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召喚され少女と密室二人きり、俺が死ぬまでの七日間。そこから始まるアタシの物語  作者: うさぎさう
4章 【そこから始まったアタシの物語】

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4章2話:前振り



 フミーもドットルーパも名乗りを上げた人物へ目を奪われる。

 アープル。そう言った。

 隊長さんとフミーはこれまで呼んでいたが、そんな、甘く可憐な名を持っていたのかと、場違いにも心を弾ませる。


「くっ……。また、邪魔をするっすか〜?」


 ドットルーパは大きな瞳を鋭く細めてアープルを睨みつけ、苦々しい声を出した。

 それに怯むこともなく、アープルはドットルーパへ刀を振りかざす。避けきれず、ドットルーパの服に刀が擦り、切れた布が散る。

 容赦なく間を空けずにまた、アープルは刀を振る。振って、振って、振る。

 必死にもがくようにドットルーパは避けるも、かわしきれず、肩を流血させた。

 それでもアープルは容赦などせず、続ける。


「そんな刀じゃなくて、そいつの持ってる槍を使ってくれよ。そうすればオイラは死ねるっすよ〜?」


「———」


「チッ……」


 大きく飛び退いて刃先をかわし、フミーを指さしてドットルーパが訴えるも虚しく、アープルは何も言わずにただ刀を振り続けた。

 そのことに舌打ちをしながら、ドットルーパは避け続ける。


「——う」


 ドットルーパが小さく息を漏らすのと同時に、ボトッと、彼から何かが落ちた。


「——っ!」


 それを見た瞬間、フミーは声にならない悲鳴を出す。

 それは、斬り落とされたドットルーパの右腕だ。綺麗な斬り口から、断面が見える。

 しかし、その状況を狙い通りだったかのように彼はニヤリと笑みを浮かべて呟く。


「片腕斬らせて首を断つってね」


 斬られていないドットルーパの左腕にいつの間にか握られた漆黒のナイフがアープルの首を目掛けて輝いた。

 

「——あ、れ」


 しかし、その刃はアープルまで届かない。虚しく地面へと落ちていく。

 それと時を同じく、気の抜けた声を上げ、ドットルーパの身体はあちこちズレて崩れ始めた。

 その崩れた彼の身体の肉片もまた、綺麗な断面をしていた。


「不老不死なあまり、痛みに鈍くなったのかしら。吸血鬼」


 斬られていたことに気づかなかった男へ冷ややかな言葉をぶつけるアープル。瓦礫の山のように折り重なる肉片となったドットルーパへゆっくりとアープルは近づく。これほどのことをやって彼女は息一つ乱れていない。


「流石にそれほどバラバラになれば、再生にも時間がかかるわよね」


 小さく呟きながらポケットから黒い袋をアープルは取り出す。大人の人間がすっぽり入りそうなほど大きな袋だ。その袋には『内側から破れない袋』と白い文字で書かれている。袋にドットルーパの肉片を淡々と詰め終えてから、アープルはフミーへと首を動かし視線を向けた。


