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召喚され少女と密室二人きり、俺が死ぬまでの七日間。そこから始まるアタシの物語  作者: うさぎさう
4章 【そこから始まったアタシの物語】

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4章6話:アイリスの襲来

 冷たい檻越しにアヤートは吸血鬼の男へ目線を向けた。

 アヤートに任せられた役目は吸血鬼の男——ドットルーパの監視だ。ドットルーパの元を離れることに不安を覚えていたアープルを見て自分が監視をすると挙手したルルーミャ。しかし、結果としてルルーミャがアープルたちと同行することになり、代わりにアヤートがすることになった役目である。

 警戒は常に怠らない。その状態のまま疑問を解消するべく話しかけた。


「少し気になることがあるんだけれど、いいかい?」


「どうかしたっすか〜?」


 下手なことをできないようにするための付与魔法付き手錠に足枷、目隠しをされた吸血鬼は声に反応し、アヤートを向きながら軽薄に答える。


「君の仲間はチョジュラスの槍を狙わず、何故世界征服なんて真似をしようとしているんだい?」


「はー、そんなことっすか〜」


 アヤートの疑問を鼻で笑いながら、手錠をジャラジャラと鳴らすドットルーパ。


「アイリスがオイラの部下の住処にやってきて、そっからオイラが知る。そこで情報は打ち止めなんだよ。オイラは銀黒の魔女やログライフに死者蘇生できる槍をフミーが持ってるなんて話してない」


「そうか」


 答えるドットルーパへアヤートはら本命の質問の前の前振りのようなものであり淡白な返事で済ませた。


「もう一つ聞きたいんだけど、いいかい?」


「聞いてみるがいいっすよ〜」


「アイリスさんは強いのかい?」


「……」


 ピタッとドットルーパの動きが固まる。沈黙が流れた。ドットルーパはその質問を投げかけたアヤートの心中を理解する。


「ああ……、覚えてるんだ。昔、あんたを組織に捕らえたのがアイリスだって」


「……いや、正確にはちょっと違うかな」


 アヤートが覚えているのは、能面をつけた黒い着物の人物にやられたことだ。連戦で数の暴力、魔法で誤魔化しが効かないほどに疲労が蓄積し限界の中、奇襲され地に伏した。

気絶する直前に見たのが能面。次に目を覚ました時には研究所内の実験室だった。


「アイリスさんが組織の人だったって聞いて、もしかしたらって思ったんだけど、本当にそうなのか……」


 不思議と恨む気持ちも憎む気持ちもなく、悲しみともまた違う複雑怪奇な感情がアヤートの心に灯る。

 しかし、もし自分の大切なものを彼女が踏み躙ろうとするのならば容赦はしない。

 確かなことはそれだけでいい。


「しっかし、強いのかって質問で言うと……あんたやネオ・ハクターよりは弱い、リーゼやフミーよりは強いってくらいしか言いようないっすね〜」


「君よりは?」


「意地の悪い質問だ。まぁ、オイラは死なないんで勝てるけど、強さで言えばアイリスでしょうっすね〜」



———



 ——場所は、研究所『テーキット』。


「ぐっ……」


 頭を抑え、苦痛に顔を歪ませても尚、リクは槍から手を離さない。離してしまえば楽になれるがそれでは意味がないのだ。


「鼻血出てるぞ、ティッシュいるか?」


 リクのそばで座って様子を見守るリーゼが呼びかける。

 リクに言葉を発する余裕はなく、ただ頷いて片手を呼びかけたリーゼへ向けた。なので、ティッシュを数枚取ってリーゼはその掌へ乗せる。


 フミー不在の時であれ、チョジュラスの槍の解析をリクは進めたかった。

 槍の解析はいつも以上に能力の反動が大きいのもあり、始めて数週間経っても未だ槍の実態は半分もわからない。仄かな焦りとがリクを突き動かしていた。

 リーゼの役割はそのリクのストッパーのようなものだ。戦闘能力のないリクを一人研究所に残すのをネオンが不安がったというのもあるが、リクが能力を使いすぎて危険な状態にならないための見張りをするためにリーゼは来ていた。


