3章21話:ご褒美
いくら足をかけようと、階段は終わらない。歩むことをやめ、ネオンとアヤートは立ち止まった。
「天井や壁じゃなく、床を壊してみるのはどうだろう」
爪先でトントンと音を鳴らしながら石段を見下ろすアヤート。
「いいですよ。このままだと一生同じ景色ですし」
提案に、壁にもたれかかって天井を見ていたネオンは頷き、アヤートと同じく石段を見下ろす。
「同時に打ち込みましょうか」
「うん。……提案しておいてなんだけど、ちゃんと壊れてくれるかな」
「壊れなかったらその時はその時で」
アヤートの杞憂をネオンは微笑んで受け流す。
そして、二人は石段へ手をかざす。
同時に魔法を発動した。打ち合わせなどしなかったが、奇しくも二人とも同じ炎魔法を使っていた。
赤く燃え盛る炎が、冷たい石段を這い、熱く染め上げる。
盛大な音を放出しながら床は崩壊し、足場は崩れ足が宙を蹴る。
魔法を放った場所は自分の足元ではなく、少し離れた先にも関わらず、二人が足をつけていた場所まで崩れたのだ。いや、それだけには止まらない。石段の全ては崩れた。繋ぎ止めていた糸が切られ解けたように。バラバラと連鎖的に。
地下階段のさらなる地下へ落ちていく。何が待ち受けているかは定かではない。
それでも、無限に続く廊下を歩くよりは正解な道だろう。
「よっと」
「……っと」
ネオンとアヤートは綺麗に着地し、地面へ足をつけた。
「ここは……」
二人はぐるりと辺りを見渡す。
辿り着いた場所は縦横50メートルほどの正方形型な空間だ。石壁とは打って変わって土壁で扉が一つあるのみ。部屋の中心には大きな木箱が置いてある。
「ミミック(模倣)魔物かもしれない。気をつけて」
「ええ」
徐に木箱へ近づくネオンへアヤートは注意を促す。ネオンは軽快に返事をした。軽やかに足を進め、木箱の前へしゃがみ込む。
木箱は縦横高さが60センチほどの立方体だ。至って普通の木箱であり魔物の気配はしない。
それが確認でき、躊躇なく木箱へ手を伸ばした。
「えいっ」
勢いよく蓋を開ける。
「こ、これは……」
ネオンは声を震わせ、瞳を見開く。
「どうしたんだい?」
衝撃で固まるネオンへ後ろで様子を伺っていたアヤートは近寄る。そして、木箱の中身を覗いた。
「——!」
その中身は、アヤートにも衝撃をもたらした。
「金銀財宝……」
それがなんなのか、アヤートは現実感を確かめるように呟く。
木箱いっぱい煮詰まったその輝かしい夢の塊を見て、二人はゆっくり顔を合わせる。
「こっこれだけあれば、研究所を金ピカにできますねっ!」
「待って待って」
子供のように目を輝かせるネオンを手で制止するアヤート。彼は冷静さを呼び戻していた。
「これは、エルフの里の遺跡にある物なんだから勝手に僕らの物にはできないだろう」
「勝手じゃなければいいんですね。じゃあ、里の人たちに確認して魔物退治の報酬として受け取りましょう」
名案とばかりに頬を緩ませながら、ネオンは人差し指をアヤートへ突き出した。
「これだけあるんだし里の人たちと山分けでもいいんじゃないかな」
「欲がなさすぎですよ」
「そっちこそそんなに俗っぽかったっけ」
「いいですか。何をするにもお金は大事なんですよ」
と、そんな会話をしながらもネオンは金銀財宝が入った木箱を軽々と持ち上げた。
「分配については後で決めるとして……出口はあそこしかないっぽいね」
薄笑いを浮かべながらアヤートが視線を向けたのは、この場に一つだけある扉だ。二人が落ちてきた天井の穴はいつのまにか塞がれており、そこしか道はない。
箱を持って両手が塞がっているネオンに代わりアヤートは扉を開けば、眩い光に包まれた。思わず目を閉じる。その光は身を焦がしそうなほど熱い。
