思い出し利用させてもらった。

 さん付けで呼ばれているあたり、ドットルーパの部下だろうか。フミーの咄嗟の演技にすぐ騙されているのは敵ながら心配であった。


———



「ううん……。……ん。……おはようネオン。久しぶりに顔を見た気がするよ」


「……! 起きるのが遅いですよ! よくこんな状況でスヤスヤ寝ていられますね……っ!」


「状況……ああ、そうだった。僕は監禁されてたんだ。ネオンは助けに来てくれたんだね。ありがとう」


「そうですそうです! 友達と一緒に助けに来たんです! だから、さっさとこんな場所出ますよ!」


———


「あ、靴紐解けちゃった!」


「ぐあっ!!」


 しゃがみ込んだ、と見せかけて小太りの男の足へ、念のため回収してきていたナイフを掠らせる。

 ネオンの真似をしたけれど、突き立てるのは流石に躊躇した。それなのに、ドットルーパとは違い、大きいリアクションをしながらすっ転んだ。

 そこから流れるように小太りの男の首筋へナイフを当てる。


「……」


「……っ!!」「……っ!!」


 一瞬のことについていけずにいた痩せ細った男はその行動の意味を理解し、両手をあげ無抵抗を示した。

 小太りの男も首筋に突きつけられた感覚に抵抗をしない。


 足を狙ったのはネオンを参考に。

 そこから首筋にナイフを当てて脅したのはドットルーパを参考に。


 召喚術は少々リスキーと判断した。

 なら、二人の成人男性をナイフ一本で倒せるかと言われると難しい。

 その結果として考えたのが、脅して行動を封じるということ。


 脅しに屈してくれるほど仲間意識がない可能性もあっが、都合よく進んで一安心。


 ネオンとリクがいる部屋からは、二人の声が薄ら聞こえてきている。

 リクが無事目覚めたようであり、よかった。


「フミー!」


 部屋からネオンが勢いよく出てきて、その後ろにはリクがいる。


「「ネ、ネオ・ハクタ〜〜!?」」


 ネオンの姿を見た途端、対照的な容姿の二人の男は恐れ慄く声を上げた。


 この二人の処遇に関してはネオンが決めてくれることだろう。



———



「やあ、フミー。改めてはめまして、リクです」


「はめましてリク! フミーです!」


 ドットルーパとその部下二人を自警団へ突き出すべく、町へ降りていったネオン。

 