「リク、そろそろ休んだらどうよ」


 汗が滝のように流れ、呼吸が荒くなり苦しそうなリクを見かねて、リーゼは座ったまま休息することを提案する。


「うん、そうする」


 素直に従って槍から手を離し、脱いでいた手袋を付けて倒れるように床に座り込んだ。


「お前に何かあったら今度こそウチがネオに殺されかねないからな。気をつけろよ」


「あはは。でもちょっと面白いことがわかって——」


 釘を刺すリーゼに力なくリクは笑い、何かを言いかけた時。


 ——そんな、瞬間だった。


 鼓膜を破るような爆発音が聞こえたのは。


 一階から、低く響く音が、振動が、衝撃と共に伝わってくる。


「———っ!!」


「今の……」


 リーゼとリクは顔を見合わせ、一階へと急いで駆けていく。


 一階の様子はいつもと変わらず、やたら白い壁と床がヒビすら入らず綺麗にある。そもそも、アヤート直々の魔法耐性と物理耐性の付与魔法を研究所に付与されているため、壁に穴が空くなんてよっぽどのことがないと有り得ないので当然だ。しかし、建物へ攻撃をしてきた存在がいるのは確かだ。その証拠に、外へ繋がる扉から透明感のある声が聞こえてくる。


「いるんやろう? ぼくをここに、入れてくれへん?」


 リクには、聞き覚えのない声だった。しかし、リーゼは知っている。


「アイリスさん……」


 様々な意味で思い出深いエルフの里の旅館の女将。その人の声だ。


「リーゼさん、ぼくのこと思い出してくれた?」


「ああ……」


 フミーから聞いて、リーゼは思い出していた。彼女が組織『テーキット』にいたことを。感じていた既視感の正体を。

 

「昔見た時は仮面付けてただろ。そりゃ、気づかなかったわけだ」


「ぼくは、すぐ気づいたわぁ。……そやさかい、なんでアヤートさんたちと一緒におるやろうって不思議に思うとったんどす」


「それは自分でも不思議だよ」


 扉越しで会話をしながら、リーゼは凄まじい威圧感を感じて体が強張る。

 一旦深呼吸をし、横にいるリクへ顔を近づける。


「なんとか隙を作るから、アヤートさん呼んできてくれるか?」


 アヤートは現在、王都にいる。リクの足だと20分前後ほどだ。それくらいならなんとかなると踏んで、リーゼはリクへ頼んだ。

 リーゼの耳打ちを意外に思ったリクは少し驚いてから静かに頷いた。


 アヤート直々の付与魔法がかかった研究所に篭もっていれば安全のはずだ。それで、相手をやり過ごすのが賢い選択。それでも、リーゼがその時選んだのは、その道だった。

 それを受け入れたリクは顔を引き締める。


「先にウチが飛び出して気を引くから、1分したらお前も飛び出して、行け」


「気をつけてね、リーゼ」



———



 勢いよくアイリスの前へ飛び出してまず、弱い風の魔法でアイリスを攻撃する。——と見せかけて地面へと魔法を叩きつけ、砂埃を起こした。視界を悪くすることでリクが逃げやすいフィールドを作る。

 1分経ち、命じた通りリクが出ていったのを確認してから、研究所の入り口に鍵をかけた。預かったものであり、もちろん『予備』の鍵だ。

 そこでようやく砂埃が晴れて、今一度アイリスとリーゼが互いの姿を確認して対面した時、研究所の鍵をリーゼは掲げる。

 砂埃の中、アイリスがリーゼよりも数段洗礼された風の魔法で容赦なく攻撃されたため、リーゼの肉体は切り傷だらけでピリピリと痛みを訴えているが構わなかった。


「その鍵は研究所のものどすか? 寄越してくれしまへん?」


「あむっ」


 見えるように堂々と、リーゼはその鍵を口へ放り込んだ。

 大きな鍵ではなく、掌にすっぽり収まる程度の小ささの呑み込みやすい鍵で助かった——などと思いながら。

 突然の愚行にアイリスは眉を上げ、リーゼはしてやったりな気分になる。


「アイリスさん、あんたのお仲間の魔女が前にここめちゃくちゃにしてよ、その時鍵を新調したんだ。——だから、今のが『唯一』のここの鍵」


「へぇ……」


「あんたらの目的は、チョジュラスの槍だろ。渡すわけには行かないからさ」


「……つまり、槍のためにぼくはリーゼさんの腹を裂かないとあかんのどすか」


「そーなる」


「なんでそこまでするんどすか? フミーさん——あの子もひょっとして魅了が使えるん?」


「なんでって、……そりゃあウチがあいつの協力者だからってだけだ」


 いつかの花畑で、協力して欲しいと言い、一緒にいると心強いと言い、言われたリーゼは訳がわからなかった。

 何故そんなにも真剣で真っ直ぐな目を出会ったばかりの人間に向けるのか。本当に掴みどころのない少女。

 手を取った理由は曖昧なもので確かなものはない。

 ——それでもリーゼはフミーの協力者なのだ。


「はぁ、眩しいわぁ。……ほんと、リーゼさんはそっちで、なんでウチがこっちなんやろ」


 忌々しげにアイリスは目を細め、リーゼに聞こえぬ声量で呟いた。

 

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