3章29話:結び〈3〉
「いらっしゃい——ってお前か」
「客ですよ一応」
森の中の開けた場所に聳え立つ喫茶店。リーゼが経営するそこへネオンは足を運んでいた。
いつものようにぶっきらぼうなリーゼにネオンは親しげに微笑む。
「紅茶と甘いもの」
「なんでもいいのか」
「うん」
小さく舌打ちしつつリーゼはオーダーされたものの準備をする。
ネオンはカウンターから少し離れた窓際の席へ座った。何度か来ているが、彼女は席にこだわりがない。その時の気分だ。
「おらよ」
リーゼは紅茶と甘いものをネオンの前へ無造作に置くと、さっさとカウンターに戻る。
「パフェですか。前に来た時はありませんでしたよね」
「新メニューだな」
話題に出したパフェがまず目につくが、いきなり食べず、まずは湯気が立ち上る紅茶に口をつけるネオン。それからパフェにふんだんに使われたクリームをスプーンで取り口へ運ぶ。
「おいしっ」
「そらよかった」
味の感想など興味ないのか、カウンターテーブルを掃除しながら投げやりにリーゼは答える。
「んで、何の用だ。ただ茶飲みに来ただけかよ」
「いえ、話をしに」
「何の話——」
言いかけたところで、ネオンは対面の席を指差す。座れということだ。
「……他に人いねぇし、いいけどよ」
リーゼは少し面倒くさそうに肩をすくめてから、指示通りにネオンの対面の席へどっかり腰を落とす。それから気怠げに足を組んだ。
「別に特別な話があるわけじゃないんですよ。フミーに頼まれて様子見に来ただけです」
エルフの里から一同が帰ってきてすでに数週間経過している。その間フミーは魔法と槍を扱う特訓に集中しリーゼと顔を合わせる機会は減っている。そのためフミーはネオンに頼んだのである。
「相変わらずのようでなによりで」
ネオンはそう言ってから小気味良いテンポでパフェを口に入れた。パフェの容器とスプーンが当たる音が鳴る。
「かっ。何か起こることなんぞそうそうないからな。相変わらずだよ」
そう返してリーゼは頬杖をつく。
そこからどちらかが話すことなく数秒の間があり、その間ネオンはパフェを完食する。
そして紅茶を啜った。
「チョジュラスの槍の解析を慎重に進めているんですけどね、死者蘇生は簡単できないみたいです」
「へー」
「命……とか何かしらの犠牲を払う必要がありそうで」
「…………」
「どうかしました?」
これまで天井やら床に適当に視線を向けていたリーゼはネオンの顔を見た。リーゼの黒く小さな瞳にとあるエルフの影が揺らめく。
「それ、クロシェットさんが知ってた可能性あるよな」
「……え?」
何故突然その人物の名が出てきたのか、とネオンは首を傾げる。
リーゼは少し迷ったが、話すことにした。
クロシェットの娘が組織に誘拐されて死んでいたこと。クロシェットにそれを告げたこと。その翌日に彼女は消えたこと。
「——それをあなたはずっと気にしてたんですね」
淡々と紡ぐ言葉に含まれるリーゼの感情をネオンは感じ取る。
付き合いはそれなりに長い。聡くなくともそれを見抜くことは容易かった。
「いーや、今思い出すまで忘れかけてたくらいだぞ」
「そうですか」
考えるようにネオンは顎に手を当てる。
「彼女は旅をしていたそうですし、どこかで槍のことを知っててもおかしくないですよね」
自身の命が犠牲となり役に立てるのなら。生きる理由をなくし、それを死ぬ理由とした。そんな風に推測もできる。
「そもそも本当に死んでるのかも定かではないでしょう。姿が見えなかっただけなんですから。仮にそうだとしても、あなたが何も言わなくても変わらなかった可能性もあります。例えば元々里帰りしたのは死ぬためだったとか……。だとしたらあなたから最後に真相を教えてもらえてよかった思いますけど」
「何長文で喋ってんだよ」
ネオンがリーゼを慰めるも伝わらず怪訝な顔をされる。
「とにかく可能性は複数あるということです」
そう投げやりに話をまとめ、紅茶を飲み干すネオン。
リーゼはため息をつきながら、カップとパフェの容器を片付ける。
「もう用は済んだろ。帰れや」
「そうですね。最後に一つ個人的に聞きたいんですけど……」
「あ? なんだよ」
ニヤニヤとしながら頬を染めるネオンに怪訝な顔をするリーゼ。
「その……両親の前でこの人が心に決めた人って宣言されるのはプロポーズなんでしょうか」
「惚気なら他所でやれ」
———
風で木々が揺れる音がし、遠くで鳥が鳴いている。
森の中の開けた草地。そこに一人で立っていた。
「———」
——槍を振るう。
今日で何回目かわからない。
こうして振り回し始めて何日目かもわからない。
ただ、最初の頃よりも断然、この手に馴染む。自分の一部かのようだ。
槍——とは言っても、先端に光魔法で刃を生やせば鎌へと変化する。天使どころか死神か。尚、光魔法以外でできないかは研究中だ。
フミーはチョジュラスの槍を使いこなしていた。
父様は褒め、ネオンは誇らしそうにし、リーゼが感心する。それが今のフミー。
周りに槍を使える人なんていない。槍の使い方を教えてくれる人なんていない。それはむしろ良かった。唯一無二の武器になる。
「はぁ、はぁ……」
乱れた髪が汗ばんだ頬に張り付く。
こうして毎日何時間も独学で練習してきた。
襲ってきた野生生物を仕留めたこともある。
「——!」
静寂な森に、ガサガサと葉が揺れ、誰かが迫る音がする。
野生生物か。茂みを注視しつつ、槍を握る手に力が籠る。
鋭く目を細め、槍を構えた。
「そんな警戒しなくてもいいっすよ〜」
姿が現れると同時に聞こえてきたのは気の抜けた声だった。
「別に何かする気はないっすし〜」
黄緑の髪。鋭く圧迫感のある瞳。八重歯。その特徴的な喋り方。
「ドットルーパ」
彼の名を喉から絞り出す。
「オイラのこと覚えてくれてたんっすね〜」
ドットルーパは不敵に笑った。
あと1話ちょっとした番外編を投稿予定ですがこれにて3章完結です
読んでくれた方ありがとうございます!
3章の解説というか補足を活動報告にあげてるのでよかったらご覧ください
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