 その間、研究所へ二人で戻り休憩スペースで今はお菓子を食べている。


「このクッキーおいしいね!」


「中にチョコが入っているのがいいよね。僕のお気に入りなんだ」


 リクは薄い金髪で、アシンメトリーな白衣を着て、黒い手袋をしたオッドアイの少年だ。ひょっとしたら青年かもしれないけれど、とにかく若い外見である。

 ネオンやドットルーパ、フミー自身のことを考えると実年齢は想像つかない。


「リクって何歳?」


「19歳だよ」


 試しに聞いてみると外見通りの年齢が帰ってきた。

 今の時代、何歳で大人として扱われるのかわからないがギリギリ少年と言えなくもないだろうか。


「フミーの年齢知ってる?」


「159歳」


「当たり!」


 140歳差である。

 しかし、リクは穏やかで落ち着いていて、精神年齢はフミーより年上かもしれない。

 自分が幽閉された5歳の時の精神で止まっているとは思わないが、本でしか知識を得られず、独りで学びを得ることしかできなかった。どうやっても限界がある。


「リク、ありがとう」


「どういたしまして」


 突然お礼を言ったのに、表情一つ変わらず受け止められる。

 その感じがなんだか心地よい。


「ねぇ、リク、カザミショーヤの話を聞いてくれない?」


「カザミショーヤ?」


「アタシの、好きな人」


「そっか。じゃあその話をした後に、ネオンの話を聞いて欲しい」


「……。リクはネオンが好きなの?」


「ああ。そうだよ」


 こうして、互いに好きな人の話をする時間が始まった。



———



 時計を見ればもうすぐ日付が変わってしまいそうな時間だ。


「今日色々あって疲れたし、眠くなってきたなぁ……」


 目を擦りながら眠気にどうにか耐えるが限界だ。


「空き部屋にベットがあるから案内するよ」


「んー、父様が生き返って最初に見るのはアタシがいい……」


「ネオンが帰ってきても、すぐ生き返らせられるわけではないんだ。色々複雑だからね。だから、今は体を休めた方がいいんじゃないかな」


「……うん。わかった。寝るから案内して」


 ネオンは事情聴取で遅くなっているだろうと言う話だ。

 リクもいるし、そのネオンが帰ってきたらすぐ父様を生き返らせられると思ったが、違うらしい。

 大人しく今日は寝ることにしよう。


 休憩所を後にし、部屋を案内してもらう。


「おやすみ。いい夢を」


「おやすみ!」

 

 挨拶をしてリクと別れ、白いベットへ入る。

 あまり弾力のないベットに対して、やたら柔らかく弾力のある布団で、チグハグだ。

 枕は低くめで違和感がある。

 あの部屋で使っていた枕を持ってきた方がよかったかもしれないが、贅沢は言ってられない。

 疲れているし、すぐ寝付けることだろう。


 


 今日、色々なことがあった。外へ出て初日だというのに。


 たくさんの人とも会話した。


 自分以外の誰かと誰かが会話しているのもたくさん見た。


 一対一ではなく3人以上での会話も味わった。


 大変だった時もあるけど楽しかった。


 あの部屋にいたら経験できなかったことをたくさん経験した。


 ありがとうカザミショーヤ。


 けど、やっぱりあなたがいないと嫌だ。


 あなたの姿が恋しい。


 あなたの声が聞きたい。


 あなたと話がしたい。


 あなたに話を聞いて欲しい。


 まだ、先になるだろうけど、絶対、絶対、絶対、生き返らせるから、その時、アタシの経験した物語を、あなたのおかげで始まった物語を、聞いて欲しい——







———







「フミー、一方的に悪い」


「これはお前の夢だ」


「だけどこの俺の声は本物だ」


「一緒に何度か『召喚』をしただろう」


「それで繋がっているみたいなんだ」


「だけど、導線が弱い」


「今晩限りだろうな」


「どこかの誰かみたいに何度も現れられて、何なら会話もできたらよかったんだが」


「一方的に声を届けられるだけだ」


「もう一度謝るよ」


「ごめん」


「俺はフミーに謝らなきゃいけないこといっぱいだな」


「こうして肉体のない、よくわからない存在になって思うのが、またフミーと」


「いや、やっぱこれはなし」


「俺が願うのは一つ、フミーの幸せだ」


「俺には今フミーがどんな様子かわからないけど」


「外に出て良いことがあったなら、いいな、塵になった甲斐がある」


「悪いことがあったなら、ごめん、俺のせいにしていい」


「ところで、父親のことは生き返させられたか」


「俺のことはいい感じに伝えてくれると嬉しいよ、なんてな」


「」


「」


「」


「フミー」


「いつか、俺のことがどうでもよくなってもいい」


「なんて、言ったら怒るか」


「怒るよな」


「ごめん、また謝るよ」


「でも実際そう思う」


「それはそれとして」


「これはさっき言いかけたことだけど」


「フミーとまた会いたいよ」


「」


「」


「」


「最後に」


「もし」


「俺が生き返れた時」


「俺がいない、フミーの物語を」


「聞かせてく欲しい」













ここまで読んでくだりありがとうございます。1章終了です!


物語はさらに2章へ続いていきます。

活動報告ではキャラのイメージイラストをこれからも載せますのでそちらの方もよろしくお願いします!

(なお、7日目を投稿したタイミングで章タイトルを追加したことをここにご報告)

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