そして、再び目を開いた時には景色が変わっていた。
地上の遺跡へと足をつけていたのだ。
その一変に夢から覚めたような感覚になる。
「……結局、アレは金銀財宝を隠すために作った隠し部屋ってことなのかな」
ネオンが大事そうに抱えた木箱を横目で見ながら、アヤートは呟く。
「まっ、なんでもいいですよ。さっさと帰りましょう」
「ああ、そうだね」
足早なネオンの後をアヤートは続いた。
「あ、肝心の魔物避け付与魔法かけるの忘れてた」
「あ」
忘れていた目的をアヤートが思い出し、二人は立ち止まり、遺跡を出ることを一旦やめるのだった。
———
しっかり付与魔法をかけ終え、遺跡を後にする二人。
持ち帰った金銀財宝は結局のところ、ネオンとアヤートが多めに里にいる人たちみんなで分け合った。
そしてフミーたちともネオンらは合流する。
「リーゼ」
「あん?」
フミー、ネオン、リーゼ、アヤート一同がようやく揃った中、ネオンはリーゼへ話しかける。
「遅かったですね。私は一番最初に着きましたけど」
「ほー。運が良かったんだな」
リーゼは手に持った袋をいじり、じゃらじゃらと音を鳴らしながら適当に答えた。その袋には、先ほど分配された金銀が入っている。
「それ、何に使いますか? 私は研究所の修理に当てますけど」
リーゼが握った袋を顎で示しながらネオンは尋ねれば、リーゼは考えるように瞳を閉じた。
「……いい飯でも食いにいくかな」
「へー、奢ってくださいよ」
「あ? まぁ、いいけどよ」
「いいんですか。金に頓着しないんですね」
話の流れ的に二人は一緒にご飯を食べる約束をするのだった。
「そういえば、リーゼ」
「あん?」
「……いえ、なんでも」
ネオンは、もう一つ尋ねようとしたが、それは押し込めた。再会してリーゼの顔を見て以来、ほんの小さな違和感を感じていたがそれはきっと気のせいだと結論づけた。
一方フミーとアヤート。
「フミーはどうするんだい?」
臨時収入の使い道をアヤートもまた尋ねていた。
「貯金かな。いつお金が必要な時が訪れるかわからないし」
「しっかりしてるね」
そう言ってアヤートはフミーの頭を撫でる。撫でた手から伝わる髪の感触は以前と違っていた。乱雑に切られてあるためそれも当然のこと。
しかし、その不揃いさにアヤートはわずかな違和感を感じる。
「フミー、どうやって髪を切ったんだ?」
「光魔法でだよ。弱い威力でこう、すっ、と。変になっちゃったけど、これはこれでオシャレに見えない?」
フミーは、父親からの視線に微かな疑念が混ざったことを即座に感じ取った。だから、逆に不審なほど大げさに明るく、嘘をつく。
「そうか。アシンメトリーなのがオシャレかもしれないね」
屈託のない娘の様子に、アヤートの中の小さな疑念は掻き消える。
フミーは、約束を破ったこともイタズラしたこともあるが、隠し事を父親にしたことはなかった。だから、フミーの隠し事は成功するのだ。その可能性はアヤートの中にないのだから。
そうやって隠し事をすることをフミーは平然とやってのけた。それこそが隠し事をする理由であった。
以前の彼女ならしなかっただろう。それに耐えられないほどに弱かった少女なら。
今の耐えられる自身へ、強さと価値を見出したフミーは、果たして幸福なのかどうか。それはフミー自身が決めることでしかないのである。
その後、フミーたち一同にクロシェットとルルーミャを加え夕食を取り終える。入浴もすまし、就寝する。なごやかなものだ。
そして、エルフの里での物語はもう少し続く。
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