「……隊長さん」


「その槍」


 フミーの手元——チョジュラスの槍を彼女は指差す。


「この吸血鬼男が自分を殺せるとか言ってたけれど、本当なの?」


「……そのはずだよ」


「そう。なら、渡してちょうだい」


「殺すの?」


 小さな声でフミーは問う。


「軌道修正不可なほどに邪悪な男ではないけど、悪の男よ。そして悪に転じる理由は自分が死ぬため。なら、そうするしか道はないわ」


 灰色の瞳にドットルーパが入れられた黒い袋を映しながら、ただ言葉を紡ぐアープル。


「殺すのはあーし。白髪で紅色の瞳の君、だから、その槍を貸してくれないかしら?」


「……アタシは」


 渡してしまえばいい。それで自分が不利益になることはない。

 そう判断を下しているのに、フミーの体は固まっていた。


「———!」


 凍りつくフミーへアープルは手を伸ばし、頬に触れる。細く柔らかな指がフミーの形を確かめるように肌を這う。


「ああ……。あなたの雪のような魂は自分を守るために硬い雪塊のようになってしまったのね」


「……ぅ」


 アープルの指先は温かい。その体温が頬から伝わる。彼女の芯の熱さを感じる。その熱がフミーの心を溶かすようだった。

 優しく触れる手を薙ぎ払うことなど容易いが、そんなことは躊躇われる。

 だから、ただアープルを紅色の瞳に映し、見据えた。


「いいわよ。嫌ならそう言ってくれても。捕えるだけで済ませるから。——だから、白髪で紅色の瞳の君、あなたの気持ちを教えてくれないかしら」


「白髪で紅色の瞳の君じゃない。——フミー。フミー・チョジュラスだよ、アープル」


 アープルを見据えながら、初めて彼女の前で名乗る。

 ようやく互いに名前を知り合ったわけである。


「ねぇ、アープル」


「なぁに、フミー」


「アタシの気持ちって許されるの?」


「気持ちに、感情に正義も悪もないわ」


「でも、持ってたら苦しい感情もあるよね? 無かったことにした方が楽なものが」


「そうね。でもなくすことなんてできない。完全に断絶することなんてできやしない。少なくとも、君は封じ込めているだけだわ。」


 アープルの瞳は痺れるほどに凛々しい。しかし、その瞳の視線が絶えず自分へ注がれることに安心感を覚える。


「フミー、君の心の真っ白さをあーしは知ってる。君の気持ちを他ならぬ正義を愛するあーしが許容する。許す。だから、言って」


 フミーは自分の顔に触れているアープルの手に、槍を持っていない方の自分の手を重ねる。少しだけ、重ねた手に力を込めた。

 その行動が予想外だったのか、アープルの無表情な顔は薄く驚きを宿す。


「アープルにこの槍は貸せない。だって、誰かが死ぬところなんて見たくないし、……もし、殺す必要があっても、この槍はアタシの物だから、この槍で殺す必要があるなら、その時は、アタシが使わないとダメだよ。——それが、アタシの責任」


 クロシェットを一人で死なせた、一人で抱えさせたフミーの贖罪だ。揺らいで、揺らぎまくったフミーの結論だった。


「そう。フミー、君がそう言うなら受け入れるわ。持ち物を無理矢理奪うなんて悪いこと、あーしはできないし」


 両目を閉じて頷くアープルに、胸にほのかな温もりを感じながらフミーは微笑んだ。


「ちょっと、それだとオイラは困るんっすよ〜?」


 穏やかな空気に切り込む特徴的な口調、それはドットルーパ以外にない。アープルが持つ黒い袋の中から彼の声がくぐもって聞こえる。袋が揺れ、存在を確認できる。


「あら、もう喋れるほどに再生したのね」


 手に持つ黒い袋へアープルは視線を向けた。

 

「オイラは死にたいんっすよ〜!!」


 さらに大きく袋を揺らし、騒ぎ始めるドットルーパ。


「そうは言っても殺さないわ。……よってこのまま監獄に入れてが四六時中見張られることになる。今度は脱走なんてさせないわ。覚悟することね」


「は〜〜。ただでさえ生きてるだけで苦痛なのに、そんなのもっと苦痛。嫌すぎるっすよ〜」


 嘆いてもアープルは耳を貸さず、表情も変わらず無表情のままだ。

 しばらく足掻いた後、袋の中は静かになりドットルーパは大人しくなる。


「——フミー」


 落ち着いたと思ったらドットルーパはフミーへ呼びかける。


「オイラ諦めないから。お前に必ずオイラを殺してもらうんで覚悟するっすよ〜」


 槍を握る手に力が籠る。

 執念を宿すその言葉に、フミーもアープルも何も返さなかった。沈黙の中に風が吹き、不穏な展開を予感させた。



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